虫歯を放置していたら、歯だけでなく、頰まで痛みを生じ、鼻までなんだかおかしいと感じるようになることもあります。
その場合、歯性上顎洞炎(しせいじょうがくどうえん)かもしれません。
歯から鼻まで?と感じますよね。
そこで今回は、歯性上顎洞炎(読み方は「しせいじょうがくどうえん」英語表記で「maxillary sinusitis of dental origin」)について
- 原因
- 症状
- 診断
- 治療法
など、気になるあれこれを、実際のCT画像を交えて、わかりやすく解説したいと思います。
歯性上顎洞炎とは?
虫歯など歯の問題から、上の歯と骨一重にある上顎洞へと炎症が及んで副鼻腔炎になる疾患を、歯性上顎洞炎(副鼻腔炎の一つ)といいます。
下のCTのように上顎洞と上の臼歯は薄い骨で隔たれています。
原因となる上顎歯は、第2小臼歯や第1.2大臼歯であることが多く、それはこれらの歯が上顎洞の下に位置するためです。
上のCT画像を見れば位置関係がよくわかりますね。
歯性上顎洞炎の原因は?
- 虫歯(齲歯「うし」の歯根尖に生じた感染)
- 歯槽膿漏
- 抜歯の際に上顎洞へと生じた穿孔
- 歯根が上顎洞へと迷入
- 不適切な根管治療
などが原因で起こります。
通常副鼻腔炎と言えば両側に起こる事が多いのですが、歯性副鼻腔炎の場合は、歯から炎症が波及しますので、片側性に起こります。
片側性に起こる上顎洞炎の原因としては最多です。
歯性上顎洞炎の症状は?
左右の臼歯に炎症が同時に起こるのは稀なため、基本的には片側に症状が出現します。
- 疼痛(歯から頰部にかけて)
- 腐敗臭の強い鼻汁
などが特徴的な症状です。
歯性上顎洞炎の診断は?
特徴的な症状のほか、レントゲン検査・CT検査を行い診断します。
また、その際に以下のような、片側性上顎洞びまん性陰影(他の疾患)との鑑別も重要です。
- 一側性副鼻腔炎
- 副鼻腔真菌症
- 上顎がん
- 乳頭腫
- 粘液瘤
- 膿瘤
- 貯留嚢胞
- 上顎洞性後鼻孔ポリープ
- Wegener肉芽腫症
- 上顎骨歯牙嚢胞
- エナメル芽細胞腫
- 吹き抜け骨折
症例 60歳代女性
副鼻腔単純CTの冠状断像です。
左の上顎洞に粘膜肥厚を認めており、急性上顎洞炎(急性副鼻腔炎)が疑われます。
よく見てみると、第1大臼歯と左上顎洞が連続している(第1大臼歯の一部が左上顎洞に飛び出している)ように見えます。
横断像でも、第1大臼歯と左上顎洞が連続している様子がわかります。
つまり、冠状断像と横断像の関係は上のようになります。
これから、第1大臼歯から左上顎洞へ炎症が広がったと考えられ、歯性上顎洞炎と診断されました。
もう一つ症例を見て見ましょう。
症例 70歳代 男性
副鼻腔単純CTの冠状断像です。
こちらも似た症例です。
左の上顎洞に粘膜肥厚を認めており、急性上顎洞炎(急性副鼻腔炎)が疑われます。
よく見てみると、第1大臼歯抜歯後で歯があった場所と左上顎洞が連続しているように見えます。
横断像でも、第1大臼歯抜歯後部位と左上顎洞が連続している様子がわかります。
つまり、冠状断像と横断像の関係は上のようになります。
これから、第1大臼歯抜歯後の部位から左上顎洞へ炎症が広がったと考えられ、上の症例と同じように歯性上顎洞炎と診断されました。
歯性上顎洞炎の治療法は?
- 原因となる歯の抜歯
- 抗菌薬の局所または全身投与
などによる治療が主となります。
しかし、これで改善しない場合、手術療法が選択されます。
手術としては、内視鏡下副鼻腔手術(ESS)が一般的です。
内視鏡下副鼻腔手術(ESS)では、上顎洞に排出口を作り、改善を待ちます。
参考文献:
耳鼻咽喉科疾患 ビジュアルブックP142
100%耳鼻咽喉科 国試マニュアル 改訂第4版P96〜98
まとめてみた 耳鼻咽喉科P135
STEP SERIES 耳鼻咽喉科 第3版P131・132
頭頚部のCT・MRI P191・192
最後に
歯性上顎洞炎について、ポイントをまとめます。
- 虫歯などの炎症から、上顎洞へと炎症が及んで副鼻腔炎になる疾患を歯性上顎洞炎という
- 虫歯・歯槽膿漏・抜歯の際に上顎洞へと生じた穿孔・歯根が上顎洞へと迷入・不適切な根管治療が原因となる
- 歯から頰部にかけての疼痛や腐敗臭の強い鼻汁が主な症状
- レントゲン検査を行い診断するが、片側性上顎洞びまん性陰影との鑑別も重要
- 治療法としては、原因となる歯の抜歯や抗菌薬の投与
- 改善しない例では、手術を検討する
- 改善すれば、予後は良好
歯は大事といいますが、虫歯を放置すると、このようなことにもなりうるため、注意したいですね。