腹痛患者に画像検査を行う場合、
- 単純X線写真
- 腹部エコー
- 腹部CT
の3種類があります。検査には、得意な疾患とそうでない疾患があります。腹痛と聞けば何でもCT検査をすると、被ばく量を増やしてしまします。
そこで今回は、それぞれの検査の適応についてまとめたいと思います。
単純X線写真の適応は?
単純X線写真は、腹痛患者のスクリーニング検査として頻繁に行われますが、
「とりあえずレントゲン」
「何も検査をしないのもあれなので、患者さんを安心させるためにレントゲン」
と、見るべきポイントや、適応もわからないまま、撮影しても意味がありません。腹部単純X線の適応は、
- 消化管閉塞を疑う場合
- 便秘を疑う場合
の大きく2つです。腹部の様子を1枚の写真に収めることができ、消化管内のガスの分布や便秘の状態を見るのに優れた検査です。
そして、腹部単純X線を撮影する場合、立位が可能な患者さんの場合は、立位と臥位の2方向を撮影するようにしましょう。ところで、なぜ2方向なのでしょうか?
それは、
- ニボー像
- 腹水
の有無を確認するためです。
ニボー像
小腸にニボー(niveau)像を認めば、小腸閉塞が疑われますが、イコール「イレウス」であると診断してはいけません。というのは、イレウスの診断には、排ガスや排便症状がないという閉塞症状がなければ診断できないからです。
小腸ニボー像の場合は、必ずしもCTの適応にはなりませんが、大腸ニボーの場合は、造影CTの適応となります。なぜなら、小腸とは異なり、大腸ニボー像の場合は、大腸癌や炎症による機械的な閉塞が隠れている可能性が高いためです。機能性のイレウスが少ないということです。
大量の便、ガス。ガスが正中部のみのとき
また、結腸〜直腸に大量の便やガスの貯留を認める場合、便秘症を疑いますし、腸管ガスが腹部の正中部のみで辺縁に見られない場合は、腹水貯留(大量)を疑います。
その他
腸腰筋のラインが消失している場合は、後腹膜の病変を疑います。腫瘍や出血がまず鑑別に上がります。
また、free airを認めた場合は、当然消化管穿孔を疑います。
腹部エコーの適応は?
エコーは簡便で侵襲性も低い検査で、ぜひ身につけるべき検査です。ただし、エコーで腹部が全部わかるわけではありません。エコーが得意とする疾患は非常に限られているということです。
エコーが得意とする疾患は以下の通りです。
- 胆嚢結石
- 胆嚢炎
- 総胆管結石
- 肝膿瘍
- 水腎症
- 腹部大動脈瘤
- 腹水 など。
逆に、エコーが苦手とするのは、消化管全般です。また患者さんの体型などによっては、非常に見えにくい場合もあります。
また、単純X線写真やCTと異なり、得られる画像は、エコーは術者の技量により左右される点も特徴です。
腹部CTの適応は?
CTは腹腔内のすべての臓器を観察することができる唯一の検査です。
造影剤を用いることにより、より診断能は上がりますが、単純CTの情報が非常に重要な疾患もある(尿管結石や大動脈解離など)ため、可能ならば、
▶︎単純CT+造影CT
を撮影することが望まれます。
ただし、CTを撮影する場合、被ばくの問題、また造影剤を使う場合は、アナフィラキシーの問題、造影剤腎症の問題がありますので、
- 女性の場合は、妊娠の可能性の考慮(場合によっては、妊娠反応検査を施行する)
- アレルギー歴の問診および造影剤を用いることにより起こりうる合併症の説明、
- さらに、造影剤使用前の腎機能の評価
は欠かせません。(緊急時は例外です。)
つまり、CTは非常に優れた検査ですが、腹痛患者に全例行うべき検査ではありません。腹部造影CT検査の適応となる疾患は以下のとおりです。
- 重症の急性腹症
- 腹膜刺激症状陽性
- ブスコパン®無効例
- 末梢WBC > 15,000
- 尿管結石疑い例(この場合は単純CT)
- 腹部単純X線で上に記載したような所見がある場合
各疾患の画像診断の特徴は、腹部救急画像診断をご覧ください。