MRIの検査を受けるだけでも不安になるものですが、それに加え造影剤も使用するとなると不安は一段と大きくなるものだと思います。
この造影剤に関しての不安材料として副作用があると思いますが、
- 実際にどの様な副作用があるのでしょうか?
- なぜ造影剤を使う必要があるのでしょうか?
- また造影剤にはどのような種類があるのでしょうか?
- 脳や子宮、卵巣の造影MRIではどういったことがわかるのでしょうか?
- 授乳中の人が造影MRIを受けた場合の影響はあるのでしょうか?
知らないと不安になるこのようなMRI検査の造影剤の種類や副作用などについてまとめました。
MRI検査の造影剤はなぜ使うの?
MRI検査で造影剤を使う理由は何でしょうか?
造影剤を使う事で、通常では見えない血液の流れや血管の臓器への広がりなどを見ることができ、病気を検出したり、病気の性質をより詳しく診断することが可能となります。
例えば、脳への転移があるかどうかを調べる際には、造影MRIでは描出できるのに、CT検査や造影剤を用いない単純MRI検査では、小さな病変が描出されないことが割とあります。
腫瘍や炎症は造影されることが多いので、造影剤を用いることにより、病変部位と正常部位のコントラストがより明瞭になることが多いのです。
また造影剤が時間的にどの様に流れるかにより病変部位の質的診断を行うことも可能となるために使用します。
実際の造影剤を用いたMRIの画像を見てみましょう。
症例 70歳代男性 肺がん 頭部MRI
造影剤を用いていないT1強調像及びT2強調像では病変の指摘が困難です。
ところが造影剤を用いると、左の側頭葉に造影される結節が浮かび上がります。
肺がんの脳転移と診断されました。
- 血流状態を知ることができ、病変部位がより明瞭になるから。
- 場合によっては、造影剤を使わないと発見できない病変がある(脳転移など)。
MRI検査の造影剤の種類は?
MRI検査で使う造影剤には複数の種類があります。
まずは静脈注射する造影剤です。
静脈注射するMRI造影剤
ガドリニウム製剤(細胞外溶性造影剤)
現在最もよく使われている、MRIの造影剤です。
MRIの造影剤といえば、一般的にはガドリニウムと言っていいほどです。
細胞外液分布型のガドリニウム造影剤であり、静脈から投与された後は、血中・細胞間隙に分布し、尿中に排泄されます。
ガドリニウム製剤は各販売会社から出している複数の種類があります。
- マグネビスト®(Gd-DTPA):バイエルより販売。キレート構造は非イオン性の直鎖型。
- プロハンス®(Gd-HP-DO3A):エーザイより販売。キレート構造は非イオン性マクロ環。
- オムニスキャン®(Gd-DTPA-BMA):第一三共より販売。キレート構造は非イオン性の直鎖型。
- マグネスコープ®(Gd-DOTA):富士製薬より販売。キレート構造はイオン性マクロ環。
- ガドビスト®(Gd-BT-DO3A):バイエルより販売。キレート構造は非イオン性マクロ環。
と5種類があります。
どの造影剤を使うのかは各施設がどれを採用しているかによります。
EOB・プリモビスト(肝臓特異性造影剤)
肝臓の造影MRI検査に特異的に使われるのがこのEOB・プリモビストで、肝臓特異性造影剤とも呼ばれます。
- EOB・プリモビスト®(Gd-EOB-DTPA):バイエルより販売。キレート構造はイオン性の直鎖型。
と1社からのみ販売されています。
ガドリニウムによる造影の場合、細胞外液のみに造影剤は分布しますが、EOB・プリモビストでは、肝細胞にも取り込まれるのが特徴です。
ですので、尿中のほか、胆汁中へも排泄される特徴を持ちます。
(EOB・プリモビストもガドリニウム造影剤です。)
他の造影剤では見ることができない肝細胞相という肝臓に取り込まれる様子を見ることができ、造影剤が取り込まれていないところは、正常な肝細胞が存在しない(=何らかの病変がある)と判断することができます。
この造影剤を用いてダイナミック撮影することで、肝細胞癌、肝血管腫など肝臓の腫瘍の鑑別に役立ちます。
ですので、腹部超音波検査やCT検査で肝腫瘍が指摘された場合に、より精密な検査として、EOB・プリモビストMRIが行われます。
症例 60歳代男性 アルコール性肝硬変
EOBプリモビストMRIにおいて、肝臓のS4に早期動脈相で造影効果を認めており、肝細胞相で抜けを認めています。
肝細胞癌と診断され、肝動脈塞栓術(TAE)にて加療されました。
もう一つの肝臓特異性造影剤 SPIO
EOB・プリモビスト以外に肝臓特異性造影剤としてSPIO(読み方は「スパイオ」)があります。
これは血液と肝臓のクッパー細胞に取り込まれる特徴があります。
EOB・プリモビストが発売されてからは、役割が少なくなり脾臓の過誤腫の診断などに用いられることがあります。
続いて、経口投与する造影剤です。
経口投与する造影剤
経口投与ということは、その字の通り、口から投与するということで、MRIの画像を撮影する前に(MRI装置に入る前に)液体の造影剤を飲むということです。
経口投与の造影剤では、
- ボースデル®:協和発酵キリンから販売。
が有名です。
これは、主にMR胆管膵管造影(MRCP:MR cholangiopangreatography)で使用します。
胆管や膵管の形状の描出にすぐれている検査であるMRCP検査において、不必要な消化管の液体貯留の描出を消す役割があります。
詳しくはこちらの記事をチェック下さい。→MRI用経口消化管造影剤ボースデルとは?副作用は?
このように、MRIの造影剤と一口に言っても、静脈投与するものと、経口投与するものの2種類あるので注意が必要です。
MRI検査の造影剤の副作用は?
MRI造影剤を使用する事で副作用を起こすことがまれにあります。
MRI造影剤の副作用の頻度は?
その頻度はCTの造影剤(ヨード造影剤)による副作用と比較すると低いもので、重度の急性副作用は0.001~0.01%と報告されています(Manual on Contrast Media v10.2)。
重度でない副作用も含めると、急性副作用が起こる頻度は0.45%と報告されています(Magn Reson Med Sci 13:1-6,2014)。
MRI造影剤の副作用の症状は?
- 蕁麻疹、掻痒感、紅斑、悪心、熱感、不安感といった軽度のもの
- 重度の蕁麻疹、気管支痙攣、顔面・喉頭浮腫、嘔吐といった中等度のもの
- 低血圧性ショック、呼吸停止、心停止、不整脈、痙攣といった重度のもの
が報告されています。
ESUR Guidelines on Contrast Mediaでは、急性副作用を以下のように
- アレルギー様/過敏症
- 化学毒性
の2種類に大きく分けています。
(ESUR:9.0 Contrast Media Guidelines)
また急性期副作用ではありませんが、腎機能障害のある人にMRI造影剤を用いることで、腎性全身性線維症(NSF:nephrogenic Systemic Fibrosis)という非常に重篤なものも報告されています。
腎性全身性線維症(NSF)とは?
透析患者さんを含め、高度腎機能低下の患者さんにガドリニウム製剤を投与した後、
- 数日〜数ヶ月後:皮膚の腫脹・発赤・疼痛
- さらに進行すると:皮膚の硬化、筋肉表面や腱の石灰化、関節の拘縮により高度の身体機能障害、最悪死に至る
ということが起こることがあり、これを腎性全身性線維症(NSF)と言います。
腎機能障害によりガドリニウム製剤の排泄が遅くなり、その結果金属ガドリニウムがキレートから分離して、「重金属中毒」状態を生じてしまうことが原因と言われています。
ですので、腎機能の悪い人(特にeGFRが30未満の場合)にはこのガドリニウム製剤は使用禁忌とされています。
造影MRIで副作用の起こるリスクが高い人は?
以下の4つに当てはまる場合、造影MRIによる副作用の起こるリスクが2~9倍高くなると報告されています。(Radiology 196(2);439-443(1995))
- これまでにガドリニム造影剤で副作用が出たことがある
- これまでにヨード造影剤(主にCTや血管造影で用いられる造影剤)で副作用が出たことがある
- 気管支喘息
- ほかの薬剤過敏や蕁麻疹などアレルギー歴
中でも
- 喘息・アレルギー歴のある場合、副作用が起こる確率は2倍
- これまでにガドリニウム造影剤で副作用歴がある場合は、副作用が起こる確率が3~9倍
高くなると報告されています。(Radiology 196(2);439-443(1995))
MRI造影剤による副作用の予防策は?
造影剤に対するリスクがある場合でも、検査をすることでわかることの価値が患者さんにとって大きいと判断する場合は、副作用の発症を予防する処置をしてから造影MRIが撮影されることがあります。
その予防する処置とは、ステロイドの前投与です。
CT造影剤でも同様にリスクがある場合には行われることがあります。
ただし、注意点としては、ステロイドの投与が造影剤による副作用を軽減するという十分なエビデンスはないということです。
また、このステロイド投与はMRIであれ、CTであれ、造影剤を使用する数時間(6時間とも)前には投与しておかなくてはなりません。
これはステロイドによる抗アレルギー作用が発揮される(ケミカルメディエーター放出の抑制)のに時間がかかるためです。
検査直前に投与すればいよいというわけではありません。
MRIで造影剤を使用する前の食事は?絶食は必要?
食事については医療機関で違いがあります。
ちなみに造影剤を使用する前の絶飲食について、日本医学放射線学会は公式見解を出していないようで、患者用のパンフレットには「医師にお尋ねください」となっています。
医療機関によって対応が違うのはこのように学会としての意見統一が図られていない事も一因のようです。
しかし、造影剤の副作用として頻発なものとして、嘔気・嘔吐があるため、出来るだけ胃の中は空にしておきたいことから絶食が望ましく、検査部位に限らず、造影検査がある場合には、検査の4~5時間前から食事は控えて下さい。
検査後は造影剤のほとんどが尿として排泄されますので、排泄を促進するため水分を多めに摂るように心掛けてください。
食事は普通に摂っても大丈夫です。
脳をMRIで検査する際に造影剤を使うのはどんな場合?副作用は?
脳のMRI検査で造影剤を使用するのは以下の様な場合です。
- 脳腫瘍の有無の確認をする場合。(癌の脳転移や癌性髄膜炎など)
- 脳腫瘍が疑われる場合で、その性質を明確にする場合。(神経膠腫の良性・悪性の判断)
- 脳腫瘍と正常部分の境界がどうなっているのかを調べる場合。(下垂体腺腫および下垂体近傍の病変の検査)
- 低髄圧症候群を診断をする場合。
などが挙げられます。
中でも頻度が高いのが、肺がんや乳がんなど別のところに癌があって、脳への転移の検査をするときです。
この場合は、上に示したように造影剤なしのMRI検査では、病気があっても検出できないことがあるので、造影剤の使用禁忌などでない場合は造影剤を使ったMRI検査が望ましいです。
ただし、脳転移の検索などではなく、単なる脳のMRIのスクリーニング検査では造影剤は通常使用しません。
基本的にはまずは造影剤なしで撮影して、何か見つかれば造影剤を用いて再度検査をすることがあります。
子宮や卵巣のMRI検査をする際に造影剤を使うのはどんな場合?
子宮のMRIで造影剤を使う理由は?
子宮のMRI検査をする際に造影剤を使うのは子宮筋腫で造影剤を使う場合は、平滑筋腫か、平滑筋肉腫鑑別のためです。
前者は良性の子宮筋腫で、後者は悪性になりますが比較的稀な病気です。
これらは腫瘤内部の性状や、造影剤の濃染パターンからある程度予測ができます。
子宮筋腫自体は、造影剤を使用しなくても診断できることが多いのですが、筋腫の中には変性や出血を伴っているものもあり、そのような場合は念のため悪性も疑う必要があり、造影剤を使用して鑑別する事になります(ただし、造影剤を使うことで必ずしも鑑別ができるわけではありません)。
卵巣のMRIで造影剤を使う理由は?
卵巣のMRI検査をする際に造影剤を使うのは、卵巣腫瘍の良悪性の鑑別をしたり、卵巣の造影効果を確認するためです。
ただし、卵巣の腫瘍は癌との鑑別が難しいこともあり、MRIの他にも腫瘍マーカー検査などが行なわれています。
卵巣には、様々な良性腫瘍も発生し、子宮内膜症の影響で生じるチョコレートのう腫や水や粘液が溜まるのう腫も多い病気で、この様な病気と悪性の癌を早めに鑑別するこは非常に重要となるため造影剤を使用しての詳しい検査が必要となります。
悪性の場合は、充実部位が目立つ傾向にあり、造影剤を使うことでこの充実部位がより明瞭になり、造影効果を認めたりするので、そういった点から悪性を疑っていきます。
その他、卵巣腫瘍の捻転が疑われる場合に、卵巣の造影効果を確認するために造影剤が用いられることがあります。
子宮と卵巣に分けて解説をしましたが、子宮も卵巣も同じ骨盤内に存在しますので、一回の撮影で両方を評価することができます。
人間ドックなどの骨盤MRI検査では、通常造影剤は使用しません。
脳の場合と同じく造影剤を用いない単純MRIで病変が見つかったり、エコー検査やCT検査で病変が見つかった場合に、造影剤を用いて検査をすることがあります。
授乳中の人が造影MRIを受けた場合の影響は?
授乳婦が造影MRI(ガドリニウム)を受けた場合、24時間後までの乳汁中への移行量は、静脈から注射した造影剤量の0.04%以下と報告されています。(Radiology 216(2):555-558(2000))
さらにそれを飲んだ乳児が消化管から吸収される量はごくごくわずかであり、静脈から注射した造影剤量の0.0004%未満と報告されています。(Radiology 216(2):555-558(2000))
ですので、影響はほぼないと考えられるのですが、欧州泌尿生殖器放射線学会(ESUR:European Society of Urogenital Radiology)では、NSFの観点から、造影剤投与後24時間は授乳を避けるべきであると報告しています。(ESUR Guidelines on Contrast Media Ver.7.0(2008))
最後に
MRI検査は、ヨード系造影剤を使う造影CT検査と比べても副作用の発生率は格段に低く安全な検査といえます。
検査を行う場合には、検査の内容、有用性、合併症や副作用、代替検査の有無などを十分に説明をすることになっていますので、安心して検査に臨むことが出来ます。
それでも心配な方は、検査を受ける医療機関にて検査前の診察の際に詳しく説明してもらうようにして下さい。