日常の胸部CTや腹部CT、椎体CT(もしくはMRI)を読影していると、脊椎や関節の画像で関節にガス像(air)を目にすることがあります。
これはvacuum phenomenon(真空現象)と呼ばれるものですがその正体は何なのでしょうか?
先に結論:vacuum phenomenon(関節・椎間板のガス)
- vacuum phenomenonは、関節や椎間板の中にガス(主に窒素)が見える所見で、多くは加齢による変性(椎間板の変性・変形性関節症)か、撮影時の姿勢で関節が引っぱられたことによるもので、それ自体は心配のない所見です
- 椎間板のガスの多くは変性によるものですが、化膿性椎間板炎でもガスがみられることがあり、ガスだけで感染は否定できません。またつぶれた椎体の中のガス(intravertebral vacuum cleft)は、骨粗鬆症による骨折の治りが悪い状態(偽関節・Kümmell病)を示し、転移による骨折よりも良性を示唆します
- ただし、周りの腫れ・骨の破壊・液体のたまりを伴う場合は、感染などほかの原因も考えます
vacuum phenomenonの定義とメカニズム

- vacuum phenomenon(別名:pneumoarthrosis)とは、関節腔や椎間板内に生じるガス像のことである。
- 椎間で最も頻度が高いが、胸鎖関節、肩関節、仙腸関節、股関節、恥骨結合などで見られることがある。
- これは物理的な意味での「真空」ではなく、関節腔内が陰圧になることで、周囲の組織に溶解していた窒素ガスが気化したものと考えられている。
- 加齢に伴う椎間板・関節の退行性変化と強く関連している。椎間板や椎体のガスは主に窒素で、椎間板変性のほか、椎体骨髄炎、Schmorl結節、骨壊死を伴う椎体圧潰などでもみられる(Resnick 1981)。
- 一方で、小児で胸部写真で肩を押し付けたり、股関節を広げて撮影(frog-leg position)したりする際に、関節腔内が陰圧になることで一時的にガス像が見られることがある。
- 外傷などで急激な陰圧が加わった際にも生じるが、これらは変性によるものとは異なり、基本的には良性の病態で時間の経過とともに消失する。
- ItoらのMDCT研究では、腕挙上位では肩関節に約9%、胸鎖関節に約20%で関節内ガスがみられ、その多くは腕を下げると消失した。著者らは、このガスを四肢の牽引によって生じる臨床的に重要性の乏しい所見と結論している。
- したがって、vacuum phenomenonは体位依存性の牽引性ガスと退行変性に伴うガスの両方を考えるべきである。つぶれた椎体内のガス(intravertebral vacuum cleft)は虚血性の椎体圧潰(骨壊死)を示す所見で、悪性腫瘍や感染との区別に役立つ。ただし仰臥位にすると1時間以内にガスが液体に置き換わり、T2強調像では高信号の液体として見えるようになるため、撮像のタイミングに注意が必要である。
- 関節を鳴らす際に出る「ポキポキ音」も、この気泡が生じるときの音であることがシネMRIを用いた研究で示されている。
椎間板のvacuum phenomenon(椎間板内のガス・air)の頻度
- 60歳以上の腹部CT 1,898例の検討では、腰椎の椎間板内ガスは50.3%にみられ、年齢とともに増えた。部位別ではL5/S1が46.3%、L4/5が23.9%と、腰仙部に近いほど多かった(Cawley 2024)。
- CTでは椎間板内の空気と同じ黒い線状・帯状の影、MRIではどの撮像法でも無信号のすき間として見える。
症例 60歳代女性 スクリーニング

L4/5に椎間板腔の減高および椎間板にガスを認めます。
また前方へ骨棘形成を認めています。背景に変形性腰椎症があります。
vacuum phenomenonを疑う所見です。
症例 80歳代女性 スクリーニング
右胸鎖関節内に少量のガスを認めています。
変性所見を伴っており、vacuum phenomenon が考えられますが、上肢挙上で撮影されておりその影響も考えられます。
周囲軟部組織腫脹や骨破壊性変化は認めません。
関節間にガスを認めた場合、vacuum phenomenon以外の可能性は?
胸鎖関節でも仙腸関節でも、ガスの意義は「ガスがあること」そのものではなく、「どのような背景と随伴所見があるか」が重要。無症候性で、少量の関節内ガスが関節裂隙に限局し、骨破壊や周囲炎症を伴わなければ、vacuum phenomenonとして扱えることが多い。 一方で、次のような所見を伴う場合は単なる vacuum phenomenon として済ませるべきではない。
- 関節包の明らかな拡張
- 周囲脂肪織濃度上昇や液体貯留
- 骨びらん、骨破壊、骨髄炎を疑う所見
- 後胸骨や胸壁、骨盤周囲への膿瘍形成
- 明らかな外傷性離開や骨折線
- 骨内ガス
vacuum phenomenonでよくある疑問(Q&A)
Q. 椎間板にガスがあれば感染(化膿性椎間板炎)は否定できますか?
A. 否定できません。化膿性椎間板炎135例の検討では23.0%に椎間板内ガスがみられました(Schömig 2022)。別の検討では、化膿性椎間板炎の99%に周囲の蜂窩織炎や膿瘍がみられ、変性例ではみられなかったため(Keil 2025)、ガスの有無よりも周囲の腫れ・膿瘍・骨の破壊を確認することが大切です。
Q. 「vacuum」とはどういう意味ですか?
A. 英語で「真空」という意味です。実際は真空ではなくガス(主に窒素)がたまったものですが、vacuum phenomenon(真空現象・バキューム現象)と呼ばれています。
腰や背中の痛みに発熱を伴うときや、痛みが強くなっていくときは、早めに医療機関を受診してください。
参考文献:
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- Nagarajan K, Mishra P, Velagada S, et al. The air inside joint: a sign of disease pathology or a benign condition? Cureus. 2020;12(6):e8479.
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- Cawley DT, Simpkin A, Abrahim E, et al. Intradiscal vacuum phenomenon matches lumbar spine degeneration patterns in an ageing population. Eur Spine J. 2024;33(5):2014-2021. PubMed
- Schömig F, Li Z, Becker L, et al. Gas within the Intervertebral Disc Does Not Rule Out Spinal Infection-A Case Series of 135 Patients with Spontaneous Spondylodiscitis. Diagnostics (Basel). 2022;12(5):1089. PubMed
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