日本での急性膵炎における全体の死亡率は、2%程度と報告されています。急性膵炎診療ガイドライン2015によると、急性膵炎のうち20%は重症急性膵炎に分類され、より死亡率が高くなります。

重症急性膵炎は、

  • 急性膵炎重症度判定基準のうち3つ以上を満たす。
    あるいは
  • 造影CTによるグレード分類でGrade2以上である。

という場合に診断されます。

したがって、急性膵炎の重症度をチェックするにあたり、造影CTの読影が必要となります。

今回は、急性膵炎が起こるとどのように炎症が広がり、CT画像でどのように見えるのか、またどのように造影CTによるグレード分類を行っていくのかについて、イラストと、実際のCT画像を交えてわかりやすく解説しました。

急性膵炎の診断基準は?

急性膵炎の診断基準は、

  1. 腹痛などの臨床症状
  2. 血中ならびに尿中の膵酵素上昇
  3. 膵炎を示す画像所見

の3つのうち2つが存在すること、とされています。

このうち今回は、3つ目の画像所見について見ていきましょう。

急性膵炎が起こると炎症はどう広がる?

まず膵臓は下のイラストのように、後腹膜と呼ばれる空間に存在し、固定されています。

急性膵炎とは膵臓に起こる炎症であり、膵臓に炎症が起こるとどうなるのでしょうか?

まず、膵臓の尾部のみに炎症が起こるとどうなるかを見てみましょう。膵臓の尾部に炎症が起こると、下のように

  • 炎症が起こっている部位の膵臓は腫大
  • 周囲に炎症が及ぶ

といったことが起こります。

周囲に炎症が及ぶと、

  • 前腎筋膜・後腎筋膜の肥厚
  • 前腎傍腔の液貯留
  • 周囲の脂肪織濃度の上昇

といった変化が起こることになります。

次に、膵全体に炎症が起こった場合を見てみましょう。

膵全体に炎症が起こると、上と同じように

  • 炎症が起こっている部位の膵臓は腫大
  • 周囲に炎症が及ぶ

といったことが起こります。特に膵頭部や膵体部に炎症が強い時は、膵臓よりも前の空間である横行結腸間膜に炎症が波及することがあります。

これは横行結腸間膜の脂肪組織濃度上昇として画像では捉えることができます。

この横行結腸間膜に炎症が波及する点をチェックする点は、CT グレード分類でも重要となってきます。

さらに炎症が強い場合は、膵臓自体に虚血や壊死が生じることがあります。

関連記事)2015年急性膵炎診療ガイドラインに基づくCT画像診断のポイント!

急性膵炎のCT grade(CTグレード)でチェックすべき点は?

急性膵炎では造影CTでグレードを評価しますが、その際の着目点は2点です。

  1. 膵炎の存在。あるなら、膵壊死の存在。
  2. 膵炎がどこまで広がっているか。

つまり、膵臓そのものの評価と、炎症が周囲にどこまで広がっているかの評価ということです。

それがCT画像ではどのように現れるかをまとめると以下のようになります。

膵臓そのものの評価

すなわち

膵臓そのものの評価では、

  • 膵腫大
  • 膵の輪郭の不明瞭化
  • 膵の造影効果減弱〜消失

といった点を評価します。特に膵臓の造影効果が減弱している場合は虚血〜壊死を示唆する所見で、CT gradeを評価する上で重要な所見となります。

炎症が周囲にどこまで広がっているかの評価

一方、炎症が周囲にどこまで広がっているかの評価では

  • 膵周囲
    • 脂肪織濃度上昇
    • 液体貯留
  • 筋膜の肥厚
    • 前腎筋膜
    • 外側円錐筋膜
  • 麻痺性イレウス

といった点を評価します。特に炎症を示唆する、脂肪織濃度上昇、液貯留、筋膜の肥厚が腎臓よりも下側(尾側)におよんでいるかどうかといった点が、CT gradeを評価する上で重要な所見となります。

CTグレード分類

CTグレード分類では、以下の点を評価します。

これは

  • 縦は膵臓そのものの評価
  • 横は炎症が周囲にどこまで広がっているかの評価

を意味し、これらを組み合わせてグレード分類、重症度分類を行うということです。

では具体的な症例を見ながら、CT grade分類をしていきましょう。

CT grade分類に基づくCT画像診断

症例 60歳代女性 胆石性急性膵炎

まずこの症例では、膵臓の腫大ははっきりしませんが、膵臓の周囲の、前腎傍腔の脂肪織濃度上昇〜液貯留を認めています。炎症は腎臓下極よりも尾側に広がっておらず、膵臓に造影不良域は認めません。

  • 膵外進展度:前腎傍腔に限局
  • 膵造影不領域:膵周囲のみあるいは各区域に限局(今回はなし)

に該当しますので、下のようにCT gradeは1ということになります。

続いての症例です。

症例 20歳代女性 アルコール性急性膵炎

こちらの症例では、炎症所見が、前腎傍腔に限局しておらず、

横行結腸間膜への炎症波及、腎以遠レベルまで炎症波及を認めています。

  • 膵外進展度:腎下極以遠
  • 膵造影不領域:膵周囲のみあるいは各区域に限局(今回はなし)

に該当しますので、下のようにCT gradeは2ということになります。

続いての症例です。

症例 70歳代女性 胆石性急性膵炎

こちらの症例では、前腎傍腔に広汎な液貯留を認めており、腎以遠レベルまで炎症波及を認めていました。また、Vater乳頭部に結石の嵌頓を確認できます。

  • 膵外進展度:腎下極以遠
  • 膵造影不領域:膵周囲のみあるいは各区域に限局(今回はなし)

に該当しますので、下のようにCT gradeは2ということになります。

この症例ではMRIが撮影されています。

MRIのT2強調像ですと水が明瞭化されるので、炎症の広がりがわかりやすいのが特徴です。

最後の症例です。

症例 50歳代女性 特発性急性膵炎

この症例では膵臓は全体的に腫大を認め、周囲に炎症所見を認めるだけではなく、膵体部で特に造影効果低下を認めています。造影不良域は膵尾部にも認めておりました。また、腎以遠レベルまで炎症波及を認めていました。

  • 膵外進展度:腎下極以遠
  • 膵造影不領域:2つの区域にかかる(膵体部-尾部)

に該当しますので、下のようにCT gradeは3ということになります。

さらにこの症例の経過を見てみましょう。

造影不良だった部位は、壊死に陥り、その後、被包化された液貯留へと変化しています。これは、いわゆるWONと言う状態です。

関連記事)2015年急性膵炎診療ガイドラインに基づくCT画像診断のポイント!

最後に

急性膵炎のCTグレードの評価をイラストと画像でわかりやすく解説しました。

急性膵炎は命に関わる病気であり、造影CTによる画像診断では、グレード分類を適切に行うことが重要です。

 

  • 縦は膵臓そのものの評価
  • 横は炎症が周囲にどこまで広がっているかの評価

の2点に分けて、評価するのがポイントです。

こちらの動画も参照ください。

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