先に結論:チョコレート嚢胞に壁在結節を見たら
- 卵巣の内膜症性嚢胞(チョコレート嚢胞)はまれにがん化(明細胞癌・類内膜癌など、約0.7%)するため、嚢胞の壁の結節は重要な所見です。とくに嚢胞が大きくなる場合は注意します
- 見分けの決め手は結節が造影されるかで、造影サブトラクション画像・拡散強調像が有用です。造影されなければ凝血塊のことが多いです。嚢胞が大きくなる・T2のshadingが消えるのも悪性化を疑う手がかりです
- 妊娠中(まれに妊娠していない時期にも)は、異所性内膜が脱落膜化して造影される結節に見えることがあり、がんと間違えないよう注意します(胎盤と似た信号が手がかり)
- 壁在結節とは、嚢胞の壁から内側へ盛り上がる充実性の結節のことです。がん化のリスクとしては閉経後・嚢胞が大きい(9cm以上)ことが報告されています
壁在結節とは
- 壁在結節(へきざいけっせつ、mural nodule)とは、嚢胞(袋状の病変)の壁(嚢胞壁・嚢腫壁)から内腔へ突き出す充実性の結節のことです。
- 卵巣の嚢胞性病変では、壁がうすく中身が液体だけなら良性のことが多い一方、壁在結節などの充実部分は腫瘍を疑う手がかりになります。
内膜症性嚢胞(チョコレート嚢胞)の基本のMRI所見
古い血液のため脂肪抑制T1強調像で高信号、T2強調像で信号が低下するshadingや、境界明瞭な著明低信号の点(T2 dark spot)が特徴です。
- T1高信号の嚢胞にshadingまたはmultiplicityがあれば内膜症性嚢胞とする基準で、感度90%、特異度98%、正診率96%でした(Togashi 1991)。
- shadingは内膜症性嚢胞の93%に見られますが出血性嚢胞の48%にも見られ、T2 dark spotは内膜症性嚢胞の36%に見られ特異度93%でした(Corwin 2014)。
内膜症性嚢胞で壁在結節をみたときに考える事
内膜症性嚢胞(チョコレートのう胞)で壁在結節を認めた場合、良性と悪性にわけて考えます。
悪性疾患の場合
- 明細胞癌
- 類内膜癌
- MMBT※(境界悪性)
※Mullerian mucinous borderline tumors(MMBT):内頸部型(ミュラー管型)境界悪性粘液性腫瘍(WHO分類2014以降は漿液粘液性境界悪性腫瘍と呼ばれ、現行の2020年版でもこの名称。なお漿液粘液性癌は2020年版で粘液性分化を伴う類内膜癌に再分類された)
良性疾患の場合
- 妊娠中の脱落膜化
- 妊娠していない時期の脱落膜化(まれ。Ambrosio 2021)
- polypoid endometriosis(悪性化と紛らわしい報告がある。Parpex 2026)
- 凝血塊
を疑う必要あり。
症例 20歳代女性

T2強調像にて骨盤内正中〜左側に7cm×5cm大のshadingを伴う嚢胞性病変あり。
背側に壁在結節様の低信号(→)あり。
その腹側にも嚢胞性病変あり。また少量腹水貯留あり。

脂肪抑制T1強調像で高信号であり、左内膜症性嚢胞(チョコレート嚢胞)であることが診断できます。
(右卵巣は正常卵巣あり:非提示)
また造影のサブトラクション画像にて壁在結節様部位に造影効果を認めず、凝血塊と診断されました。
内膜症性嚢胞に合併する卵巣癌は?
- 悪性化の頻度は0.7%(静岡の内膜症性嚢胞6398例の追跡で46例・0.72%。Kobayashi 2008)
- 明細胞腺癌(39%)と類内膜腺癌(35%)が多く発生(同)。他、MMBT。
- 同じ研究では、嚢胞の大きさ9cm以上と閉経後が、がん発生の独立した危険因子でした(Kobayashi 2008)。下腹部痛や急な増大など気になる症状があれば、婦人科を受診してください。
- 悪性転化を疑う所見:造影される壁在結節の出現(最も重要)。嚢胞の増大、T2WIでのshadingの消失(Takeuchi 2006、Nishio 2018)。なお、shadingの有無は良悪性で差がなかったとの報告もあり(Tanaka 2010)、経過観察中の嚢胞内容のT1・T2信号の変化には差がなかったとされます(Nishio 2018)。
- 早期発見にはDWI+サブトラクションが重要。ただし、壁在結節の造影効果は悪性の97%だけでなく良性の44%にもみられたとの報告があり、造影される結節が必ずしも悪性とは限りません。高齢で、嚢胞・結節が大きいほど悪性の可能性が高くなります。
▶悪性化を示唆する画像所見
- shadingの欠如 壁在結節の存在。
- 経過での嚢胞の増大
- 造影剤で増強される。
脱落膜化(妊娠中に内膜症性嚢胞内に充実性部分を認めた場合)
- 脱落膜は、子宮内膜間質細胞に妊娠に伴うプロゲステロンが作用して形成されるもの。
- 胎児側より生じる絨毛膜とともに胎盤を形成する。
- 妊娠中に内膜症性嚢胞の異所性内膜が脱落膜化することが知られている。
- 妊娠中に内膜症性嚢胞内に充実性部分を認めた場合、第一に脱落膜化を考える。
- MRI所見は、充実性部分は線状・小結節状・広基性・ポリープ状などで、胎盤とほぼ同等の信号強度を呈することが特徴。とくにT2強調像で著明な高信号を呈する。脱落膜化した内膜症性嚢胞5例の検討では、壁在結節はT2強調像・拡散強調像で正常内膜や胎盤と同様の著明な高信号を示し、ADC値は卵巣癌の壁在結節より有意に高かった。妊娠中に壁在結節を見たときは、ADC値の測定が鑑別の助けになる。
参考文献
- Kobayashi H, Sumimoto K, Kitanaka T, et al. Ovarian endometrioma–risks factors of ovarian cancer development. Eur J Obstet Gynecol Reprod Biol. 2008;138(2):187-93. PubMed
- Takeuchi M, Matsuzaki K, Uehara H, et al. Malignant transformation of pelvic endometriosis: MR imaging findings and pathologic correlation. Radiographics. 2006;26(2):407-17. PubMed
- Tanaka YO, Okada S, Yagi T, et al. MRI of endometriotic cysts in association with ovarian carcinoma. AJR Am J Roentgenol. 2010;194(2):355-61. PubMed
- Takeuchi M, Matsuzaki K, Nishitani H. Magnetic resonance manifestations of decidualized endometriomas during pregnancy. J Comput Assist Tomogr. 2008;32(3):353-5. PubMed
- Poder L, Coakley FV, Rabban JT, et al. Decidualized endometrioma during pregnancy: recognizing an imaging mimic of ovarian malignancy. J Comput Assist Tomogr. 2008;32(4):555-8. PubMed
- Togashi K, Nishimura K, Kimura I, et al. Endometrial cysts: diagnosis with MR imaging. Radiology. 1991;180(1):73-8. PubMed
- Corwin MT, Gerscovich EO, Lamba R, et al. Differentiation of ovarian endometriomas from hemorrhagic cysts at MR imaging: utility of the T2 dark spot sign. Radiology. 2014;271(1):126-32. PubMed
- Ambrosio M, Casadio P, Filipponi F, et al. Decidualized endometrioma in a non-pregnant woman. Ultrasound Obstet Gynecol. 2021;58(5):781-782. PubMed
- Parpex G, Marcellin L, Uzan-Augui J, et al. Polypoid endometrioma mimicking malignant transformation: a case report and systematic review. F S Rep. 2026;7(3):208-215. PubMed
- Nishio N, Kido A, Kataoka M, et al. Longitudinal changes in magnetic resonance imaging of malignant and borderline tumors associated with ovarian endometriotic cyst comparing with endometriotic cysts without arising malignancy. Eur J Radiol. 2018;105:175-181. PubMed
- Idrees R, Din NU, Siddique S, et al. Ovarian seromucinous tumors: clinicopathological features of 10 cases with a detailed review of the literature. J Ovarian Res. 2021;14(1):47. PubMed
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