陰嚢腫瘤の鑑別

陰嚢腫瘤はまず「精巣内腫瘤(intratesticular mass)」「精巣外腫瘤(paratesticular / extratesticular mass)」かを判定する。

  • 精巣腫瘤の約90%は悪性
  • 傍精巣腫瘤の約75%は良性

精巣内腫瘤(Intratesticular mass)

精巣実質内に存在する腫瘤。悪性腫瘍が多い。

  1. 原発性精巣腫瘍(Primary testicular tumor)
  2. Lymphoma / leukemia
  3. 転移(Metastases):前立腺癌・腎癌・悪性黒色腫など
  4. 慢性感染(Chronic infection)
  5. 肉芽腫性疾患(Granulomatous disease:サルコイドーシスなど)

精巣外腫瘤(paratesticular / extratesticular mass)

傍精巣腫瘤(Paratesticular mass)

精巣上体・精索・鞘膜など精巣周囲に発生する腫瘤。

良性傍精巣腫瘤(Benign paratesticular mass:75%)

  1. 精索脂肪腫(Cord lipoma)
  2. アデノマトイド腫瘍(Adenomatoid tumor)
  3. 類表皮嚢腫(Epidermoid inclusion cyst)
  4. 多精巣症(Polyorchidism)
  5. 線維性偽腫瘍(Fibrous pseudotumor)

悪性傍精巣腫瘤(Malignant paratesticular mass:25%)

  1. 肉腫(Sarcomas)
  2. 悪性中皮腫(Mesothelioma of tunica)
  3. 転移(Metastases)

陰嚢内精巣外腫瘤(Extratesticular mass)

陰嚢内にあるが精巣実質の外に位置する腫瘤。

  • 硬化性脂肪肉芽腫(Sclerosing lipogranuloma)
  • 血管奇形(Vascular malformation)

まとめ

  • 超音波でまず精巣内か精巣外かを確認する。
  • 精巣内腫瘤は悪性の可能性が高く、精巣腫瘍・悪性リンパ腫・転移などを念頭に精査する。
  • 精巣外腫瘤は良性が多いが、肉腫や中皮腫、転移など悪性病変も鑑別に挙げる。

陰嚢領域のMRIの役割

陰嚢腫瘤の画像診断ではまず超音波検査が第一選択となるが、MRIは病変の性状評価や手術適応の判断に重要な役割を担う。

1.非充実性病変の除外

MRIではT2強調像や造影パターンから、非充実性病変(液体成分)が中心の病変を除外できる。

  • 陰嚢水腫
  • 精液瘤
  • 精巣上体嚢胞
  • 陰嚢皮下浮腫 など

2.高位精巣摘除術が必要かどうかの判断

精巣内の腫瘤に対して、高位精巣摘除術の適応となる悪性腫瘍かどうかを評価する。

  • 精巣内の充実性病変の9割は悪性腫瘍」であることを念頭に置く。
  • 年齢により想定する腫瘍を変える:
    • 若年者:胚細胞腫瘍
    • 高齢者:悪性リンパ腫

3.外傷の評価

外傷性陰嚢病変においては、MRIは次の目的で利用される。

  • 手術適応の判断(精巣破裂の有無、血腫の広がり など)
  • 術前計画(切除範囲、温存可能かどうかの検討)

4.血流障害・造影不良病変の評価

造影MRIで精巣全体または区域性に造影不良を示す場合、以下を考慮する。

  • 血流障害(虚血/うっ血)
  • 静脈性梗塞
  • 精巣捻転 など

5.炎症性病変・膿瘍との鑑別

腫瘍との鑑別が問題になる場合、MRIは炎症性変化の評価にも有用。

  • 膿瘍や精巣上体炎、精巣炎かどうかの評価
  • DWIで著明な低信号を示す場合:慢性精巣炎の可能性
  • 冷膿瘍を認めるときは結核も鑑別に挙げる

6.壊死の評価と腫瘍性病変の示唆

病変内部に壊死が目立つ場合、腫瘍性病変を強く疑う。

  • 特にembryonal carcinoma(胎児性癌)などで壊死が目立つことがある。

7.全身性疾患の可能性の検討

陰嚢病変が局所のみにとどまらず、全身性疾患の一部として出現することもある。

  • 肉芽腫性疾患
  • 結節性多発動脈炎 など

これらを踏まえ、MRIは「腫瘍かどうか」「手術が必要か」「血流障害や炎症か」「全身疾患の一部か」といった臨床上の重要な問いに答えるための補助的ツールとして位置づけられる。

参考:山下康行・他.知っておきたい泌尿器のCT・MRI 第2版:腎腫瘍の鑑別診断.秀潤社,2019,p.385-386.

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