先に結論:歯性上顎洞炎
- 歯性上顎洞炎は上の奥歯(小臼歯・大臼歯)の虫歯・歯根の炎症・抜歯・インプラント・根管治療がきっかけで上顎洞に炎症が広がる副鼻腔炎です
- 片側だけの上顎洞炎で悪臭のある鼻汁・頬の痛みがあれば疑い、CTで歯根の先の骨の溶けた部分(根尖病変)と上顎洞底の骨の欠損、ときに洞内に入り込んだ歯の詰め物やインプラントを確認します。CT(冠状断)が最も役立ちます
- 歯の痛みを訴える人は3分の1ほどとされ、歯が痛くなくても歯性のことがあります
- 原因の歯の治療が欠かせないため、歯科と耳鼻科の連携が大切です。片側性の病変では真菌症・腫瘍との区別も忘れずに
※片側だけの鼻づまり・くさい鼻汁が続くときは、耳鼻咽喉科を受診してください。
虫歯を放置していたら、歯だけでなく、頰まで痛みを生じ、鼻までなんだかおかしいと感じるようになることもあります。
その場合、歯性上顎洞炎(しせいじょうがくどうえん)かもしれません。
歯から鼻まで?と感じますよね。
そこで今回は、歯性上顎洞炎(読み方は「しせいじょうがくどうえん」英語表記で「maxillary sinusitis of dental origin」)について
- 原因
- 症状
- 診断
- 治療法
など、気になるあれこれを、実際のCT画像を交えて、わかりやすく解説したいと思います。
歯性上顎洞炎とは?

虫歯など歯の問題から、上の歯と骨一重にある上顎洞へと炎症が及んで副鼻腔炎になる疾患を、歯性上顎洞炎(副鼻腔炎の一つ)といいます。
下のCTのように上顎洞と上の臼歯は薄い骨で隔たれています。

原因となる上顎歯は、第1大臼歯(6番)が最も多く、次いで第2大臼歯、第3大臼歯、第2小臼歯と報告されています(Little 2018)。これらの歯の根部が上顎洞の下(上顎洞底部)に位置するためで、歯根の先端が上顎洞に近い、あるいは突き出している場合に炎症が及びやすいと考えられます。
上のCT画像を見れば位置関係がよくわかりますね。
歯性上顎洞炎の原因は?
- 虫歯(齲歯「うし」の歯根尖に生じた感染)
歯周病(歯周炎)
- 抜歯の際に上顎洞へと生じた穿孔
- 歯根が上顎洞へと迷入
- 不適切な根管治療
- インプラント治療や、その前に行う骨を増やす処置(サイナスリフトなど)
などが原因で起こります(Little 2018、Whyte 2019)。
手術が必要になった片側性上顎洞炎174例の検討では、原因の内訳は次のとおりでした(Troeltzsch 2015)。
- 歯性:130例(75%)。そのうち抜歯など歯科の外科処置のあとが64%、根尖病変が18%、歯周病が10%
- 鼻が原因のもの(鼻性):13例(7.5%)
- インプラント関連:9例(5.2%)
通常副鼻腔炎と言えば両側に起こる事が多いのですが、歯性副鼻腔炎の場合は、歯から炎症が波及しますので、片側性に起こります。
CTで片側の上顎洞が白く濁っている(陰影がある)例の45〜75%は歯性と報告されており、片側性の上顎洞炎では最も多い原因のひとつです(Craig 2022)。
上顎洞炎の原因として歯性は少なくなく(上顎洞炎の25〜40%、Whyte 2019)、根尖病巣・抜歯後の口腔上顎洞交通・インプラント前の骨造成が主な原因です。診断が遅れやすいため、副鼻腔CTでは上顎の歯と洞底の関係をしっかり確認します。
歯性上顎洞炎の症状は?
左右の臼歯に炎症が同時に起こるのは稀なため、基本的には片側に症状が出現します。
- 疼痛(歯から頰部にかけて)
- 腐敗臭の強い鼻汁
などが特徴的な症状です。
このほか、頬の痛みや重い感じ、鼻づまり、のどに鼻水が流れる(後鼻漏)、嫌なにおいや味、だるさなどがみられます。歯の手術や感染の経験がある人は半数ほどですが、歯の痛みを訴えるのは3分の1ほどとされ、歯が痛くないからといって歯性を否定できません(Little 2018)。
歯性上顎洞炎の診断は?
特徴的な症状のほか、レントゲン検査・CT検査を行い診断します。
CTでは次のような所見を確認します。
- 片側性、びまん性の上顎洞陰影。
- 上顎洞底部~歯根部の骨融解像。
- 歯牙の歯槽硬線の消失。
- 口腔副鼻腔間との瘻孔形成。

参考)http://radiologypics.com/2013/02/11/odontogenic-sinusitis/
歯科で使うパノラマやデンタルのレントゲンは重なりの影響で根尖の病変を見落とすことがあり、CTやコーンビームCTのほうが歯と上顎洞底の関係を詳しく評価できます(Little 2018)。一方で、CTで歯の病変がはっきりしなくても歯性のことがあるため、片側の上顎洞炎では歯科での診察も大切です(Craig 2022)。
2021年の国際多職種コンセンサスでは、歯性副鼻腔炎の診断には、耳鼻咽喉科医が内視鏡で中鼻道の膿・浮腫・ポリープから副鼻腔炎を確かめ、歯科医が診察と歯科画像で上顎の歯の病変を確かめる、という両者の協力が必要とされました。また、どちらの科でも特定の臨床所見から歯性を疑った時点で、相手の科へ紹介すべきとされています。
また、その際に以下のような、片側性上顎洞びまん性陰影(他の疾患)との鑑別も重要です。
- 歯が原因でない(鼻性の)副鼻腔炎・鼻茸
- 副鼻腔真菌症
- 内反性乳頭腫
- 粘液瘤
- 上顎洞性後鼻孔ポリープ
- 上顎がんなどの悪性腫瘍(頻度は低い)
- 歯原性嚢胞
(Kaplan 2004、Mughal 2022、Troeltzsch 2015、Little 2018)
症例 60歳代女性

副鼻腔単純CTの冠状断像です。
左の上顎洞に粘膜肥厚を認めており、急性上顎洞炎(急性副鼻腔炎)が疑われます。
よく見てみると、第1大臼歯と左上顎洞が連続している(第1大臼歯の一部が左上顎洞に飛び出している)ように見えます。

横断像でも、第1大臼歯と左上顎洞が連続している様子がわかります。

つまり、冠状断像と横断像の関係は上のようになります。

これから、第1大臼歯から左上顎洞へ炎症が広がったと考えられ、歯性上顎洞炎と診断されました。
もう一つ症例を見て見ましょう。
症例 70歳代 男性

副鼻腔単純CTの冠状断像です。
こちらも似た症例です。
左の上顎洞に粘膜肥厚を認めており、急性上顎洞炎(急性副鼻腔炎)が疑われます。
よく見てみると、第1大臼歯抜歯後で歯があった場所と左上顎洞が連続しているように見えます。

横断像でも、第1大臼歯抜歯後部位と左上顎洞が連続している様子がわかります。

つまり、冠状断像と横断像の関係は上のようになります。

これから、第1大臼歯抜歯後の部位から左上顎洞へ炎症が広がったと考えられ、上の症例と同じように歯性上顎洞炎と診断されました。
歯性上顎洞炎の治療法は?
- 原因となる歯の治療(根管治療や抜歯など)
抗菌薬の投与
などによる治療が主となります。
しかし、これで改善しない場合、手術療法が選択されます。
手術としては、内視鏡下副鼻腔手術(ESS)が一般的です。近年の総説では、原因となる歯の病変がある場合は内服抗菌薬だけでは治りにくく、歯科治療と副鼻腔の治療の両方を行えば90〜100%で治癒が期待できるとされています。症状が強い場合は先にESSを行い、その後に歯科治療を行う選択肢もあります。
内視鏡下副鼻腔手術(ESS)では、上顎洞に排出口を作り、改善を待ちます。
参考文献:
耳鼻咽喉科疾患 ビジュアルブックP142
100%耳鼻咽喉科 国試マニュアル 改訂第4版P96〜98
まとめてみた 耳鼻咽喉科P135
STEP SERIES 耳鼻咽喉科 第3版P131・132
頭頚部のCT・MRI P191・192
歯性上顎洞炎でよくある疑問(Q&A)
Q. 抗菌薬だけで治りますか?
A. 原因の歯の病変が残っていると、飲み薬の抗菌薬だけでは治りにくいとされます。歯と副鼻腔の両方を治療すれば90〜100%で治癒が期待できます(Craig 2022)。
Q. 何科を受診すればよいですか?
A. 鼻の症状が中心なら耳鼻咽喉科、歯の痛みや歯科治療後の症状なら歯科を受診し、歯性が疑われれば両方の科で連携して診断・治療します(Craig 2021)。
最後に
歯性上顎洞炎について、ポイントをまとめます。
- 虫歯などの炎症から、上顎洞へと炎症が及んで副鼻腔炎になる疾患を歯性上顎洞炎という
- 虫歯・歯周病・抜歯の際に上顎洞へと生じた穿孔・歯根が上顎洞へと迷入・不適切な根管治療が原因となる
- 歯から頰部にかけての疼痛や腐敗臭の強い鼻汁が主な症状
- CT検査を行い診断するが、片側性上顎洞びまん性陰影との鑑別も重要
- 治療法としては、原因となる歯の抜歯や抗菌薬の投与
- 改善しない例では、手術を検討する
- 改善すれば、予後は良好
歯は大事といいますが、虫歯を放置すると、このようなことにもなりうるため、注意したいですね。
- Craig JR, Poetker DM, Aksoy U, et al. Diagnosing odontogenic sinusitis: An international multidisciplinary consensus statement. Int Forum Allergy Rhinol. 2021;11(8):1235-1248. PubMed
- Craig JR. Odontogenic sinusitis: A state-of-the-art review. World J Otorhinolaryngol Head Neck Surg. 2022;8(1):8-15. PubMed
- Whyte A, Boeddinghaus R. Imaging of odontogenic sinusitis. Clin Radiol. 2019;74(7):503-516. PubMed
- Whyte A, Boeddinghaus R. The maxillary sinus: physiology, development and imaging anatomy. Dentomaxillofac Radiol. 2019;48(8):20190205. PubMed
- Little RE, Long CM, Loehrl TA, et al. Odontogenic sinusitis: A review of the current literature. Laryngoscope Investig Otolaryngol. 2018;3(2):110-114. PubMed
- Troeltzsch M, Pache C, Troeltzsch M, et al. Etiology and clinical characteristics of symptomatic unilateral maxillary sinusitis: A review of 174 cases. J Craniomaxillofac Surg. 2015;43(8):1522-9. PubMed
- Kaplan BA, Kountakis SE. Diagnosis and pathology of unilateral maxillary sinus opacification with or without evidence of contralateral disease. Laryngoscope. 2004;114(6):981-5. PubMed
- Mughal Z, Daffu K, Adeoti R, et al. Retrospective analysis of the risk of neoplasia associated with unilateral maxillary sinus opacification on computed tomography. J Laryngol Otol. 2022;136(12):1259-1264. PubMed
画像診断を無料で学べるコンテンツ

腹部画像診断を症例で学ぶ
4日に1回、朝6時に症例が届き、実際に画像をスクロールして読影する講座です。90症例以上・1年以上続く講座で、医師・医学生・放射線技師・看護師など10,000名以上が参加中です。
講座に参加する(無料) →
