腸骨筋(ちょうこつきん:iliac muscle)は、骨盤内面の腸骨窩を広く埋める扇状の筋であり、大腰筋とともに腸腰筋複合体を構成します。

腹部CT、骨盤CT、股関節CTでは比較的安定して描出される筋であり、後腹膜病変、筋内血腫、膿瘍、筋萎縮、腫瘍性病変の局在診断において重要なランドマークとなります。

先に結論:腸骨・腸骨翼・腸骨筋の関係

名前(読み方) どこ・なに
腸骨(ちょうこつ) 骨盤をつくる寛骨の上の大きな部分。腰に手を当てたときに触れる骨
腸骨翼(ちょうこつよく) 腸骨の上の広く平たい「翼」の部分。上のふちが腸骨稜
腸骨窩(ちょうこつか) 腸骨翼の内側(おなか側)の浅いくぼみ
腸骨稜(ちょうこつりょう) 腸骨翼の上のふち。腹筋群・背筋群・お尻の筋肉が付く。体の外から触れる
腸骨筋(ちょうこつきん) 腸骨窩を埋める扇形の筋肉。下で大腰筋と合流して腸腰筋となり、大腿骨の小転子に付く。股関節を曲げる
英語 腸骨=ilium、腸骨翼=ala of ilium(iliac wing)、腸骨窩=iliac fossa、腸骨稜=iliac crest、腸骨筋=iliacus(iliac muscle)、腸腰筋=iliopsoas

腸骨筋のCT画像の解剖

腹部・骨盤のCTやMRI画像を読む上で腸骨筋がどの場所にあるのか解剖をチェックしましょう。

解剖がよく理解できるように腹部の実際のCT画像の腸骨筋に色を付けてみました。

CTの横断像では以下の場所に腸骨筋があります。

腸骨筋は腸骨翼内側の腸骨窩を埋める筋として描出されます。腸骨翼の内面に沿って広がる筋肉が、腸骨筋です。

腸骨筋を単独の筋として覚えるだけでなく、腸骨窩に広がる扇状の筋が、下方で大腰筋と合流して腸腰筋として小転子へ向かうという流れで理解すると把握しやすいです。

CT画像をスクロールしてコロコロ連続画像で見たい方はこちら→腸骨筋(iliac muscle) のCT画像の解剖

腸骨・腸骨翼はどこ?CTでの見え方

腸骨は、骨盤の左右の骨(寛骨)をつくる3つの骨(腸骨・坐骨・恥骨)のうち、いちばん上にある大きな骨です。3つの骨は股関節の受け皿(寛骨臼)のところで1つにつながっています。

腸骨翼は腸骨の上半分の広く平たい部分で、腰に手を当てたときに触れる骨の張り出しにあたります。その上のふちが腸骨稜で、左右の腸骨稜の一番高いところを結んだ線(ヤコビー線)は、おおよそ第4腰椎の高さの目安として使われます。

CTの横断像では、

  • 腸骨翼は、腰椎の左右にハの字(翼のよう)に広がる薄い板状の骨として写ります
  • 腸骨翼の内側(おなか側)の浅いくぼみが腸骨窩で、ここを腸骨筋が埋めています
  • 腸骨翼の外側(背中・お尻側)には、中殿筋・小殿筋などのお尻の筋肉が付いています
  • 腸骨翼の後ろは仙骨と関節をつくり(仙腸関節)、骨盤の輪の後ろ側になります

つまり腸骨翼は、内側に腸骨筋、外側に殿筋を抱えた「板」として見ると、CTでの位置関係がつかみやすくなります。

腸骨稜に付く筋肉

腸骨稜には多くの筋肉が付きます。

  • おなかの筋肉:外腹斜筋・内腹斜筋・腹横筋
  • 背中・腰の筋肉:広背筋・腰方形筋・脊柱起立筋の一部
  • お尻・太ももの筋肉:中殿筋・大殿筋の一部・大腿筋膜張筋
  • 骨盤の内側:腸骨筋(腸骨稜内唇の一部)

腸骨筋の起始と停止

起始

  • 腸骨窩上部を中心とした腸骨窩の広い範囲
  • 腸骨稜内唇の一部
  • 仙骨翼外側部
  • 前下腸骨棘周囲および股関節前方関節包への付着を伴う線維

停止

  • 大腰筋腱に合流して小転子へ停止
  • 一部の線維は大腿骨小転子前面〜その近傍へ直接停止

実用上は、腸骨筋は腸骨窩から起こり、下方で大腰筋と合流して小転子へ向かうと理解すれば十分である。腸腰筋の停止部は大腿骨の小転子(大腿骨の付け根の内側後ろにある小さな突起)で、CTでは股関節の高さより下、大腿骨の内側に腱が付着するのが追えます。近年の解剖学研究では、腸腰筋の停止形態には個体差があり、腱性成分と筋性成分の割合、停止部の広がりに変異があることも示されている。

腸腰筋複合体の中での腸骨筋の位置づけ

腸骨筋は単独で働くこともあるが、多くの場合は大腰筋とともに腸腰筋複合体として理解する方が実践的である。大腰筋は腰椎由来で縦走するのに対し、腸骨筋は腸骨窩由来で扇状に広がる。両者は鼠径靱帯下で接近し、共通の腱性構造を形成して小転子に向かう。

このため、CTで股関節近位部を見ると、上方では腸骨筋と大腰筋を別々に認識しやすいが、下方では両者の境界が不明瞭になり、腸腰筋として一体化して見えることがある。

腸骨筋の作用

  • 股関節屈曲
  • 大腿外旋の補助
  • 骨盤および股関節前方の安定化
  • 歩行・走行時の下肢前方振り出し補助

腸骨筋は大腰筋とともに股関節屈曲に強く関与するが、筋ごとに役割のニュアンスはやや異なる。大腰筋が腰椎安定化との関連で語られることが多いのに対し、腸骨筋は骨盤安定化と股関節屈曲動作により直接関与する筋として捉えると理解しやすい。

神経支配

腸骨筋は主として大腿神経(L2〜L4)に支配される。これは後枝支配の傍脊柱筋とは異なり、前枝系の下肢筋としての性格を反映している。大腿神経は、骨盤の中で大腰筋と腸骨筋のあいだの溝を下り、鼠径靱帯の下をくぐって太ももへ出ます。CTではこの2つの筋のすき間の脂肪の中を走る細い構造として追えることがあります。臨床的には、腸骨筋血腫が大腿神経を圧迫して大腿神経障害を来しうる点が重要である。また腸腰筋膿瘍では、発熱・側腹部痛・股関節の運動制限という古典的三徴がそろうのは約30%にとどまるとされる。症状が非特異的で診断が遅れやすいため、CTやMRIで腸骨筋・大腰筋の腫大や内部の液体貯留に気づくことが早期診断の手がかりとなる。

【腹部CT読影用】骨盤・大腿部周辺の筋肉解剖まとめ

腸骨・腸骨筋でよくある疑問(Q&A)

Q1. 腸骨筋は英語で何といいますか?

iliacus(iliac muscle)です。大腰筋はpsoas major、両者を合わせた腸腰筋はiliopsoasといいます。

Q2. 腸骨翼と腸骨窩の違いは?

腸骨翼は腸骨の上の広く平たい骨の部分全体、腸骨窩はその内側(おなか側)の面にある浅いくぼみです。腸骨窩の上を腸骨筋が覆っています。

Q3. 腸骨筋や腸腰筋の異常はCTでどう見えますか?

血腫や膿瘍では、左右を比べて片側の腸骨筋・腸腰筋が腫れて太く見え、内部が周りの筋より低い濃度(膿瘍・古い血腫)や高い濃度(新しい血腫)を示します。左右差を見るのがいちばんの手がかりです。脚の付け根の痛みや発熱、太ももの前のしびれなど気になる症状があれば、医療機関を受診してください。

実際の画像で確かめるには、画像診断cafeの腹部CTの正常解剖ツールで、スライスを動かしながら構造をタップすると名前が表示されます(無料・登録不要)。全体の見方は腹部CTの解剖にまとめています。

参考文献:

  1. Bordoni B, Varacallo M. Anatomy, Bony Pelvis and Lower Limb, Iliopsoas Muscle. StatPearls Publishing; updated 2023.
  2. Cronin CG, Lohan DG, Meehan CP, Delappe E, McLoughlin R, O’Sullivan GJ, McCarthy P. Anatomy, pathology, imaging and intervention of the iliopsoas muscle revisited. Emerg Radiol. 2008;15(5):295-310.
  3. Torres GM, Cernigliaro JG, Abbitt PL, et al. Iliopsoas compartment: normal anatomy and pathologic processes. Radiographics. 1995;15(6):1285-1297.
  4. Tatu L, Parratte B, Vuillier F, Diop M, Monnier G. Descriptive anatomy of the femoral portion of the iliopsoas muscle. Anatomical basis of anterior snapping of the hip. Surg Radiol Anat. 2001;23(6):371-374.
  5. Kim SJ, Park HS, Lee DW. Iliacus hematoma syndrome: a systematic review of recent literature and case report. Injury. 2020;51(8):1744-1750.
  6. Giuliani G, et al. CT scan and surgical treatment of traumatic iliacus hematoma with femoral neuropathy. J Trauma. 1990;30(2):229-231.
  7. Tramer JS, Holmich P, Safran MR. The Iliopsoas: Anatomy, Clinical Evaluation, and Its Role in Hip Pain in the Athlete: A Scoping Review. J Am Acad Orthop Surg. 2024;32(13):e620-e630. PubMed
  8. Armenta-Flores R, Armenta-Villalobos D, Domínguez-Carrillo LG. Iliopsoas Abscess: A Narrative Review. World J Surg. 2026;50(2):336-343. PubMed

画像診断を無料で学べるコンテンツ

腹部画像診断を症例で学ぶ
無料講座

腹部画像診断を症例で学ぶ

4日に1回、朝6時に症例が届き、実際に画像をスクロールして読影する講座です。90症例以上・1年以上続く講座で、医師・医学生・放射線技師・看護師など10,000名以上が参加中です。

講座に参加する(無料) →
胸部レントゲンの正常解剖を31日で
無料講座

胸部レントゲンの正常解剖を31日で

1日3分、全31日で胸部レントゲンの正常解剖の基礎を学ぶ参加型の講座です。全日程に簡単な動画解説が付いています。

講座に参加する(無料) →
画像診断LINE公式アカウント
登録特典あり

画像診断LINE公式アカウント

新しい企画やモニター募集のお知らせを配信しています。登録すると特典として、脳の血管支配域のミニ講座に無料で参加できます。

LINEで友だち追加 →