回盲部を中心に侵す腸炎の鑑別診断をまとめました。

有名どころはエルシニア、結核、クローン病です。

炎症が、右半結腸や小腸にも及ぶ場合はさらに鑑別診断は増えてきます。回盲部は盲腸・虫垂・回盲弁・回腸末端が近接しているため、病変が複数の構造に及んで鑑別に迷いやすい部位です。CTでは、壁肥厚の程度と範囲、層状の造影パターン、壁肥厚に比べた脂肪織濃度上昇の強さに加え、リンパ節・腸間膜の変化、膿瘍や瘻孔、脂肪増生などの随伴所見を組み合わせて鑑別を絞り込みます。

先に結論:回盲部炎(回盲部の腸炎)の鑑別

回盲部(かいもうぶ)とは、小腸の終わり(回腸末端)が大腸(盲腸)につながる右下腹部の部分です。おへその右下、右の腰骨(骨盤)の出っぱりの内側あたりの奥にあり、虫垂もここから出ています。リンパ組織が多く腸の内容物がとどまりやすいため、炎症が起こりやすい場所です。

原因 手がかり
エルシニア 子どもに多い。豚肉など。回腸末端の壁肥厚と回盲部のリンパ節腫大(腸間膜リンパ節炎)。虫垂炎とまぎらわしい
カンピロバクター・サルモネラ・腸炎ビブリオ 鶏肉・卵・魚介など。発熱・下痢
腸結核 回盲弁の変形・輪状潰瘍・狭窄。ステロイドで悪化するためクローン病との区別が重要
クローン病 若い人。縦走潰瘍・狭窄・瘻孔、病変が飛び飛び
悪性リンパ腫など 壁の著しい肥厚、腫瘤
腸管ベーチェット病 回盲部の深い潰瘍(打ち抜き様)。穿孔に注意

CTでは回腸末端〜盲腸の壁肥厚と周囲のリンパ節腫大を確認し、虫垂炎(虫垂そのものが腫れる)と見分けます。※右下腹部痛が強い・続くときは受診してください。

回盲部はどこ?位置とCTでの見つけ方

回盲部は、お腹の右下(右下腹部・右腸骨窩)にあります。体の外からの目安では、おへその右下で、右の腰骨の前の出っぱり(上前腸骨棘)よりやや内側の奥です。虫垂炎の痛みが出る場所とほぼ重なります。

構造 位置・目印
盲腸 大腸のいちばん始まりの袋状の部分。上行結腸を下へたどった行き止まり
回腸末端 小腸の最後の部分。骨盤の中から左内側→右外側へ上がってきて盲腸の内側に入る
回盲弁(バウヒン弁) 回腸末端が盲腸に入る所の弁。CTでは盲腸の内側の壁に唇のような膨らみとして見え、脂肪を含んで低吸収に見えることもある
虫垂 回盲弁より下で盲腸から出る細い管。向きは人によってさまざま
回盲部のリンパ節 回腸末端・盲腸に向かう回結腸動脈・静脈に沿って、右下腹部の腸間膜に並ぶ
うしろの構造 右の腸腰筋・腸骨筋の前に乗り、右の尿管や精巣・卵巣の血管が近くを通る

CTで回盲部を探すときは、上行結腸を下へたどって盲腸を見つけ、その内側に入ってくる回腸末端と回盲弁を確認するのが近道です。腹部CTの全体の見方は腹部CTの解剖、画像診断cafeの腹部CTの正常解剖ツールでは、スライスを動かしながら構造をタップすると名前が表示されます(無料・登録不要)。

回盲部炎とは?症状と原因

回盲部炎は、ひとつの病名ではなく、回腸末端から盲腸にかけての回盲部に炎症が起きた状態をまとめた呼び方です。原因は感染性腸炎が多く、ほかにクローン病・腸結核・腸管ベーチェット病などがあります。

  • 症状:右下腹部の痛みが中心で、発熱や下痢を伴うことがあります。エルシニア・カンピロバクター・サルモネラによる感染性の回盲部炎では、右下腹部痛が目立って下痢はないか軽いことがあり、虫垂炎とまちがわれやすいと報告されています(Puylaert 1997)。
  • 画像:感染性の回盲部炎では、回腸末端と盲腸の壁がむくんで厚くなり、腸間膜リンパ節が腫れる一方、虫垂そのものは正常です(Puylaert 1997)。超音波やCTで「虫垂が正常で、回腸末端・盲腸の壁が厚い」ことを確かめるのが虫垂炎との区別のポイントです。
  • 経過:感染性の回盲部炎は多くが自然に治まる病気とされています(Puylaert 1997)。症状が長引く、くり返す、体重が減るといった場合は、クローン病や腸結核などを考えて内視鏡などで調べます。

右下腹部の痛みが強い・続く、熱が下がらないなど気になる症状があれば、医療機関を受診してください。

回盲部とは?場所と回盲部リンパ節炎

  • 回盲部は、回腸末端・回盲弁(バウヒン弁)・盲腸・虫垂が集まる右下腹部の部分です。虫垂炎、腸炎、リンパ節炎の痛みがいずれも右下腹部に出るため、CTで「どの構造が主に腫れているか」を見ることが鑑別の第一歩になります。
  • 回盲部リンパ節炎(腸間膜リンパ節炎):CTでは、右下腹部の腸間膜に5mm以上のリンパ節が3個以上集まるものと定義した研究があります。この所見があった60例のうち、ほかに異常のない原発性は30%で、残りの70%はCTで原因となる炎症性の病気が見つかりました(Macari 2002)。腹痛のない外傷患者60人ではこの所見は0人、急な腹痛の60人では5人(8.3%)にとどまり、見つかったときは多くの場合で原因の病気を特定できるとされています(Macari 2002)。
  • 回盲部リンパ節炎の原因:上のように、回盲部のリンパ節の腫れは多くがまわりの炎症の結果です。回腸末端炎(エルシニアなどの感染性腸炎・クローン病)、虫垂炎などを探し、それらがなく単独でリンパ節だけが腫れているときに原発性の腸間膜リンパ節炎と考えます(Macari 2002)。リンパ節腫大を見たら、まず回腸末端・虫垂・盲腸に原因がないかを探します。
  • 一方、外傷でCTを撮った健康な120人でも47人に短径3mmを超える腸間膜リンパ節があり、最大のものの平均は4.8mmでした。5mm未満の小さなリンパ節は、健康な人では臨床的な意味がないとされています(Lucey 2005)。

回盲部の腸炎の鑑別診断

  • エルシニア:小児に好発
  • 結核
  • Crohn病
  • 悪性リンパ腫
  • 腸炎ビブリオ
  • カンピロバクター
  • 腸管ベーチェット病・単純性潰瘍(回盲部の潰瘍)

 

関連記事

 

エルシニア

  • 回腸末端炎(腸間膜リンパ節炎)を引き起こす。
  • 豚肉や生水などから感染する。
  • リンパ組織との親和性が強く、回盲部のリンパ濾胞を主とする病変を形成し、リンパ節へ移行する。
  • 診断は、便培養や血清抗体価測定など。
  • CTにて、回腸末端に壁肥厚を認める。また回結腸動脈沿いにリンパ節腫大をきたす。右半結腸に及ぶことがあるが、回腸末端に限局することが多い。

関連記事)回腸末端炎のCT画像診断、鑑別、原因、症状は?

腸炎ビブリオ

  • 海産魚・貝などから感染。
  • 産生毒素により病原性を生じる。
  • CTにて、下部小腸〜右半結腸に壁肥厚を認める。

結核性腸炎(腸結核)

  • 回盲部に好発。
  • Crohn病と誤診してはいけない。ステロイドを投与すると増悪するので注意。
  • 臨床症状は、下痢、嘔吐、悪心、イレウス、血便、腹部膨満、右下腹部痛。
  • 合併症は狭窄による通過障害や腸閉塞、腸穿孔、膿瘍、瘻孔形成。
  • 診断は便の結核菌培養や、病理組織診断による乾酪性肉芽腫および菌体の証明。
  • 病型は潰瘍型、腫瘤形成型、混合型に分類。
  • 潰瘍型では腸管内の結核菌が粘膜下へ浸潤し、リンパ濾胞内に結核結節を作る。この結節が粘膜面に破れ小潰瘍を形成、融合して大潰瘍を作る。
  • 潰瘍治癒の線維化時に腸管狭窄を来す。
  • 穿孔や瘻孔形成は回腸末端に多い。
  • 小腸のリンパ流が腸間膜対側のリンパ濾胞から腸管長軸に対して垂直に流れることで潰瘍が腸管軸に直角または斜めとなるため、狭窄の形態は輪状、帯状となる。
  • 回盲部や結腸、空腸下部に好発する理由は、
  1. 内容物が生理的に停滞しやすい。
  2. パイエル板などのリンパ組織が豊富にある。
  3. 胃酸による菌の発育抑制が少ない。

ことが考えられる。

  • 診断は、病理での結核菌の証明、乾酪壊死を伴う肉芽腫の証明など。

腸結核の画像所見

  • CTはCrohn病に類似。一方、CT上Crohn病を示唆する所見としては、comb sign(感度82%・特異度81%)とskip lesion(感度86%・特異度74%)の診断能が高いと報告されています(Kedia 2017)。
  • 壁の線維化を反映した均一濃染。著明な壁肥厚。壁肥厚は偏心性。瘻孔形成。
  • 周囲リンパ節の腫大を伴うことがある。
    リンパ節内部の壊死(低吸収)は感度約23%と低いものの特異度はほぼ100%で、Crohn病との鑑別に最も有用な所見とされる(Kedia 2017)

症例 50歳代男性

回盲部結核 CT
引用:Radiopaedia(Ileocecal tuberculosis)

手術の病理で確かめられた回盲部結核の造影CTです。回盲弁から回腸末端・上行結腸にかけて全周性の壁肥厚があり、腸管周囲の脂肪織に毛羽立ち(濃度上昇)がみられます。この症例ではリンパ節腫大や胸部の陳旧性結核の所見もありました。

腸管ベーチェット病(回盲部潰瘍の鑑別)

  • 口内炎(口腔内アフタ)をくり返す血管炎で、消化管では回盲部が最も侵されやすく、深い潰瘍が穿通・穿孔することがあります。CTでは腸管壁の肥厚が最もよくみられる所見です(Ebert 2009)。
  • 回盲部の潰瘍では、クローン病(縦走潰瘍)・腸結核(輪状潰瘍)と並んで鑑別に挙がります。

回盲部炎でよくある疑問(Q&A)

Q1. 回盲部炎と虫垂炎はどう違いますか?

どちらも右下腹部が痛みますが、虫垂炎は虫垂そのものが腫れるのに対し、感染性の回盲部炎では虫垂は正常で、回腸末端と盲腸の壁が厚くなり腸間膜リンパ節が腫れます(Puylaert 1997)。超音波やCTで虫垂が正常かどうかを確かめることが区別の決め手です。

Q2. CTで回盲部のリンパ節が腫れていると言われました。

健康な人でも小さな腸間膜リンパ節はよく見つかり、5mm未満で他に異常がなければ臨床的な意味はないとされています(Lucey 2005)。一方、5mm以上のリンパ節が右下腹部に集まっているときは、7割で腸炎や虫垂炎などの原因が見つかっています(Macari 2002)。

Q3. 回盲部周囲炎とは何ですか?

回盲部のまわりの脂肪組織や腹膜にまで炎症が広がった状態を指して使われる言葉です。虫垂炎や憩室炎、クローン病などの炎症が回盲部のまわりに広がったときにみられ、CTでは回盲部周囲の脂肪織の濃度上昇や膿瘍の有無を確認します。

参考文献

  1. Kedia S, Sharma R, Sreenivas V, et al. Accuracy of computed tomographic features in differentiating intestinal tuberculosis from Crohn’s disease: a systematic review with meta-analysis. Intest Res. 2017;15(2):149-159. PubMed
  2. Matsumoto T, Iida M, Sakai T, et al. Yersinia terminal ileitis: sonographic findings in eight patients. AJR Am J Roentgenol. 1991;156(5):965-7. PubMed
  3. Purysko AS, Remer EM, Filho HM, et al. Beyond appendicitis: common and uncommon gastrointestinal causes of right lower quadrant abdominal pain at multidetector CT. Radiographics. 2011;31(4):927-47. PubMed
  4. Burrill J, Williams CJ, Bain G, et al. Tuberculosis: a radiologic review. Radiographics. 2007;27(5):1255-73. PubMed
  5. Hoeffel C, Crema MD, Belkacem A, et al. Multi-detector row CT: spectrum of diseases involving the ileocecal area. Radiographics. 2006;26(5):1373-90. PubMed
  6. Bruining DH, Zimmermann EM, Loftus EV, et al. Consensus Recommendations for Evaluation, Interpretation, and Utilization of Computed Tomography and Magnetic Resonance Enterography in Patients With Small Bowel Crohn’s Disease. Gastroenterology. 2018;154(4):1172-1194. PubMed
  7. Macari M, Hines J, Balthazar E, et al. Mesenteric adenitis: CT diagnosis of primary versus secondary causes, incidence, and clinical significance in pediatric and adult patients. AJR Am J Roentgenol. 2002;178(4):853-8. PubMed
  8. Lucey BC, Stuhlfaut JW, Soto JA. Mesenteric lymph nodes: detection and significance on MDCT. AJR Am J Roentgenol. 2005;184(1):41-4. PubMed
  9. Puylaert JB, Van der Zant FM, Mutsaers JA. Infectious ileocecitis caused by Yersinia, Campylobacter, and Salmonella: clinical, radiological and US findings. Eur Radiol. 1997;7(1):3-9. PubMed
  10. Ebert EC. Gastrointestinal manifestations of Behçet’s disease. Dig Dis Sci. 2009;54(2):201-7. PubMed

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