大腿―大腿バイパス術(Femorofemoral crossover bypass: F-Fバイパス)とは?
大腿―大腿バイパス術(Femorofemoral crossover bypass: F-Fバイパス)は、血流が保たれている健常側(ドナー側)の大腿動脈から、閉塞している患側(レシピエント側)の大腿動脈へ、人工血管を用いて血流を送る術式である。通常、恥骨結合の前方を通る皮下トンネルを作成し、左右の大腿動脈を架橋するように吻合する。
主な適応は以下の通りである。
- 片側の腸骨動脈閉塞があり、血管内治療(EVT)が不成功または不適応な症例
- 全身麻酔や開腹手術のリスクが高いハイリスク患者
- 感染性腹部大動脈瘤などで腹部操作を避けたい場合
大腿―大腿バイパス術の正常なCT画像所見
合併症のないF-FバイパスのCT所見として、以下の点を確認する。
- グラフトの走行:人工血管は通常、腹直筋鞘の前方、皮下脂肪織内を恥骨結合をまたぐように「U字型」または「逆C字型」に走行する。皮下トンネル内にあるため、周囲脂肪織濃度の上昇が術後早期には見られるが、経時的に消失する。
- 吻合部:ドナー側およびレシピエント側の総大腿動脈(または浅・深大腿動脈)に対し、端側吻合されるのが一般的である。造影効果は周囲の動脈と同等であり、内腔が保たれていることを確認する。
症例 70歳代男性

両側の大腿―大腿動脈を結ぶバイパスを認めています。
症例 60歳代女性

引用:radiopedia
両側の大腿―大腿動脈を結ぶバイパスを認めています。

造影の3D再構成画像で血管の全体像がわかります。
左の総腸骨動脈に高度狭窄を認め、左下肢の血流を大腿―大腿動脈を結ぶバイパス経由で右大腿動脈から得ていることがわかります。
大腿―大腿バイパス術の合併症のCT画像所見
術後の主な合併症には、狭窄・閉塞、感染、仮性動脈瘤、および血清腫(セローマ)が含まれる。これらを早期に特定することがCT検査の主目的となる。
グラフト閉塞・狭窄
F-Fバイパスの長期開存率は比較的良好(5年開存率で約60-70%程度とされる)であるが、閉塞のリスクは常に存在する[1]。
- 所見: 造影欠損(Filling defect)として描出される。慢性期であれば石灰化を伴わない低吸収域として認められる。
- 原因: 吻合部の内膜肥厚、Inflow/Outflowの病変進行、あるいはグラフトの圧迫やキンクが原因となる。特に皮下走行をするため外部からの圧迫を受けやすい。
グラフト感染
人工血管置換術において最も重篤な合併症の一つである。F-Fバイパスは鼠径部を切開するため、皮膚常在菌による感染リスクが解剖学的バイパスよりも高いとされる。
- 所見: グラフト周囲の液体貯留(Fluid collection)、軟部組織の増強効果(Rim enhancement)、および最も特異的な所見としての「ガス像(Air bubbles)」が挙げられる[2]。
- 注意点: 術後数週間は正常な術後変化として少量の液体やガスが見られる場合があるため、臨床症状(発熱、炎症反応)との対比が必要である。
仮性動脈瘤
吻合部の離開や感染、穿刺に伴う損傷により形成される。
- 所見: 吻合部に接する造影される袋状構造物として描出される。破裂のリスクがあるため、サイズや形状(不整かどうか)の評価が重要である。
キンク(Kinking)
グラフト長が不適切な場合や、トンネル作成の位置によりグラフトが折れ曲がることがある。
- 所見: 3D-CT(VR像)での評価が容易である。鋭角な屈曲部において造影不良や乱流による血栓形成が見られる場合がある。
参考文献
- Rutherford’s Vascular Surgery and Endovascular Therapy, 9th Edition. Section 13: Aortoiliac Disease.
- Pellerin O, et al. CT and MRI of the Abdominal Aortic and Lower Extremity Arteries. Diagn Interv Imaging. 2015.
- Chandarana H, et al. CT Angiography of the Lower Limbs: Technical Aspects and Clinical Applications. Semin Ultrasound CT MR. 2021.
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