先に結論:下垂体炎(リンパ球性・IgG4関連)

  • リンパ球性下垂体炎は下垂体の自己免疫性の炎症で、前葉炎(妊娠・出産期の女性に多い)と漏斗後葉炎(尿崩症で発症)、両方の汎下垂体炎があります
  • MRIでは下垂体の左右対称な腫大と強い均一な造影・下垂体柄の肥厚、後葉の高信号の消失が見られ、海綿静脈洞周囲のT2低信号は腺腫との区別に役立ちます
  • IgG4関連下垂体炎は下垂体・下垂体柄の腫大、後葉のT1高信号の消失、T2での低信号(線維化)を示し、涙腺・唾液腺の腫大や眼窩・後腹膜などの他臓器病変があれば大きな手がかりになります。血清IgG4が正常でも否定はできません
  • 免疫チェックポイント阻害薬による下垂体炎も重要で、薬歴と血清IgG4を確認します
  • 多尿(尿崩症)で見つかる鞍上部・下垂体柄の病変では、リンパ球性・IgG4関連下垂体炎のほか、ランゲルハンス細胞組織球症(LCH)や腫瘍を考えます(下の節)

下垂体炎とは

  • 下垂体炎(hypophysitis)とは、脳の下にある下垂体に炎症が起こる病気の総称です。多くは下垂体ホルモンの不足(下垂体機能低下症)と下垂体の腫大を起こします(Joshi 2018)。
  • 下垂体そのものが原因の原発性(リンパ球性が最多。ほかに肉芽腫性、黄色腫性)と、全身の病気・薬剤(免疫療法)・トルコ鞍の病変に伴う二次性に分けられます(Joshi 2018)。
  • 症状は、ホルモン不足による倦怠感などのほか、尿崩症(多尿・口渇)、頭痛、視野障害です(Gutenberg 2006)。気になる症状があれば内分泌内科など医療機関を受診してください。

下垂体炎の分類

lymphocytic hypophysitis

  • 原発性下垂体炎:リンパ球性(頻度が高い。今はコレ)、肉芽腫性、黄色腫性(Gutenberg 2006)
  • 二次性下垂体炎:下垂体腺腫の無菌性壊死による膿瘍、頭蓋咽頭腫・Rathke嚢胞に伴う下垂体炎、細菌性髄膜炎や免疫抑制患者での真菌感染に続発する下垂体膿瘍、サルコイドーシス、結核、梅毒、多発血管炎性肉芽腫症(GPA)、LCHなどに伴う肉芽腫性下垂体炎など。

リンパ球性下垂体炎

上の表のように下垂体の

  • 前葉が侵されるリンパ球性腺下垂体炎=前葉炎(lymphocytic adenohypophysitis(LAH))
  • 後葉および漏斗が侵されるリンパ球性神経下垂体炎=漏斗後葉炎(lymphocytic infundibulo-neurohypophysitis(LIN))
    に分類される。
  • 両方侵す場合は汎下垂体炎(panhypophysitis)と呼ばれる
  • LINや汎の場合はIgG4関連下垂体炎も考慮。

リンパ球性腺下垂体炎

  • 若い女性で妊娠、出産との関連が言われている。原発性下垂体炎31例のうち、妊娠中に発症したのはリンパ球性だけで、30%でした(Gutenberg 2006)。
  • このほかの年齢や男性でも発症する。
  • 橋本病やSLEなど自己免疫疾患が合併していることがある。
  • 炎症が下垂体前葉に限局する型では、後葉は侵されず尿崩症を伴わない。ただし実際には、リンパ球性と肉芽腫性の下垂体炎では、副腎・性腺・甲状腺の機能低下とともに尿崩症も多くみられたと報告されている(Gutenberg 2006)。
  • ただし、前葉の腺下垂体が主体(adenohypophysitis)、下垂体柄や後葉といった神経下垂体のみ侵すもの(infundibuloneurohypophysitis)、腺神経下垂体ともに病変があるもの(hypophysitis)、海綿静脈洞に波及するものなどさまざまある。
  • 視神経や、視交叉を圧迫することあり。
  • 治療はステロイド投与が中心で、リンパ球性では75%で下垂体の縮小に有効だった(Gutenberg 2006)。

画像所見

  • 前葉の対称性腫大。
  • 強い均一な造影効果を認める。
  • 線維化してくるとT2WI 低信号で造影効果は弱まる(Parasellar T2 dark sign)。海綿静脈洞など周囲にT2WIで著明な低信号。腺腫では認めない所見。リンパ球性下垂体炎20例と下垂体腺腫22例の比較では、後葉高信号の消失・下垂体柄の肥厚・左右対称な腫大・均一な造影も有意差がありましたが、偽陽性がなかったのは鞍隔周囲のT2低信号(parasellar T2 dark sign)だけでした。単独の所見では決め手にならないため、妊娠との関連、下垂体の体積と対称性、造影後の信号強度と均一性、後葉高信号の有無、下垂体柄の太さ、粘膜の腫脹を組み合わせたスコアが提案されており、402例の検討で感度92%・特異度99%でした。
症例 30歳代女性

F1.large (1)

A: A dark-signal-intensity area is seen in the cavernous sinus and sellar floor (arrow).
B: 造影効果はT2WIで低信号部位は落ちている。他は均一。

AJNR 2010 31: 1944-1950より引用

リンパ球性神経下垂体炎

  • 妊娠や出産とは基本的に関係ない。
  • 尿崩症を伴って発症する。
  • 特発性とされていた中枢性尿崩症17例のうち9例で、下垂体柄の肥厚や後葉の腫大と後葉高信号の消失がみられ、経過で消えたことから、この病気が原因の一つと考えられています(Imura 1993)。
  • 腫瘤は小さく下垂体柄の腫大が一般的。
  • 下垂体後葉や柄から発生する腫瘍とは、画像のみでは区別が難しいことがある。

IgG4関連下垂体炎

  • IgG4関連疾患が下垂体・下垂体柄に起こったもので、リンパ球性・肉芽腫性に加えて下垂体炎の一つの型として報告されました(Leporati 2011)。
  • 中枢神経では眼窩、髄膜(硬膜)、下垂体、下垂体柄に病変がみられることがあります。
  • 下垂体機能低下や尿崩症を生じます。IgG4関連下垂体炎76例の系統的レビューでは、男女比1.5:1、診断時の年齢は54.1±17.8歳で、汎下垂体機能低下症が57.9%、前葉機能低下症が18.4%、中枢性尿崩症単独が15.8%でした。血清IgG4を測った例のうち23.6%は正常値で、血清IgG4が正常でも本症は否定できません(Li 2019)。
  • 日本内分泌学会から、自己免疫性下垂体炎とIgG4関連下垂体炎の診断と治療の指針が出されています(Takagi 2020)。確定診断には下垂体の生検が必要ですが、侵襲的で行える施設も限られます(Takagi 2020)。
  • ステロイドで下垂体の腫瘤が縮小することが多い一方、減量で再燃した例も報告されています(Leporati 2011)。

IgG4関連下垂体炎のMRI画像所見

  • 下垂体、下垂体柄の腫大
  • T1強調像での下垂体後葉の高信号の消失がみられることがある
  • T2強調像で病変は低信号を示す(線維化を示唆する)
  • 涙腺・唾液腺の腫大、眼窩内腫瘤、眼窩下神経の腫大、硬膜肥厚などが同時に見られると、IgG4関連下垂体炎をより示唆する
症例 60歳男性

下垂体後葉の高信号が消失し(矢印)、下垂体茎を中心とした軟部腫瘤影を認める(丸枠)。ステロイドによる治療により、下垂体軟部腫瘤影は消失している。IgG4関連下垂体炎と診断された。

日内会誌 100:1044~1047,2011

引用:IgG4 関連硬化性疾患による下垂体炎から中枢性副腎不全,中枢性尿崩症を発症した 1 型糖尿病の 1 例

関連記事:IgG4関連疾患とは?どこに発生する?CT画像診断のポイント

多尿(尿崩症)で見つかる鞍上部病変・下垂体柄の肥厚:何を考えるか

中枢性尿崩症は、水のように薄い尿が多量に出て(多尿)、のどが渇く病気です。成人では、原因として下垂体・視床下部の腫瘍(25%)、手術(20%)、頭部外傷(16%)が多く、原因が分からない特発性は最大で約30%とされています(Farrell 2021)。MRIでは、下垂体後葉のT1高信号の有無、下垂体柄の太さ、鞍上部の腫瘤の有無を見ます。

病気 尿崩症との関係・画像のポイント
リンパ球性漏斗後葉炎 尿崩症で発症する。下垂体柄の肥厚と後葉高信号の消失。ステロイドや経過で縮小(Imura 1993)
IgG4関連下垂体炎 下垂体機能低下や尿崩症を生じる。涙腺・唾液腺・眼窩など他の臓器病変と血清IgG4が手がかり(Li 2019)
ランゲルハンス細胞組織球症(LCH) 尿崩症が最初の症状になることがあり、下垂体炎のようなMRI所見や漏斗の肥厚を示す。のちに骨や皮膚の病変で診断された例がある(Brys 2018)
腫瘍(胚細胞腫瘍など) 鞍上部の腫瘤として見える。画像と腫瘍マーカー、生検で鑑別する
  • 下垂体炎のようにみえても、LCHのこともあります。全身の骨・皮膚・肺などの病変を探し、ほかの臓器に病変があれば生検の部位の手がかりになります(Brys 2018)。
  • 眼窩の痛みや眼球運動障害を伴うときは、Tolosa-Hunt症候群や特発性眼窩炎症、IgG4関連眼疾患も鑑別になります。Tolosa-Hunt症候群は、ステロイドで症状が良くなったことだけで診断すると誤診が増えるため、症状の消失は画像でも確かめ、経過を追うことが勧められています(Dutta 2021)。
  • 多尿、視野の異常、強い頭痛や眼の痛みが続くときは、内分泌内科や眼科、脳神経内科を受診してください。

頭頸部のIgG4関連疾患:涙腺・唾液腺の腫れの鑑別

IgG4関連疾患は、涙腺・唾液腺・眼窩・甲状腺・リンパ節・副鼻腔・下垂体など、頭頸部のさまざまな場所に起こります。CTやMRIの所見は特異的ではなく、臓器の腫大、T2強調像での比較的低信号(細胞成分と線維化を反映)などが共通します(Fujita 2012)。涙腺の腫れでは、IgG4関連疾患のほか、非特異的な涙腺炎やリンパ腫と鑑別します。

非特異的涙腺炎 IgG4関連 リンパ腫
平均年齢 46.0歳 49.4歳 59.9歳
片側のみ 31.0% 15.2% 62.5%
涙腺の大きさ 2.3cm 2.8cm 3.3cm
眼窩外の頭頸部病変 少ない 眼窩下神経36.4%、副鼻腔72.7%、唾液腺58.6% 少ない

生検で確定した涙腺腫大91人の比較です(Chung 2022)。両側で、副鼻腔や唾液腺にも病変があれば、IgG4関連を疑う手がかりになります。涙腺と唾液腺が腫れるMikulicz病ではシェーグレン症候群との区別が問題になることがあり、血清IgG4だけでなく、抗SS-A/SS-B抗体や唾液腺の検査を合わせて診断します(Otani 2022)。

IgG4関連疾患の診断基準は更新されています

  • 包括診断基準(日本):2011年版が、2020年に改訂されました。「臨床症状と画像」「血清学」「病理」の3つの領域からなり、病理には花むしろ状線維化と閉塞性静脈炎が含まれます(Umehara 2021)。
  • ACR/EULAR分類基準(2019):11の臓器のいずれかの病変があること、32の除外項目に当てはまらないこと、8つの領域の重み付けの合計が20点以上であること、の3段階です。最初の検証集団で感度85.5%、特異度99.2%でした(Wallace 2020)。研究用の分類基準で、診断の代わりにはなりません。
  • IgG4関連眼疾患(2023年改訂):2014年の基準に、視神経症を見逃さないことが加えられ、MALTリンパ腫以外のリンパ腫にも注意するよう改められました(Takahira 2024)。

免疫チェックポイント阻害薬による下垂体炎(irAE下垂体炎)

  • がんの治療薬である免疫チェックポイント阻害薬の副作用(免疫関連有害事象:irAE)として起こる二次性の下垂体炎です。
  • イピリムマブで治療した悪性黒色腫154例では11%に下垂体炎が起こり、全例で前葉機能低下があり尿崩症はありませんでした。全例で下垂体のびまん性腫大がみられ、7例中7例で40日以内に縮小しましたが、ホルモン不足は76%で続きました(Faje 2014)。
  • ニボルマブ・ペムブロリズマブによる下垂体炎は、発症がより遅く(中央値25.8週 対 イピリムマブ9.3週)、頭痛や下垂体腫大は少ないと報告されています(Faje 2019)。MRIで腫大がなくても否定できません。

下垂体炎でよくある疑問(Q&A)

Q. 血清IgG4が正常なら、IgG4関連下垂体炎は否定できますか。
A. できません。76例の系統的レビューでは、血清IgG4を測った例の23.6%が正常値でした(Li 2019)。

Q. 下垂体腺腫との違いは、画像で分かりますか。
A. 単独の所見では決め手にならず、組み合わせて考えます。鞍隔周囲のT2低信号(parasellar T2 dark sign)は、20例と22例の比較で偽陽性がありませんでした(Nakata 2010)。さらに、妊娠との関連、後葉高信号、下垂体柄の太さなど8項目を組み合わせたスコアが提案されています(Gutenberg 2009)。

Q. 治療はステロイドですか。
A. リンパ球性では、ステロイドで75%に下垂体の縮小がみられました(Gutenberg 2006)。治療方針は症状とホルモンの状態で決まりますので、内分泌内科の主治医とご相談ください。

 

参考文献

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