先に結論:急性心不全の初期治療(医療者向けメモ)

  • 急性心不全は症状・身体所見・胸部X線・BNP(NT-proBNP)・心エコーで診断し、原因(虚血・不整脈・弁膜症・高血圧など)の検索と並行して治療を始めます
  • 治療薬は役割で3つに分けて考えます。うっ血には利尿薬(ループ利尿薬の静注が第一選択)、血圧が保たれた肺うっ血の症状には血管拡張薬(硝酸薬など)、低心拍出・低灌流には強心薬です(JCS/JHFS 2025, Kitai 2025)
  • 旧版のJCS 2017/JHFS 2017ではカルペリチド(ハンプ®)は肺うっ血に推奨クラスⅡaでしたが、現行のJCS/JHFS 2025では予後を改善しないためルーチン使用は推奨されないとされました(Tsutsui 2019; Kitai 2025)
  • 強心薬は、低心拍出・低灌流・ショックがない患者にルーチンで使わないこととされています(推奨クラスⅢ, Kitai 2025)
  • この記事では薬の量・希釈・投与速度は扱いません。施設の手順と添付文書で確認してください

※急に息が苦しくなり横になれない・足のむくみが急に増えたときは、すぐに受診してください。

心不全summary

  • 多くは症状、身体所見、胸部X線で診断する。
  • ただし、診断にはBNPの値が有用である。
  • 原因検索とともに、治療を開始する。
【治療】

  • Fowler位とし、SpO2<90%またはPaO2<60mmHgの低酸素血症があれば酸素投与(JCS 2017・JCS/JHFS 2025とも推奨クラスⅠ)。呼吸がつらく改善しなければ非侵襲的陽圧換気(NPPV)を早めに始める。
  • うっ血にはループ利尿薬(フロセミド:ラシックス®)の静注が第一選択。
  • 血圧が高く肺うっ血が強いなら、硝酸薬(ミオコール®)などの血管拡張薬で症状を和らげる。

・カルペリチド(ハンプ®)は日本でよく使われてきたが、JCS/JHFS 2025ではルーチン使用は推奨されていない。

急性心不全の治療薬:利尿薬(うっ血にループ利尿薬のフロセミドが第一選択、作用の異なる利尿薬(トルバプタンなど)を併用)、血管拡張薬(硝酸薬、カルペリチドはルーチン使用は推奨されない)、強心薬(ドブタミン・PDEⅢ阻害薬)、昇圧薬(ノルアドレナリン)

心不全の検査

  • 胸部X線・・・座位にて撮影する。
  • 肺静脈圧が上がると、まず→間質性肺水腫、血管周囲や気管支周囲の浮腫、Kerley’s B線、下肺野の網状陰影、葉間胸水、胸水貯留
  • さらに上がると(肺胞性肺水腫)→すりガラス陰影、粒状陰影、バタフライ陰影
  • 心電図
  • 採血 BNP(救急外来の呼吸困難1586例の研究で、BNP 100pg/mLを区切りにした正診率は83.4%, Maisel 2002)、トロポニンT、CRP、Cr、電解質、貧血の有無
  • 心エコー

血行動態指標による心不全の重症度分類(Forrester分類)

Forrester分類        肺動脈楔入圧(mmHg )
<18 ≧18
心係数(L/分/㎡) ≧2.2 Ⅰ群:・肺うっ血なし
・心拍出量正常
・一般的治療
Ⅱ群:・肺うっ血あり
・心拍出量正常
・血管拡張薬・利尿薬
<2.2 Ⅲ群:
・肺うっ血なし
・心拍出量低下
・輸液
・強心薬
Ⅳ群:
・肺うっ血あり
・心拍出量低下
・強心薬
・血管拡張薬・利尿薬

JCS/JHFS 2025でも、右心カテーテルで治療するときの古典的な目標はForrester Ⅰ群(肺動脈楔入圧<18mmHg・心係数>2.2L/分/㎡)への正常化とされています。ただし、心不全患者に右心カテーテルをルーチンで行うことは推奨されておらず、ショックや標準治療に反応しない場合などに使います(Kitai 2025)。

心不全の初期治療

・酸素投与・・・SpO2<90%(またはPaO2<60mmHg)ならカヌラ→酸素マスクで酸素投与。改善しなければNPPVを早めに始め、マスクが合わない場合は高流量鼻カニュラ(HFNC)も選択肢になります(Kitai 2025)。

・利尿薬:うっ血があれば、来院後なるべく早く(JCS/JHFS 2025では救急外来到着から1時間以内を目安)ループ利尿薬を静注し、1〜2時間以内(遅くとも6時間)に尿量で反応を確かめる。反応が乏しければ、増量や作用の異なる利尿薬(トルバプタン・サイアザイド系など)の併用を考え、低心拍出・低血圧・貧血・感染・低アルブミン・低Naなど利尿薬が効きにくい原因も探す(Kitai 2025)。

※量・速度は腎機能やそれまでの内服で変わるため、この記事では扱いません。

・血管拡張薬:全身の低血圧がない急性心不全で、肺うっ血の症状(息苦しさ)を和らげるために使う(推奨クラスⅡb)。高度の低血圧・心原性ショック・脱水・急性右室梗塞には使わない(Kitai 2025)。

※血管拡張薬で予後がよくなるという根拠はまだありません(Kitai 2025)。硝酸薬は24時間を超えて使うと効きが落ちる(耐性)ことがあります。

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※治療薬の作用および注意点

  • カルペリチド(ハンプ®)・・・静脈を広げる作用、Na利尿、RAA系の抑制作用がある(Kitai 2025)。
  • フロセミド(ラシックス®)・・・ループ利尿薬。前負荷を減らして肺うっ血や浮腫を軽くする。効き始めが早い。反応が乏しければ増量や他の利尿薬の併用を考える。腎機能が保たれているのに反応が乏しいときは、心拍出量の低下も疑う。除水の目標は体重・尿量・症状を見ながら決める。

ForresterⅡ群(うっ血はあるが心拍出量は保たれる)では利尿薬と血管拡張薬が中心。肺動脈カテーテルを用いない場面では、うっ血(wet/dry)と低灌流(cold/warm)の身体所見で分けるNohria-Stevenson分類が使われ、うっ血を伴うwet-warm・wet-coldの群は1年以内の死亡・緊急心移植のリスクが高いと報告されている(Nohria 2003)。ForresterⅣ群のように低心拍出・低灌流を伴う場合は、利尿薬に加えて強心薬が必要になることが多い。

・強心薬:肺うっ血があり、低心拍出・低灌流の所見がある患者にドブタミン(ドブポン®)を考慮する(推奨クラスⅡa)。非虚血性ではPDEⅢ阻害薬も考慮される(Kitai 2025)。

※強心薬は必要最小限の量を、できるだけ短い期間で使う。低心拍出・低灌流・ショックがない患者へのルーチン使用は推奨されない(推奨クラスⅢ, Kitai 2025)。末梢循環や尿量、心係数の改善を目安にする。

ショックや、体液量を整えても続く低血圧には昇圧薬を用いる。JCS/JHFS 2025では、すばやく血圧を上げる必要がある場合の第一選択はノルアドレナリンとされる(Kitai 2025)。SOAP II試験では、ショック全体の28日死亡に有意差はなかったが、ドパミン群で不整脈が多く、心原性ショックのサブグループではドパミン群の28日死亡が多かった(De Backer 2010)。ドパミンは、腎機能が悪いHFrEF・HFmrEFで利尿を助ける目的に限って考慮される程度(推奨クラスⅡb)である。

・昇圧薬は持続静注で、血圧と臓器灌流を見ながら調整する

※具体的な量・速度は施設の手順と添付文書で確認する。

心不全の原因が頻脈性心房細動のとき、心拍数コントロールのために以下の薬剤が使われる(JCS/JHFS 2025, Kitai 2025)。

・ランジオロール(推奨クラスⅡa)またはジゴキシン(ジゴシン®)(推奨クラスⅡa)の静注

※ジゴキシンは陰性変力作用がなく使いやすいが、血中濃度が高いと死亡が増えることが報告されている。腎機能低下や電解質異常で中毒を起こしやすいので注意する。収縮能が低下している場合は、アミオダロン静注も考慮される(推奨クラスⅡb)。

旧版との違い:この記事の旧版では、ジルチアゼム(ヘルベッサー®)持続静注も選択肢に挙げていました。JCS/JHFS 2025では、収縮能が低下した心不全の心拍数コントロールに非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬(ジルチアゼムなど)は使うべきでない(推奨クラスⅢ:Harm)とされています。血行動態が不安定な時期に経口β遮断薬で心拍数を下げることも推奨されません(Kitai 2025)。

※モルヒネは交感神経を抑えて肺うっ血を和らげますが、挿管や死亡の増加と関連したとの観察研究があり、ルーチンには使いません(Kitai 2025)。

ハンプとフロセミド(ラシックス)の違い

カルペリチド(ハンプ®) フロセミド(ラシックス®)
薬の種類 心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)製剤(血管拡張薬に分類) ループ利尿薬
主な働き 静脈を広げる+ナトリウム利尿、RAA系の抑制 尿を出して体液を減らす(前負荷の軽減)
ガイドラインでの位置づけ JCS 2017:肺うっ血に推奨クラスⅡa → JCS/JHFS 2025:ルーチン使用は推奨されない うっ血のある急性心不全の第一選択(推奨クラスⅠ)
主な注意点 血圧低下 低カリウム血症、脱水、腎機能悪化

ハンプとドブタミンの違い:ドブタミンは心臓の収縮力を強める強心薬で、心拍出量が落ちた低灌流(cold)の状態に使います。ハンプは強心作用ではなく、血管を広げて尿を出す薬です。

ハンプのエビデンス

カルペリチドは主に日本で使われている薬です。旧版のJCS 2017/JHFS 2017では、非代償性心不全の肺うっ血に推奨クラスⅡaとされていました(Tsutsui 2019)。その後、3施設の傾向スコアマッチング解析(367組)では院内死亡の増加と関連し(Matsue 2015)、ランダム化比較試験と傾向スコア研究9件のメタ解析でも院内死亡率が高い結果でした(オッズ比1.38)。ただしランダム化比較試験だけでは差がなく、長期死亡・再入院・低血圧にも差はありませんでした(Shiga 2025)。日本の急性心不全247例のランダム化試験(LASCAR-AHF)でも、急性期の少量カルペリチドは2年死亡・心不全悪化・症状・尿量・腎機能・BNPの変化に利益を示さず、JCS/JHFS 2025ではルーチン使用は推奨されないとされました(Kitai 2025)。

フロセミドは静注と持続静注のどちらがよい?

急性心不全308人のランダム化試験(DOSE試験)では、12時間ごとの静注と持続静注で、症状の改善や腎機能の変化に有意な差はありませんでした(Felker 2011)。JCS/JHFS 2025でも、投与方法は患者ごとの状態と施設の手順で選ぶとしています(Kitai 2025)。

ハンプ・利尿薬使用中の看護・観察のポイント

  • 血圧(特にハンプ開始・増量後の低下)と心拍数
  • 尿量・体重の変化、むくみや呼吸状態(起座呼吸・SpO2)
  • 電解質(特にカリウム)と腎機能の採血結果
  • シリンジポンプの流量と残量。側管からのフラッシュで薬が一気に入らないよう注意する

参考文献

  1. Forrester JS, Diamond G, Chatterjee K, et al. Medical therapy of acute myocardial infarction by application of hemodynamic subsets (first of two parts). N Engl J Med. 1976;295(24):1356-1362. PubMed
  2. Nohria A, Tsang SW, Fang JC, et al. Clinical assessment identifies hemodynamic profiles that predict outcomes in patients admitted with heart failure. J Am Coll Cardiol. 2003;41(10):1797-1804. PubMed
  3. Maisel AS, Krishnaswamy P, Nowak RM, et al. Rapid measurement of B-type natriuretic peptide in the emergency diagnosis of heart failure. N Engl J Med. 2002;347(3):161-167. PubMed
  4. Tsutsui H, Isobe M, Ito H, et al. JCS 2017/JHFS 2017 Guideline on Diagnosis and Treatment of Acute and Chronic Heart Failure – Digest Version. Circ J. 2019;83(10):2084-2184. PubMed
  5. Tsutsui H, Ide T, Ito H, et al. JCS/JHFS 2021 Guideline Focused Update on Diagnosis and Treatment of Acute and Chronic Heart Failure. Circ J. 2021;85(12):2252-2291. PubMed
  6. Kitai T, Kohsaka S, Kato T, et al. JCS/JHFS 2025 Guideline on Diagnosis and Treatment of Heart Failure. Circ J. 2025;89(8):1278-1444. PubMed
  7. McDonagh TA, Metra M, Adamo M, et al. 2021 ESC Guidelines for the diagnosis and treatment of acute and chronic heart failure. Eur Heart J. 2021;42(36):3599-3726. PubMed
  8. De Backer D, Biston P, Devriendt J, et al. Comparison of dopamine and norepinephrine in the treatment of shock. N Engl J Med. 2010;362(9):779-89. PubMed
  9. Mullens W, Damman K, Harjola VP, et al. The use of diuretics in heart failure with congestion – a position statement from the Heart Failure Association of the European Society of Cardiology. Eur J Heart Fail. 2019;21(2):137-155. PubMed
  10. Matsue Y, Kagiyama N, Yoshida K, et al. Carperitide Is Associated With Increased In-Hospital Mortality in Acute Heart Failure: A Propensity Score-Matched Analysis. J Card Fail. 2015;21(11):859-64. PubMed
  11. Shiga T, Suzuki A, Inoue S, et al. Effect of carperitide on clinical outcomes among patients with acute heart failure: a meta-analysis of randomized and propensity-matched studies. BMC Cardiovasc Disord. 2025;25(1):896. PubMed
  12. Felker GM, Lee KL, Bull DA, et al. Diuretic strategies in patients with acute decompensated heart failure. N Engl J Med. 2011;364(9):797-805. PubMed

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