胃幽門部では筋層が発達しており、あたかも壁肥厚に見えることがあります。
筋層の肥厚があたかも粘膜下層の肥厚のように見えてしまうため注意が必要です。
具体的な症例を見てみましょう。
症例 80歳代女性
胃の幽門部にあたかも壁肥厚があるかのように見えます。
炎症や虚血を伴った際に起こる結腸や小腸の3層構造を保った壁肥厚のようにも一見見えます。
しかしこれは、発達した筋層を見ているのであって、粘膜下層の肥厚をみているわけではないということです。(粘膜下層自体この症例でははっきりしません。)
早期相と平衡相を並べて見ると、筋層は平衡相でより染まり、粘膜層との境界が不明瞭化しています。
粘膜下層の浮腫ならば低吸収はある程度保たれるはずで、ここまで不明瞭化しません。
つまり、幽門部の壁肥厚は筋層が発達しているだけだと言うことです。
一方で、次の症例はどうでしょうか?
症例 60歳代男性 心窩部痛
こちらの症例では、幽門部でなく胃体部で粘膜の下の層の肥厚が目立ちます。
こちらは筋層ではなく、粗大な胃潰瘍があり反応性に腫大した粘膜下層の肥厚です。
平衡相ですが、粘膜との境界は明瞭で、低吸収を示しています。
胃幽門部は筋層が発達しているために、それがあたかも粘膜下層の肥厚している、つまり何か炎症があるのでは?と偽病変を作ってしまうことがあるので注意が必要です。
なお壁の厚みは、胃体部で5mm、胃幽門部で12mmまでが正常範囲とされます1)。
1)AJR 181:973-979,2003