先に結論:フィッツ・ヒュー・カーティス(Fitz-Hugh-Curtis)症候群とは
- クラミジアや淋菌による骨盤の感染(骨盤腹膜炎)が、おなかの中を上へ広がって肝臓の表面に炎症(肝周囲炎)を起こした状態です。若い女性の右上腹部痛(右季肋部痛)の原因として重要で、胆のう炎などとまちがえられやすい病気です。下腹部の症状がほとんどないこともあります
- クラミジア・淋菌以外では、結核性の卵管炎・腹膜炎や産後の子宮内膜炎に伴う報告もあります(Coremans 2018; Amodeo 2021)。男性の報告はごくまれです
- 診断は子宮頸管ぬぐい液や尿のPCR検査、血液の抗体検査などで行い、抗菌薬で治療します(パートナーの治療も必要)
- 造影CTの早い時相(動脈相)で、肝臓の表面(被膜)に沿って帯状に強く染まるのが特徴的な所見で、この病気を疑ってダイナミックCTを撮ることが診断の鍵です。慢性期には肝臓と腹壁の間に「バイオリンの弦」のような癒着ができます
Fitz-Hugh-Curtis症候群とは?
- クラミジア(Chlamydia trachomatis)や淋菌は骨盤腹膜炎を引き起こす。その骨盤腹膜炎(PID)が上行感染し、肝周囲の限局的な腹膜炎(肝周囲炎)を起こすことがあり、これをFitz-Hugh-Curtis症候群という。
- 上行感染する経路としては、右傍結腸溝を介して腹腔内を直接進展していくほか、リンパ行性の経路が考えられている。
- 上腹部痛(特に右季肋部痛)を主訴とする。これは肝周囲炎が肝臓被膜や腹膜へ及ぶことが原因と考えられている。
- 先行する骨盤腹膜炎(PID)の症状が乏しく、上腹部痛(特に右季肋部痛)を初発の主訴として受診することがある。
- 女性に多く見られ、若年女性の急性腹症としては鑑別に入れるべき疾患。軽症〜中等症のPIDの思春期女性117例では、4.3%(5例)が症状のあるFitz-Hugh-Curtis症候群だった(Risser 2007)。
- 急性期は肝臓表面の滲出性炎症であり、慢性期には肝臓表面と腹壁の間に線維性癒着を生じ、その腹腔鏡における肉眼的外観からviolin-string appearanceと呼ばれる。
- 診断は血清学的抗体価の上昇、尿PCR、頸管スワブから診断されることが多い。
- 治療は、クラミジアにはテトラサイクリン系(ドキシサイクリンなど)やマクロライド系(アジスロマイシンなど)、淋菌にはセフトリアキソンなどの抗菌薬。パートナーの検査・治療も必要。
肝周囲炎の原因(クラミジア以外も)と症状のまとめ
| 項目 | 内容 |
| 主な原因 | クラミジア・トラコマチス、淋菌による骨盤腹膜炎(PID) |
| クラミジア以外の報告 | 結核性卵管炎・腹膜炎(Coremans 2018)、産後の子宮内膜炎(Amodeo 2021)。男性の報告は文献上9例と少ない(Freiria-Eiras 2018) |
| 炎症の場所 | 肝臓の被膜とまわりの腹膜(肝臓の実質には及ばない)(Sánchez-Oro 2020) |
| 症状 | 右季肋部(右上腹部)の急な痛み。下腹部痛や帯下などPIDの症状は乏しいこともある |
| まちがえられやすい病気 | 胆嚢炎・胆管炎などの胆道の病気、胃十二指腸の病気、腎盂腎炎・尿管結石など(Sánchez-Oro 2020) |
| 診断の鍵 | クラミジア・淋菌の検査(頸管・尿のPCR、抗体)と、造影CT早期相の肝被膜濃染 |
Fitz-Hugh-Curtis症候群のCT画像所見は?
- ダイナミックCTで造影早期相での肝被膜(内側区から右葉外側区中心)に沿った造影効果を認める。これは肝周囲から肝被膜に及んだ炎症に伴う血流の増加と考えられている。
- 慢性期になると、早期のみでなく、遅延造影を認めることもあり、こちらは炎症に伴う線維性の変化を反映していると考えられる(線維性変化はゆっくり造影される。)。肝周囲に限局性の液貯留が起こることもある。
- 加療後はこの所見は消失する。13例の検討では、早期相の肝被膜濃染は全例にみられて治療後に消失し、4例では脾被膜の濃染も伴った。肝周囲の癒着帯や液貯留は認めず、超音波では異常を指摘できなかったため、超音波や内視鏡で所見に乏しい若年女性の右上腹部痛では造影CTが診断に役立つとされる(Nishie A, et al. 2003)。
- 骨盤感染症を疑うCT所見は必ずしも認められない。時として卵管水腫や卵管炎などを疑う所見が認められることがある。

症例 20歳代女性 右腹部痛

引用:Radiopaedia
肝被膜にわずかな造影効果を認めており、それを尾側に追うと大網に脂肪織濃度上昇を認めており、炎症が上行性に肝被膜に到達したと推測されます。
尿からクラミジア・トラコマチス抗原が検出され、骨盤腹膜炎が肝被膜に及んだ肝被膜炎(Fitz-Hugh-Curtis症候群)と診断されました。
※動脈相が撮影されていれば肝被膜を縁取るような造影効果はより明瞭であったのだろうと推測されます。
造影早期相での肝被膜(内側区から右葉外側区中心)に沿った造影効果を認めうる疾患
造影早期相での肝被膜に沿った造影効果があれば、この疾患というわけではなく、以下の疾患で呈しうるので注意が必要です。
- 全身性エリテマトーデス(SLE)
- 上部消化管穿孔
- 穿孔性胆嚢炎
- 穿孔性肝膿瘍
- 結核性腹膜炎

など。
症例 60歳台男性 胃穿孔による汎発性腹膜炎

ダイナミックCTの早期相で、肝辺縁に造影効果を認めています。
こちらは腹膜炎の炎症が肝被膜に波及したため造影効果を認めていると考えることができます。
Fitz-Hugh-Curtis症候群でよくある疑問(Q&A)
Q. 超音波で異常がなくても否定できませんか?
A. できません。13例の検討では超音波で異常を指摘できず、造影CTの早期相で全例に肝被膜の濃染がみられました(Nishie 2003)。若い女性の右上腹部痛で超音波や内視鏡に異常がないときは、この病気を疑って造影CTを考えます。
Q. 男性にも起こりますか?
A. ごくまれに報告がありますが、文献上の報告は9例と少数です(Freiria-Eiras 2018)。
右上腹部や下腹部の痛み、発熱、おりものの変化など気になる症状があれば、医療機関を受診してください。
参考文献)
画像診断 Vol.38 No.1 2018 P27
- Nishie A, Yoshimitsu K, Irie H, et al. Fitz-Hugh-Curtis syndrome. Radiologic manifestation. J Comput Assist Tomogr. 2003;27(5):786-791. PubMed
- Takeshita T, Shima H, Oishi S, et al. Fitz-Hugh-Curtis syndrome: hepatic capsular enhancement and diffuse gallbladder wall thickening on contrast-enhanced CT. Intern Med. 2004;43(7):632-633. PubMed
- Risser WL, Risser JM, Benjamins LJ, et al. Incidence of Fitz-Hugh-Curtis syndrome in adolescents who have pelvic inflammatory disease. J Pediatr Adolesc Gynecol. 2007;20(3):179-80. PubMed
- Sánchez-Oro R, Jara-Díaz AM, Martínez-Sanz G. Fitz-Hugh-Curtis syndrome: A cause of right upper quadrant abdominal pain. Med Clin (Barc). 2020;154(11):447-452. PubMed
- Coremans L, de Clerck F. Fitz-Hugh-Curtis syndrome associated with tuberculous salpingitis and peritonitis: a case presentation and review of literature. BMC Gastroenterol. 2018;18(1):42. PubMed
- Amodeo S, Paci G, Cutaia G, et al. Fitz-Hugh-Curtis Syndrome Secondary to Postpartum Endometritis: Case Report and Literature Review. Gynecol Minim Invasive Ther. 2021;10(3):184-186. PubMed
- Freiria-Eiras MA, Varela-Lamas C. Síndrome de Fitz-Hugh-Curtis en un paciente varón anciano. Caso y revisión de la literatura. Cir Cir. 2018;86(5):455-458. PubMed
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いつも勉強になっています。
質問なのですが、
本日ERで突然発症の腹痛および上腹部に限局する板状硬の患者がおり、即座に造影CT施行したところ、肝皮膜の早期濃染および腸間膜の若干の脂肪濃度上昇を認め、上部消化管穿孔を疑い、消化管外科に相談しましたが、様子観察の指示を受けました。明らかに腹痛も持続しており、身体所見も変化がなかったため、repeat CT施行したところ、Freeairを認め、穿孔症例として、入院の方針となった患者様がおられます。
その後文献検索も兼ねて、検索を行っていると先生のサイトの記載を確認しました。炎症波及による造影効果というふうに認識はしていたのですが、症例報告Baseのものでも良いので、文献などありますでしょうか。
急な連絡で大変申し訳ありませんが、お手隙な際にご連絡いただけると幸いです
コメントありがとうございます。
肝皮膜の早期濃染についてですが、ご認識の通り、穿孔や限局性腹膜炎に伴う肝周囲腹膜への炎症波及、いわゆるperihepatitisを反映した所見として考えてよいと思います。
この所見そのものはFitz-Hugh-Curtis症候群でよく知られていますが、Fitz-Hugh-Curtis症候群に特異的な所見ではなく、腹腔内炎症や肝周囲の炎症波及でも生じうる非特異的所見とされています。
参考になりそうな文献として調べたところ、肝周囲腔のCT所見をまとめた
Kim S, et al. The Perihepatic Space: Comprehensive Anatomy and CT Features of Pathologic Conditions. RadioGraphics. 2007;27:129–143.
があり、perihepatitisに伴う hepatic capsular enhancement について記載があります。
また、
Park JS, et al. Analysis of Hepatic Capsular Enhancement Mimicking the Fitz-Hugh-Curtis Syndrome on Multidetector Computed Tomography. J Korean Radiol Soc. 2008;58:277–282.
では、肝皮膜濃染はFitz-Hugh-Curtis症候群以外でも見られる非特異的所見であり、背景疾患の検索が重要とされています。
上部消化管穿孔そのものに伴う「肝皮膜濃染」に限定した文献は多くない印象ですが、消化管穿孔のCT所見については、
Kim SH, et al. Gastrointestinal Tract Perforation: MDCT Findings according to the Perforation Sites. Korean J Radiol. 2009;10:63–70.
などが参考になります。free airだけでなく、壁肥厚、壁欠損、周囲脂肪織濃度上昇、限局性液体貯留などの間接所見も重要とされています。
今回のように、身体所見が強く、初回CTで明らかなfree airを認めなくても、肝皮膜濃染や限局性脂肪織濃度上昇を認める場合には、上部消化管穿孔・限局性腹膜炎の早期像として慎重に扱うべきだと思います。repeat CTでfree airが明らかになったという経過も、非常に重要なポイントだと思います。
よろしくお願いします。