造影剤を用いたCT検査に、ダイナミックCTがあります。
肝臓を撮影するときに最も多く用いられますが、膵臓や腎臓などでもこのダイナミックCTを撮影されることがあります。
ダイナミックとは、dynamicのことで意味は「動的な」という意味で、名前は一見カッコよい(?)このダイナミックCTですが、一体どのようなものなのでしょうか?
今回は、このダイナミックCTについて肝臓の場合を中心にまとめました。
これを読めば、ダイナミックCTがどのようなもので、どのような場合に適応があり、どういうメリットがあるのかがわかります。
では行きましょう!
ダイナミックCTとは?
ダイナミックCTとは、造影剤を急速に静脈から投与した後、臓器の血行動態を意識したタイミングで複数回撮影する撮像方法です。
臓器によってこのタイミングは変わり、肝臓ならば肝臓の血行動態を、膵臓ならば膵臓の血行動態を意識したタイミングで撮影します。
肝臓を例に見ていきましょう。
図は1)を引用改変
上の表は造影剤を静脈に急速に注射したあと、動脈と肝臓実質の造影効果であるCT値の経時的な変化(時間濃度曲線)です。
- 動脈相
- 肝実質相
- 平衡相
と3つのタイミングで撮影をします。
つまり、同じ部位(肝臓)を3回(場合によっては4回)のタイミングでCT撮影するということです。
なぜ同じ部位を3回も撮影するのでしょうか?
肝臓や肝腫瘍の最大の造影効果を見ることができるからです。
ダイナミック撮影をすることにより、肝臓や肝臓の腫瘍の最大の造影効果を見ることができます。
つまり、腫瘍ならばどのような造影パターンを示すのかを最もよく捉えることができるということです。
肝臓に限らず、腫瘍はどのように造影されるのかのパターン(造影パターン)が鑑別に非常に重要なのですが、エコーとは異なり、CTは2分間ずっと撮影し続けることはできません。(もちろん被曝の問題もあります。)
ですので、腫瘍の造影パターンがわかる良いところを3つ選んで撮影するというわけです。
それが、動脈相・肝実質相・平衡相となります。
動脈相
静脈への注入を開始してから30-40秒で腹部の動脈に到達するため、ここを動脈(優位)相と言います。
ただし、肝臓癌が疑われる場合などには、周囲の正常肝実質が造影される前に腫瘍のみが染まるように、この動脈相を早期動脈相、後期動脈相(50〜60秒)と分けて撮影されることがあります。(下の症例はこのタイミングで撮影されています)
肝実質相
その後、主に腸管から返ってきた血液は門脈に流れ、60-80秒で肝臓の実質が最も強く造影される肝実質相(門脈相)へと変わります。
平衡相
さらにその後は、血管内と細胞外液中の造影剤濃度が平衡状態となり、この状態が腎臓から造影剤が排泄されるまでの10分以上続くのです。
平衡相の撮影自体は、造影開始から200秒前後で行われます。
症例 60歳代女性 肝腫瘤の精査
エコーで指摘された肝腫瘍に対してダイナミックCTが撮影されました。
まず背景の肝臓の色が各相によって全然違いますね。
そして、肝臓S7に3.5cm大の腫瘤を認めています。
ダイナミックにおいては、
- 早期動脈相:動脈に加えてわずかに腫瘍に造影効果あり。
- 後期動脈相:腫瘍に著明な造影効果あり。
- 平衡相:内部はwash out(洗い出し)あり。辺縁にはリング状の造影効果を認めています。
典型的な肝細胞癌(HCC)を疑う所見です。
手術にて肝部分切除術が施行されました。
肝臓ダイナミックCTの適応は?
ダイナミックCTの中では、最もよく撮影される肝臓のダイナミックCTは「肝ダイナミックCT」「肝ダイナ」などと呼ばれたりしますが、どのような場合に適応となるのでしょうか。
医療の現場で実際にダイナミックCTを撮影されることがあるのは以下の場合です。
- 腹部エコーや単純CTで肝嚢胞以外の肝腫瘤を指摘された場合(その精密検査として)
- AFPやPIVKAⅡといった肝臓癌の腫瘍マーカーで異常高値を指摘された場合
- B型肝炎、C型肝炎でフォローされている場合
- 慢性肝炎、肝硬変でフォローされている場合
- 急性肝炎を疑う臨床所見がある場合
- 急性胆管炎を疑う臨床所見がある場合 など
が挙げられます。
どんな肝臓の病気にダイナミックCTは有用か?
そしてとくに、単なる造影CTではなく肝臓ダイナミックCTを撮影することで恩恵を受けられる(診断に近づける)病気は、
- 肝血管腫(最多)
- 肝細胞癌
- 胆管細胞癌
- 転移性肝腫瘍(とくに多血性病変の場合)
- 肝膿瘍
- 限局性結節性過形成(FNH)
などが挙げられます。
とくに肝血管腫は頻度が高い良性腫瘍で、しばしば診断にはダイナミックCTが有用です。
肝臓ダイナミックと膵臓ダイナミックではタイミングが違う?
肝臓が最もよく造影される時間と、膵臓が最もよく造影される時間は異なります。
特に肝臓は肝動脈に加えて、門脈からも栄養(血流)を受けています。
(肝臓のうち、肝動脈が1/3、門脈が2/3を栄養)
一方で、膵臓は動脈のみから栄養(血流)を受けています。腎臓の場合もそうです。
ですので、膵臓の実質相は肝臓の実質相よりもタイミングは速くなります。
膵臓ダイナミックCTは膵臓癌の診断に、腎臓ダイナミックCTは腎臓癌の診断にとくに有用です。
ダイナミックCTと造影CTの違いは?
ダイナミックCTは通常3相(場合によっては2相、4相)に分けて撮影する方法です。
一方で、ダイナミックではない通常の造影CTの場合は、平衡相に相当するタイミングで1回のみ撮影します。
肝臓や膵臓、腎臓などに腫瘍があることがわかっているときは、ダイナミックCTで血行動態を観察することが重要となりますので、その場合は単なる造影CTではなくて、それぞれのダイナミックCTを撮影することが望まれます。
しかしながら、被ばく量は当然その分増加しますので、「大は小を兼ねる」という発想で、なんでもダイナミックCTを撮影するのはもちろんNGです。
参考文献:
1)医学生・研修医のための画像診断 First Aid P266-300,2005
最後に
ダイナミックCTについてまとめました。
臓器や腫瘍は造影剤を注入してから数十秒の間に、その造影効果はそれこそ「ダイナミック」な変化をすることがわかりました。
ダイナミックな変化をする要所要所を「いいところ取り」したのがダイナミックCTだと言うことです。
ダイナミックCTを撮影することにより、臓器や腫瘍の血流のパターン(造影効果のパターン)を見ることで診断に役立てることができます。
ただし、被曝量はその分増えてしまいますので、なんでもダイナミックCTを撮影すればいいと言うものではありませんので注意が必要です。
腹部救急でダイナミックCTを撮るタイミングはどんな時でしょうか?いつも迷います。
活動性出血や腸管虚血など疑う時に撮っているというぼんやりとしたイメージです。何かご教示いただけると幸いです。
コメントありがとうございます。
>活動性出血や腸管虚血など疑う時に撮っているというぼんやりとしたイメージです
この2つを疑うときはダイナミックCTは特に重要ですね。その際にも単純CTの撮影を忘れずにですが。
あとは、腹部臓器損傷、肝炎、肝膿瘍、膵炎、胆嚢炎、SMA塞栓、NOMIなどを疑う場合に有用ですね。
この場合も単純CTも併せて撮影したいところです。
とても参考になりました!ありがとうございました。
肝臓のダイナミックCTで撮影した場合、膵臓にもし膵管拡張や腫瘍や腫瘤などあった場合でもわかりますか?
やはり膵臓のダイナミックCTでなければわからないのでしょうか。
お忙しい中申し訳ございませんが、お答えいただけると助かります。
コメントありがとうございます。
>肝臓のダイナミックCTで撮影した場合、膵臓にもし膵管拡張や腫瘍や腫瘤などあった場合でもわかりますか?
分かることが多いですが、サイズが小さい腫瘤はわからないこともあります。
>やはり膵臓のダイナミックCTでなければわからないのでしょうか。
膵臓の腫瘍はサイズが大きいものならば単純CTでわかることもありますが、やはりダイナミックCTでの評価が重要となります。
早速のお返事本当にありがとうございます。
こちらは患者の立場として質問してもよろしいでしょうか。
実は検診にて膵管拡張と診断されクリニックで単純CTをしたら膵臓には異状なしとあったのですが肝臓に影が見つかり総合病院で肝臓の精密検査をしました。
そのときに総合病院の医師は肝腫瘍の疑いで造影CTを依頼し、CTのレポートには膵臓に異常吸収域は指摘できないと書かれてました。
検診のエコーにて膵管拡張があっても肝臓のダイナミックCTで膵臓に異常なしと書かれていたら安心しても大丈夫でしょうか。
総合病院の医師にCTを見て膵管何ミリかと尋ねると2.5ミリと言われました。
長々と申し訳ありません。不安で不安で探して行き着いたサイトがこちらでしたので質問させていただきました。
申し訳ありません。
お問い合わせのところにも記載があるように医療相談に乗ることはできません。
トラブルを避けるためです。
膵管が2.5mmならば特に有意な拡張ではないと思いますが、画像を見たわけでもないですし、「安心してください」とはとても申し上げられません。
また画像を見せていただき相談していただくこともできません。
申し訳ありませんがご理解ください。
申し訳ありませんでした。
問い合わせのところの記載の旨見落としておりました。
お返事くださってありがとうございました。
コメント失礼します。
肺のCTで4D-CTとDynamic ventilation CTは同義になるのでしょうか?
教えていただきたいです。
コメントありがとうございます。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kokyurinsho/2/12/2_e00056/_article/-char/ja/
こちらによると同義のようです。
いつもこちらのサイトで勉強させていただいてます。ありがとうございます。
動脈相、門脈相、静脈相、排泄相は上記時間経過で、各々何秒後に撮影するかは施設間で多少異なると理解しておりますが、
遅延相や平衡相という言葉の定義はこれらの相との時間関係では一般的にどこにあたりますでしょうか?教えてください。
コメントありがとうございます。
今回は肝臓ダイナミックを例に挙げていますので、排泄相はありませんが、腎ダイナミックでは排泄相も撮影されることがあります。
>遅延相や平衡相という言葉の定義はこれらの相との時間関係では一般的にどこにあたりますでしょうか?教えてください。
こちらも施設によって異なったニュアンスで使用されている可能性がありますので、ご自身の施設でどのタイミングでそのような用語が使われているのかをご確認いただいた方が良いと思います。
EOBーMRIの場合は肝細胞相もありますし。
関連
https://www.teramoto.or.jp/teramoto_hp/kousin/sinryou/gazoushindan/case/case135/index.html
医療系の論文翻訳を専門に行っています。
専門用語やその内容を知るうえで大変参考になります。ありがとうございます。
コメントありがとうございます。
お役に立ててよかったです。