正常圧水頭症とは?
- 正常圧水頭症(Normal Pressure Hydrocephalus:NPH)は、歩行障害、認知障害、尿失禁の3徴を呈し、脳室拡大はあるが、髄液圧は正常で、髄液シャント術によって症状が改善する病態。
- 臨床的には、NPHは、くも膜下出血、髄膜炎、外傷などの先行する先行疾患に引き続いて起こる二次性NPH(secondary NPH:sNPH) と、先行疾患が明らかでない特発性NPH(idiopathic NPH:iNPH)とに分けられる。
- 両者はさまざまな点で異なり、別の病態と考えたほうがよい。
- iNPHはsNPHと比較して、症状発現までの期間が長く、頭部MRIでシルビウス裂の拡大が目立ち、シャント術に対する反応性が悪い。
- またsNPHは先行疾患に引き続いて発現するため、通常診療の過程で発見されることが多く見逃されることは少ない一方、iNPHはしばしば他疾患と間違えられ発見が遅れることが多い。
- また iNPHは最近、わが国で行われた疫学研究の結果から、一般高齢者の0.5~2.9%の頻度で存在する可能性が指摘され、適切に診断することの重要性が増している。
▶︎iNPHを疑う所見(possible iNPH)
- 歩行障害、認知障害、排尿障害の1つ以上。
- 60歳以上。
- 他の神経疾患、非神経疾患で症候の全てを説明できない。
- Evans index > 0.3 の脳室拡大。
- 水頭症をもたらす明らかな先行疾患がない。
→これらを満たす場合、神経内科・脳外科に紹介する。
正常圧水頭症の種類
特発性正常圧水頭症(iNPH)
- DESH :歩行障害があれば9割で髄液シャントが有効。
- non-DESH
DESHとはくも膜下腔のアンバランスさのことで、
Disproportionately Enlarged Subarachnoid-space Hydrocephalusの略。
続発性正常圧水頭症(sNPH)
- 先天性、発達性の異常
- 後天性(SAH後、外傷後、髄膜炎後など)
特発性正常圧水頭症の診断
▶必須項目
- 60歳代以降
- 歩行障害、認知障害、尿失禁が1つ以上
- 脳室拡大(Evans index>0.3)
- 他の疾患を除外。
その上で、おおまかに、
- 画像上、iNPHを疑う所見→possible iNPH with MRI support (高位円蓋部および正中部の脳溝、くも膜下腔の狭小化)
- CSFタップテスト(Taptest)で改善→probable iNPH
- Shuntで治癒 : definite iNPH
CSFタップテストとは?
- 脳脊髄液を少量排除することで、歩行障害の改善を見るテスト。
- 歩行障害の改善は一週間以内にみられる。歩行障害などの改善がみられる=タップテスト陽性ということ。
※歩行障害の改善が見られなくても他の症状(認知障害、自発性、排尿障害など)の改善がみられる場合がある。
- タップテスト陰性(=歩行障害などが改善しない)の場合、タップテストを繰り返す、ドレナージテストを行う、経過観察・他の鑑別疾患を再度考えるといったステップに進む。
- 19G以上の太い穿刺針を用いた腰椎穿刺により脳脊髄液を摂取する。30ml。
タップテストの評価方法とは?
- 歩行障害の検査法(3m往復時間に要する時間)で10%以上の改善がみられる。
- 認知障害の検査法(MMSE)で3点以上の改善がみられる。
- 三徴(歩行障害、認知障害、排尿障害)の重症度分類(iNPHGS)でいずれかの項目で重症度1段階以上の改善がみられる。
ことにより評価をする。
正常圧水頭症の画像所見、DESHとは?
正常圧水頭症の画像所見としては以下のものが挙げられます。
- Evans index(側脳室前角幅/頭蓋内腔幅比)=A/C>0.3
- 冠状断、矢状断像で高位円蓋部くも膜下腔、脳溝の狭小化(推奨グレードA)。横断像でも評価は可能。(高い感度と特異度でAD病における萎縮と鑑別できる。)
- 脳底槽、Sylvius裂の拡大。
- 冠状断像で脳梁角<90°。
- 矢状断像で第3脳室の前陥凹。
- 側脳室壁のscallopingは矢状断、横断像で評価しやすい。
- PVL、PVHの有無は問わない。
- 脳血流検査は他の認知症疾患との鑑別に役立つ。
これらを一言でいうと、
「左右は空いているのに、上の方にギュッと大脳が凝集している」
=アンバランスなくも膜下腔=DESHという状態です。
「左右は空いているのに、上の方にギュッと大脳が凝集している」
=アンバランスなくも膜下腔=DESHという状態です。
そして、このような画像所見を示す水頭症をDisporoportionately Enlarged Subarachnoid-space Hydrocephalus(DESH)と呼ぶことが提唱されています。
DESHが見られても症状がない場合は?
このDESH所見を示すものの、症状がない無症候性の症例をAVIM(asymptomatic ventriculomegaly with features of iNPH on MRI)と呼び、60歳以上の約1%で見られると報告されています。
さらにその後の4-8年の追跡で、この25%に認知症や歩行障害が生じたと報告されており、AVIMはiNPHの前段階の可能性が示唆されています。
ですので、無症状であってもこのDESH所見は積極的に取るべきだということです。(JNeurol Sci 277:54-57.2009)
症例 70歳代男性 歩行障害
しかし、両側シルビウス裂の開大を認め、萎縮を認めています。
アンバランスな萎縮であり、DESHを疑う所見です。
▶動画でチェックする正常圧水頭症
正常圧水頭症の治療は?
- 脳室・腹腔短絡術(ventriculo-peritoneal shunt :VP shunt)が行われることが多いが、最近では、腰部くも膜下腔・腹腔短絡術(lumbo-peritoneal shunt:LP shunt)が行われることも多い。手術により、歩行障害が最も改善しやすい。
LOVA(長期存続型著明脳室拡大)(long-standing overt ventriculomegaly in adults)とは?
- 慢性期の成人水頭症。
- 中脳水道の先天的・後天的な狭窄・閉塞が長期にわたり、水頭症として存続したものが成人期に発症するもの。
関連記事:髄液の流れと非交通性水頭症、交通性水頭症をイラストを用いて動画解説
AVIM(asymptomatic ventriculomegaly with feature of idiopathic normal pressure hydrocephalus on MRI)
- 症状はないが、画像上iNPHが疑われる患者を4-8年追跡すると25%に認知症や歩行障害などの症状が出現したという報告あり。
とても参考になりました。
外来で、時々 遭遇する疾患であり、疑いがあれば、脳神経外科の専門医に紹介いたしております。
少し前に、読んだスウェーデンの文献では、iNPHの47%は、ADが合併しているとのことでしたが、実際 臨床場面でも 納得できる研究でした。
柴山先生
コメントありがとうございます。
脳外科の先生からも疑わしい場合は積極的に所見を拾って紹介して欲しいと言われております。