食生活の欧米化や高齢化に伴って、動脈硬化による疾患が増加しています。

頸動脈エコーは脳ドックのオプションと考えられがちですが、首の部分にプローブを当てるのみで、動脈硬化を推定することが可能な大変に優れた検査です。

また、頸動脈エコーは、高血圧や糖尿病、高脂血症など動脈硬化を引き起こす可能性のある疾患においての長期的な経過観察にも有用とされています。

それでは、頸動脈エコーで実際に何がわかるのでしょうか?

そこで今回は、

  • 頸動脈エコーでわかること
  • 内膜中膜複合体厚(IMT)正常値
  • 頸動脈の狭窄率、測定法
  • 頸動脈の血流速度、基準値
  • 頸動脈エコーの ガイドライン

以上について解説していきます。

医師
これを読めば頸動脈エコーの事が詳しく分かります!

頸動脈エコーでわかることは?

頸動脈エコーでは以下のことがわかります。

  • 内膜中膜複合体厚(IMT)=頸動脈の壁の厚さ
  • 血管径
  • プラーク
  • 頸動脈の血流速度
  • 頸動脈の狭窄率

一つひとつ見ていきます。

内膜中膜複合体厚(IMT)=頸動脈の壁の厚さ

正常の表面はスムーズで厚さは1.1mmを超えませんが(これを超えるとその部位をプラークと呼ぶ)、動脈硬化進行してくると、内膜中膜複合体(IMT)が肥厚します。

そのため内膜中膜複合体(IMT)を測定することで、動脈硬化の程度を定量的に評価することが可能です。

実際、内膜中膜複合体(IMT)の肥厚が大きくなるにつれ、今後起こる心血管病(脳卒中、虚血性心疾患)が起こるリスクが上昇することが報告されています1)

血管径

総頸動脈と内頸動脈、椎骨動脈の径を計測しています。加齢や高血圧でも太くなる傾向にあります。

プラーク

プラークとは、血管内に限局的に突出した病変のことです。
エコー検査ではプラークの有無を観察し、プラークが存在すれば、そのサイズや性状を評価します。

 

頸動脈の血流速度

血流の評価は主に総頸動脈、内頸動脈、椎骨動脈の最大流速、最低流速平均流速、PI(血管抵抗の指標)などを計測し、このような指標から、エコーで見える血管より、心臓側や頭側に狭窄病変がないかどうか推測します。

頸動脈の狭窄率

実際にエコーで見えている部位に狭窄病変があれば、その部分での血管径と狭窄腔から、狭窄率を算出します。

今回は、上記の中から内膜中膜複合体厚(IMT)・頸動脈の血流速度頸動脈の狭窄率について詳しく説明して行きます。

内膜中膜複合体厚(IMT)正常値は?

正常な血管壁はスムーズですが、年齢や高血圧、動脈硬化などにより血管壁は厚くなります。

頸動脈エコー検査では血管壁の内膜、中膜、外膜の三層構造のうち、内膜と中膜の厚さ=内膜中膜複合体厚(IMT)を計測します。

検査結果は頸動脈の血管壁の最も厚い箇所の壁厚(max IMT)で表し、この値は心臓の冠動脈硬化症や数年後の脳梗塞発症の予測因子となることが複数の臨床研究で証明されています。

日本脳ドック学会ガイドラインに基づきmaxIMT1.1mm までは正常値と判定していますが、これを超えるとその部位をプラークと呼びます。

また、この値は年齢によって異なり、例えば、60 歳代男性の半数以上の方が1.1mm を越えますが、40 歳代なら男女とも半数以上の方は1.1mm を越えません。

一般的に男性は女性に比べてmax IMT 値は高めですが、これは男性に高血圧や代謝異常、喫煙者が多いこと、また将来の動脈硬化性疾患も多いことを反映しています。

しかし女性においてもmax IMTの測定は有用です。

 

頸動脈の血流速度

頸動脈に流れる血液の速度を測定するには、カラードップラー法という方法を用います。

検査方法は、プローブから出る超音波を首に当てモニターに表示させるというものですが、青や赤などのカラーで映し出される点がポイントです。

この際、血液がきちんと循環されているかは色の変化から判断し、速度については画面端に表示される数字を見て診断します。

症例 70歳代女性 脳梗塞発症

右内頚動脈の長軸方向のエコー像です。

Bモードでは血管の外径を見ることができますが、カラードプラで血流を認めているのはその一部であることがわかります。

つまり、カラードプラで色を認めない部位にはプラークがあることがわかります。

血流速度の基準値

血流速度で求めるのは、4つで、それぞれの基準値は以下の通りです。

収縮期最高血流速度(PSV)
  • 総頸動脈=90±20
  • 内頸動脈=63±20
  • 椎骨動脈=56±17
拡張末期血流速度(EDV)
  • 総頸動脈=21±7
  • 内頸動脈=21±7
  • 椎骨動脈=15±7
平均血流速度(TAMV)
  • 総頸動脈=47±12
  • 内頸動脈=37±13
  • 椎骨動脈=30±10

上記以外に、pulsatility index(PI)があります。

日本人の場合、PSVが200cm/secを超えるとNASCETで70%以上の狭窄が存在するとされていおり、150cm/secを超えるとNASCET法で50%以上の狭窄が存在するとされています。

内頸動脈の血流速度は不安定で、左右差の病的意義は乏しいく、総頸動脈の拡張末期血流速度(EDV)の左右比であるED ratioを計測し1.4以上の場合は、遠位部の狭窄性病変を疑います。

椎骨動脈の血管径に左右差がある場合には、血流速度の左右差に病的な意義がないため、フローチャートに従って診断が行なわれます。

 

頚動脈の狭窄率

心臓から脳に向かう頸動脈は、内頚動脈外頸動脈に分かれており、一般的に頸動脈狭窄とは、内頚動脈が動脈硬化を起こし、血液が流れる道が狭窄した状態を言います。

脳に向かう血液の流れ道が狭いため、脳血流の悪化、または、狭い箇所で流れの悪くなった血液が小さな血の塊(血栓)を作り、これが頭蓋内の血管を詰まらせてしまう結果、脳の血流不足が起こり、脳梗塞を生じる危険性が高くなってくるのです。

狭窄率の測定方法

狭窄率の測定方法には以下の3つがあります。

  • NASCET 法
  • ECST 法
  • 面積法(area stenosis)

狭窄率は面積法≧ECST 法≧NASCET 法の順に大きい値となり、最低限ECST 法、可能ならばNASCET 法で表記し、狭窄面が不正でECST 法で困難な場合は面積法で表記されます。また、高位狭窄は総頚動脈の拡張期血流速度比(ED ratio)で推測します。

内中膜剥離術は内科的治療に比べ、NASCET 法・ECST法いずれの方法でも50% 以上の狭窄でやや有効となり、40% 以上の狭窄で有効となります。

狭窄率は、脳梗塞の治療方針を決める上で重要になります。

血管造影での狭窄率から、

  • 30-49%=軽度
  • 50%~69%=中等度
  • 70%以上=高度

とするのが一般的です。

上記でお伝えしたように狭窄率の測定方法にはいくつかありますが、NASCET(ナセット)=大規模臨床試験での測定法が一般的に用いられます。

症例 70歳代女性 脳梗塞

右の内頚動脈起始部に狭窄を認めています。

面積法にてarea stenosis(面積狭窄率)=94%と高度狭窄を認めています。

 

頚動脈 エコー ガイドラインは?

頚動脈 エコー ガイドラインは以下の通りです。

1.目的

生活習慣病(糖尿病,脂質異常症,高血圧症,喫煙,肥満など)や動脈閉塞性疾患(脳血管障害,虚血性心疾患,閉塞性動脈硬化症など)の診療に際して参考となる,頸動脈病変の超音波検査による標的な評価方法を提示する。

2.適応

頸動脈超音波検査の適応は,1)頸動脈の狭窄および閉塞病変を伴いやすい疾患(脳血管障害,椎骨脳底動脈環流不全,高安病など)やそれを示唆する臨床所見(片麻痺,動脈雑音,脈拍減弱など)がある場合,または2)他の領域の動脈硬化性疾患(冠動脈疾患,閉塞性動脈硬化症,大動脈瘤など)に対する,侵襲的治療のリスク評価が必要な場合とする.

ただし,3)動脈硬化危険因子(糖尿病,脂質異常症,高血圧,喫煙,肥満など)を持っており,動脈硬化の進行の可能性がある場合も検査の適応としてよい.

引用:日本脳神経超音波学会頸動脈エコー検査ガイドライン作成委員会

 

まとめ

今回のポイントのまとめ!

  • 頸動脈エコーでは、内膜中膜複合体厚(IMT)・頸動脈の血流速度・頸動脈の狭窄率などがわかる。
  • 頸動脈の血管壁の最も厚い箇所の壁厚(maxIMT)が1.1mm までは正常値と判定し、これを超えるとその部位をプラークと呼ぶ。
  • 血流速度で求めるのは、収縮期最高血流速度(PSV)・拡張末期血流速度(EDV)・平均血流速度(TAMV)・pulsatility index(PI)である。
  • 頸動脈狭窄とは、頸部頸動脈が動脈硬化を起こし、血液が流れる道が狭窄した状態を言う。
  • 狭窄率の測定方法には、NASCET 法・ECST 法・area stenosisがある。
  • 狭窄率は、脳梗塞の治療方針を決める上で重要になる。

 

脳梗塞などを引き起こす動脈硬化の原因の一つに血管の老化が上げられます。
例え健康に自信のある方でも30歳代辺りから、血管の内部が変化し始め、動脈硬化が始まっていますが、その進行具合は食生活や運動不足などの生活習慣と大きな関わりがあります。

頸動脈エコーで動脈硬化の検査を定期的に受け、ご自分の血管の健康状態を知ることはもちろん、生活習慣の乱れを改善することで動脈硬化の予防にもつながります。

参考文献:
1)N Engl J Med 340(1):14-22,1999

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