消化管の粘液産生腫瘍
- 消化管における粘液癌は比較的まれであり、胃では5.7%、大腸では6〜11%と報告されている。
- 大腸における粘液癌は主として細胞外に大量の粘液を産生し、粘液の結節を形成するため、内視鏡では、粘膜下腫瘍様に隆起する像が見られることがある。
- また、粘液癌はMRI検査では粘液が貯留していることによりT2強調像で高信号を示し、術前に粘液癌と診断することができる。
- 一方、胃の粘膜癌はCTやMRIで指摘することは困難。
虫垂原発の腫瘍の鑑別診断
- 切除虫垂ではカルチノイドが49%と最も多く、次いで粘液腫が25〜37%、腺癌が2〜8%である。
- 虫垂はその解剖学的特徴から内腔に粘液が貯留しやすく、虫垂が嚢胞状に腫大した状態を虫垂粘液腫(appendiceal mucocele)という。頻度は虫垂手術症例の0.08〜4%。この状態を起こすものとして、
①虫垂粘膜の過形成による内腔閉塞(10%)
②粘液嚢胞腺腫(30%)
③粘液嚢胞腺癌(60%)
などがある。
虫垂粘液嚢胞腺腫appendiceal mucinous cystadenoma
- 虫垂粘液腫(appendiceal mucocele)の主な原因の一つ。
- 症状は、右下腹部の腫瘤触知、疼痛、発熱など。20-30%は無症状。
- 破裂、穿孔または捻転により急性腹症として手術されて診断されることもある。
- しばしば卵巣の嚢胞性疾患を合併することがある。
画像診断
- MRIでは腫瘤は典型的にはT1強調像で低信号、T2強調像では高信号の腫瘤として描出される。
- 破裂した場合、腺腫でも腹膜偽粘液腫に進展する可能性があることから、早期の外科手術が必要とされる。
症例 60歳代女性
骨盤内正中〜右側にかけて前後に伸びる均一な腫瘤性病変あり。
盲腸辺りから連続しているように見えます。
T2WIで内部は高信号で管状の構造をしています。
管状の壁にのみ造影効果を認めます。
手術にて、虫垂粘液性嚢胞腺腫と診断されました。
虫垂粘液嚢胞腺癌appendiceal mucinous cystadenocarcinoma
- 肉眼的および組織学的に粘液嚢胞腺腫と鑑別することは困難。
- 粘膜下層以深の虫垂壁への浸潤像を認めるか、腹腔内に穿破した粘液内に悪性細胞を認めれば悪性と診断される。
- Higaらは虫垂粘液嚢腫における粘液嚢胞腺癌の頻度は12.3%であったとしている。
虫垂粘液嚢胞腺癌のCT所見
- 虫垂粘液嚢胞腺腫との鑑別は困難。
- 虫垂壁の造影される場合や、虫垂内腔への乳頭状隆起、限局性に結節部分を有する場合などは粘液嚢胞腺癌が示唆されると報告あり。
appendiceal mucinous neoplasm
- 明らかな異型を示すものから、粘液性嚢胞腺腫と鑑別な困難なものまでスペクトラムは広い。したがって、この一群の腫瘍をappendiceal mucinous neoplasmと総称し、4群に分ける方法が提案されている。
- 粘液が虫垂に限局しており、腫瘍細胞に高度異型や浸潤像を認めない群(腺腫相当)
- 低異型度を示す粘液産生性腫瘍で、腫瘍成分を伴わない粘液塊のみが腹膜に存在する群(低異型度粘液腫瘍で再発リスクが低い)
- 低異型度を示す粘液産生性腫瘍で、腫瘍成分を含む粘液が虫垂以外に存在する群(低軽度粘液腫瘍で再発リスクが高い)
- 高度異型を示す粘液産生性腫瘍で、浸潤を示す(粘液癌)
※この分類によると5年生存率はそれぞれ、①②が100 %、③が79%、④が28%と報告されており、虫垂以外に腫瘍成分を有する粘液塊がみられた場合は、再発のリスクを考慮する必要がある。
まとめ 虫垂の嚢胞を見たら
虫垂の粘液嚢胞(appendical mucocele)を見た場合、
①過形成
②腺腫
③癌
の可能性を考え、レポートに記載する。明らかな壁肥厚がなければ、①、②のみを鑑別に挙げる。ただし、②③の画像における厳密な区別は困難。
参考文献:
- 臨床画像 Vol.27, No.11,2011 P1299-1300
- 腹部のCT(第3版)P365-366