日常の胸部CTや腹部CT、椎体CT(もしくはMRI)を読影していると、脊椎や関節の画像で関節にガス像(air)を目にすることがあります。
これはvacuum phenomenon(真空現象)と呼ばれるものですがその正体は何なのでしょうか?
vacuum phenomenonの定義とメカニズム

- vacuum phenomenon(別名:pneumoarthrosis)とは、関節腔や椎間板内に生じるガス像のことである。
- 椎間で最も頻度が高いが、胸鎖関節、肩関節、仙腸関節、股関節、恥骨結合などで見られることがある。
- これは物理的な意味での「真空」ではなく、関節腔内が陰圧になることで、周囲の組織に溶解していた窒素ガスが気化したものと考えられている。
- 加齢性に伴う退行性変化や肉体労働、スポーツなどによって生じるの変性と強く関連している。
- 一方で、小児で胸部写真で肩を押し付けたり、股関節を広げて撮影(frog-leg position)したりする際に、関節腔内が陰圧になることで一時的にガス像が見られることがある。
- 外傷などで急激な陰圧が加わった際にも生じるが、これらは変性によるものとは異なり、基本的には良性の病態で時間の経過とともに消失する。
- ItoらのMDCT研究では、腕挙上位では肩関節に約9%、胸鎖関節に約20%で関節内ガスがみられ、その多くは腕を下げると消失した。著者らは、このガスを四肢の牽引によって生じる臨床的に重要性の乏しい所見と結論している。
- したがって、vacuum phenomenonは体位依存性の牽引性ガスと退行変性に伴うガスの両方を考えるべきである。
- 関節を鳴らす際に出る「ポキポキ音」も、この気泡が生じるときの音であることがシネMRIを用いた研究で証明されている。
症例 60歳代女性 スクリーニング

L4/5に椎間板腔の減高および椎間板にガスを認めます。
また前方へ骨棘形成を認めています。背景に変形性腰椎症があります。
vacuum phenomenonを疑う所見です。
症例 80歳代女性 スクリーニング
右胸鎖関節内に少量のガスを認めています。
変性所見を伴っており、vacuum phenomenon が考えられますが、上肢挙上で撮影されておりその影響も考えられます。
周囲軟部組織腫脹や骨破壊性変化は認めません。
関節間にガスを認めた場合、vacuum phenomenon以外の可能性は?
胸鎖関節でも仙腸関節でも、ガスの意義は「ガスがあること」そのものではなく、「どのような背景と随伴所見があるか」が重要。無症候性で、少量の関節内ガスが関節裂隙に限局し、骨破壊や周囲炎症を伴わなければ、vacuum phenomenonとして扱えることが多い。 一方で、次のような所見を伴う場合は単なる vacuum phenomenon として済ませるべきではない。
- 関節包の明らかな拡張
- 周囲脂肪織濃度上昇や液体貯留
- 骨びらん、骨破壊、骨髄炎を疑う所見
- 後胸骨や胸壁、骨盤周囲への膿瘍形成
- 明らかな外傷性離開や骨折線
- 骨内ガス
参考文献:
- Ito H, Yoshikawa T, Hayashi N, Ohtomo K. MDCT demonstration of intraarticular gas in the glenohumeral joint and sternoclavicular joint with reference to arm position. Radiat Med. 2008;26(7):422-426. doi:10.1007/s11604-008-0253-8
- Kawchuk GN, et al: Real-time visualization of joint cavitation. PLOS One. 2015 Apr 15;10(4):e0119470.
- Nagarajan K, Mishra A, Kosaraju K, Singh S. The Air Inside Joint: A Sign of Disease Pathology or a Benign Condition? Cureus. 2020;12(6):e8553.
- Ray P, King IC, Thomas PSW. Vacuum phenomenon in the shoulder of a child. BMJ Case Rep. 2019;12:e226724.
- Patten RM, Dobbins J, Gunberg SR. Gas in the sternoclavicular joints of patients with blunt chest trauma: significance and frequency of CT findings. AJR Am J Roentgenol. 1999;172(6):1633-1635.
- Johnson MC, Jacobson JA, Fessell DP, Kim SM, Brandon C, Caoili E. The sternoclavicular joint: can imaging differentiate infection from degenerative change? Skeletal Radiol. 2010;39(6):551-558.
- Uluc ME, et al. Vacuum phenomenon in multiple joints; prevalence and association with age and gender. J Anat Soc India. 2018;67:175-180.
- Lo SSM, Atceken Z, Carone M, Yousem DM. Sacroiliac joint vacuum phenomenon—underreported finding. Clin Imaging. 2011;35(6):465-469.
- Sze MJ, Mulligan MJ. Reliability of vacuum phenomenon in the sacroiliac joint as a sign of traumatic injury. Emerg Radiol. 2002;9:100-102.
- Takata Y, Higashino K, Morimoto M, et al. Vacuum phenomenon of the sacroiliac joint: correlation with sacropelvic morphology. Asian Spine J. 2016;10(4):762-766.
ご案内
腹部画像診断を学べる無料コンテンツ
4日に1日朝6時に症例が配信され、画像を実際にスクロールして読影していただく講座です。現状無料公開しています。90症例以上あり、無料なのに1年以上続く講座です。10,000名以上の医師、医学生、放射線技師、看護師などが参加中。胸部レントゲンの正常解剖を学べる無料コンテンツ
1日3分全31日でこそっと胸部レントゲンの正常解剖の基礎を学んでいただく参加型無料講座です。全日程で簡単な動画解説付きです。
画像診断LINE公式アカウント
画像診断cafeのLINE公式アカウントで新しい企画やモニター募集などの告知を行っています。 登録していただくと特典として、脳の血管支配域のミニ講座の無料でご参加いただけます。
