先に結論:重複下大静脈とは

  • 下大静脈(IVC)は、下半身とお腹の臓器の血液を心臓(右心房)へ戻す体でいちばん太い静脈です。腹部では大動脈の右側を上がり、CTでは大動脈の右に並ぶ太い血管として見えます
  • 重複下大静脈は、生まれつき大動脈の左右両側に下大静脈が1本ずつある正常変異で、左側の下大静脈は左総腸骨静脈から上がって左腎静脈に合流し、右側の下大静脈へ流れ込みます。症状はなく、CTで偶然見つかります
  • CTでは大動脈の左側の管状構造がリンパ節腫大や拡張した性腺静脈と間違われやすいため、下は総腸骨静脈、上は左腎静脈につながることを確認して見分けます
  • 下大静脈フィルター留置や大動脈・後腹膜の手術の前に知っておくことが重要です

実際の画像で確かめるには、画像診断cafeの腹部CTの正常解剖ツールで、スライスを動かしながら構造をタップすると名前が表示されます(無料・登録不要)。全体の見方は腹部CTの解剖にまとめています。

そもそも下大静脈(IVC)とは?正常の走行と解剖

下大静脈(inferior vena cava:IVC)は、正常では次のように走行します。

  1. 骨盤の上で、左右の総腸骨静脈が合流して始まる
  2. 腹部大動脈の右側を、背骨の前に沿って上へ向かう
  3. 途中で腰静脈・右性腺静脈(精巣静脈/卵巣静脈)・左右の腎静脈・右副腎静脈などが流れ込む
  4. 肝臓の後ろを通り、そこで肝静脈が合流する
  5. 横隔膜の大静脈孔を通って胸の中に入り、右心房に流れ込む

左の性腺静脈と左副腎静脈は下大静脈に直接入らず、左腎静脈に流れ込み、左腎静脈が大動脈の前を横切って下大静脈に合流します。この左右の違いが、重複下大静脈や拡張した左性腺静脈を見分けるときの基本になります。

下大静脈はCTのどこに見える?

  • 腎臓より下では、大動脈の右(画像では向かって左)に、大動脈より少し太く楕円形の血管として見えます
  • 腎臓の高さでは左腎静脈が大動脈の前を横切って合流し、さらに上では肝臓の後ろに食い込むように走ります
  • 造影の早い時相では、腎静脈からの濃い血液と下半身からの薄い血液が混ざってまだらに見え、血栓と紛らわしいことがあります

下大静脈の太さ(拡張・扁平)からわかること

  • 拡張:右心不全・三尖弁逆流・心タンポナーデ・収縮性心膜炎などで右心房の圧が上がると、下大静脈や肝静脈が太くなります(造影剤の逆流を伴うことも)
  • 扁平(flat IVC):出血などで循環血液量が減ると、下大静脈が平たくつぶれて見えます。外傷患者の12研究(1706人)のメタ解析では、CTでの扁平な下大静脈のショック予測は感度0.46・特異度0.87で、特異度は高いものの、なくてもショックを否定できません(Kim 2022)

太さは呼吸や体位でも変わるため、ほかの所見と合わせて評価します。

重複下大静脈(duplicated inferior vena cava, double IVC)とは?

  • 腹部大動脈の左右に下大静脈様の静脈幹が並走する先天奇形。
  • 典型例では、右側の通常の下大静脈に加え、左総腸骨静脈から連続して上行する左側下大静脈を認める。左側下大静脈は腎静脈レベルで左腎静脈に合流し、その後、左腎静脈が大動脈前方を横断して右側下大静脈へ流入する形をとる。
  • 頻度は報告に幅があり、全人口の0.2〜3%程度とされる。近年のメタ解析では約0.7%と報告されている。同じメタ解析では、左側下大静脈(transposition)は約0.3%と報告されている(Hostiuc 2019)。
  • 下大静脈の発生は複雑であり、posterior cardinal vein、subcardinal vein、supracardinal vein など複数の胎生静脈系の形成・退縮・吻合によって成立する。重複下大静脈は、通常退縮するはずの左 supracardinal vein が残存することで生じる。より厳密には、腎静脈より尾側で左右の supracardinal venous system がともに残存した状態と理解される。

重複下大静脈のCT画像

  • 大動脈の右側に通常の下大静脈を認める
  • 大動脈の左側にも、左総腸骨静脈から連続する静脈幹を認める
  • 左側下大静脈は頭側で左腎静脈に合流する
  • 左腎静脈は大動脈前方を横断して右側下大静脈へ流入する
  • 左右の総腸骨静脈間に interiliac communication(左右総腸骨静脈系を結ぶ交通枝) を伴うことがある

CTでは、単に「左側にも静脈がある」ことだけでなく、その血管が尾側で総腸骨静脈に連続しているか、頭側で左腎静脈へ合流しているかを確認することが重要。

症例

double IVC

本来の下大静脈とは別に腹部大動脈の左側にもう一本下大静脈を認めています。

重複下大静脈を疑う所見です。

重複下大静脈の鑑別診断

1. 拡張した精巣静脈・卵巣静脈

左側下大静脈は、左傍大動脈領域を上行するため、拡張した精巣静脈あるいは卵巣静脈と紛らわしいことがある。しかし、精巣静脈・卵巣静脈は通常細く、走行も一定ではなく、左総腸骨静脈へ連続する太い静脈幹とは異なる。尾側で総腸骨静脈に連続することを確認すれば鑑別しやすい。

2. 傍大動脈リンパ節腫大

造影不十分な検査や単純CTでは、左傍大動脈の管状構造がリンパ節腫大と誤認されることがある。連続性を追って血管であることを確認することが重要である。

3. 左側下大静脈(left-sided IVC)

left-sided IVC では右側の下大静脈がなく、左側のみが存在する。これに対し duplicated IVC では、右側の通常の下大静脈に加えて左側にも静脈幹が存在する。この点が両者の本質的な違いである。

左下大静脈とは?CT画像診断のポイントは?

下大静脈フィルタを留置する際に注意すべき奇形
  • 重複下大静脈
  • 左下大静脈
  • 大動脈後左腎静脈(retroaortic left renal vein)
  • 大動脈周囲左腎静脈(circumaortic left renal vein)

重複下大静脈の臨床的意義

1. 手術・後腹膜処置での重要性

後腹膜郭清、腎摘、腹部大動脈周囲手術、整形外科的前方アプローチなどでは、未認識の duplicated IVC が思わぬ出血源となりうる。とくに左傍大動脈領域の操作では、通常想定していない位置に太い静脈幹が存在するため注意を要する。

2. 深部静脈血栓症・肺血栓塞栓症への対応

duplicated IVC 自体は無症候であることが多いが、肺血栓塞栓症や下肢深部静脈血栓症に対して下大静脈フィルタを留置する際には極めて重要である。右側下大静脈のみにフィルタを留置すると、左側下大静脈経由の血栓を十分に捕捉できず、再塞栓の原因となりうる。

このため duplicated IVC 症例では、以下のような戦略が検討される。

  • 左右それぞれの下大静脈にフィルタを留置する
  • 腎静脈流入部より頭側の単一幹(suprarenal IVC)にフィルタを留置する
  • 症例により交通枝や片側静脈への追加処置を考慮する

実臨床では、「右側に1本入れればよい」とは限らない点が重要であり、造影CTで静脈解剖を十分把握した上で留置部位を決める必要がある。

あわせて読みたい:下大静脈フィルター(IVCフィルター)の画像診断

参考文献:

  1. Hostiuc S, Minoiu C, Negoi I, et al. Duplication and transposition of inferior vena cava: A meta-analysis of prevalence. J Vasc Surg Venous Lymphat Disord. 2019;7(5):742-755. PubMed
  2. Eldefrawy A, Arianayagam M, Kanagarajah P, Acosta K, Manoharan M. Anomalies of the inferior vena cava and renal veins and implications for renal surgery. Central European Journal of Urology. 2011;64(1):4-8.
  3. Ghandour A, Partovi S, Karuppasamy K, et al. Congenital anomalies of the IVC—embryological perspectives and clinical relevance. Cardiovascular Diagnosis and Therapy. 2016.
  4. Chen H, Emura S, Nagasaki S, Kubo K. Double inferior vena cava with interiliac vein: A case report and literature review. Okajimas Folia Anatomica Japonica. 2012;88(4):147-151.
  5. Al Hatmi A, Al Hajriy M. Inferior vena cava filter placement in a duplicated inferior vena cava: a case report. Oman Med J. 2021;36(2):e244.
  6. Mathews R, Smith PA, Fishman EK, Marshall FF. Anomalies of the inferior vena cava and renal veins: embryologic and surgical considerations. Urology. 1999;53(5):873-880.
  7. Töre HG, Tatar I, Celik HH, et al. Two cases of inferior vena cava duplication with their CT findings and a review of the literature. Folia Morphol (Warsz). 2005;64(1):55-58.
  8. Sartori MT, Zampieri P, Andres AL, et al. Double vena cava filter insertion in congenital duplicated inferior vena cava: a case report and literature review. Haematologica. 2006;91(6 Suppl):ECR30.
  9. Bass JE, Redwine MD, Kramer LA, et al. Spectrum of congenital anomalies of the inferior vena cava: cross-sectional imaging findings. Radiographics. 2000;20(3):639-52. PubMed
  10. Smillie RP, Shetty M, Boyer AC, et al. Imaging evaluation of the inferior vena cava. Radiographics. 2015;35(2):578-92. PubMed
  11. Kim DW, Yoo HS, Kang WS. Flat Inferior Vena Cava on Computed Tomography for Predicting Shock and Mortality in Trauma: A Meta-Analysis. Diagnostics (Basel). 2022;12(12):2972. PubMed

重複下大静脈(double IVC,duplicated IVC)とは?

  • 全人口の0.2〜3%程度とされる。メタ解析では約0.7%(95%信頼区間0.5〜0.9%)と報告されており、画像研究より解剖研究で高い傾向がある。
  • 大動脈の両側に下大静脈が描出される奇形。
  • 発生の過程で左右の上主静脈が残ることにより生じる。
  • 左側下大静脈は左腎静脈に繋がり本来の右側の下大静脈へと合流をする。
  • 各々が腸骨静脈に連続するが、左右の総腸骨静脈間に連絡があるものとないものがある。
  • 左側下大静脈は拡張した精巣もしくは卵巣静脈との鑑別を有するが、総腸骨静脈に連続することで鑑別できる。
  • 腎静脈の走行異常などを伴うことあり。
  • 肺血栓塞栓症で下大静脈フィルタを留置する際に、右側下大静脈に留置しても、左から血栓が飛ぶことがあるので、この奇形を有する症例では、フィルタを腎静脈流入部より頭側に留置する。

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