頭部画像診断 TIPS症例19

【頭部】TIPS症例19

【症例】60歳代男性
【主訴】無症状
【現病歴】他院にて右内頚動脈狭窄症を指摘され、当院受診。脳血管造影検査で、NASCET 76%の高度狭窄を認め、頸動脈内膜剥離術(CEA)目的で入院となった。本日、CEA施行し、術後、脳梗塞除外目的でMRIが撮影された。

画像はこちら

異常信号とその原因は?

まず今回術後にMRIが撮影された理由は、内膜のプラークが飛んだりして脳梗塞を起こしていないかの確認です。

DWI/ADCで異常な高信号/信号低下部位は同定できず、脳梗塞の発症はなさそうです。

で、今回着目して頂きたいのはFLAIRです。

FLAIRで、側脳室のように明瞭に低信号で抜けるべきくも膜下腔が脳表を中心に抜けが悪いという所見に気付く必要があります。

見慣れていないとピンと来ないかも知れません。

FLAIRというのは、

ですので、髄液を除いた部分は明瞭な無信号(低信号)にならなければなりません。

ここでFLAIRの正常画像を確認してみてください。

明瞭に脳溝を追うことができ、くも膜下腔が明瞭な無信号(低信号)になっていることが確認出来ます。

くも膜下腔の不明瞭さは両側Sylvius裂でも確認することができます。

両側Sylvius裂がはっきり同定できない=異常である。

ということです。

本来FLAIRでは動脈は無信号となり、同定することができません。ところがこの症例では両側とも無信号の中大脳動脈を同定することができます。

これは周りのくも膜下腔の信号値が上昇しているため、無信号の血管が浮き出て見えているということです。

では、なぜこのようなことになっているのでしょうか?

前回見たように、FLAIRでくも膜下腔に高信号を示すものとしては、以下のものが知られています。

  • アーチファクト(髄液流、血管拍動、金属の存在) ←症例1516で出てきました。
  • くも膜下出血
  • 髄膜炎
  • 脳溝の狭小化や静脈のうっ滞 ←症例17で出てきました。
  • もやもや病(側副血行路:ivy sign)
  • 脂肪(脂肪腫、破裂類皮腫成分)
  • 数分間以上の高濃度酸素吸入中
  • 腎不全患者にてGd系造影剤投与数日後

などです。

今回はどれでしょうか?

今回は内頸動脈剥離術が行われた当日であり、当然術中高濃度酸素を吸入しています。

高濃度酸素は投与中だけでなく、投与後にも高信号となります(どれくらい残るのかはわかりません。ご存じの方おられたら教えてください。書籍には2週間後でも残っているという症例がありましたが)。

これによる影響で高信号になっていると考えることができます。

診断:高濃度酸素投与によるFLAIRでのくも膜下腔の信号上昇疑い

 

 

【頭部】TIPS症例19の動画解説

追記:

Q:右側頭極のFLAIRの低信号のぬけ(+高信号の縁取り)は陳旧性脳梗塞(ラクナ梗塞よりサイズは大きい?)でしょうか?

指摘されているように右側頭葉先端部にFLAIRで円形の無信号を認めています。

これは中大脳動脈と同じ程度の無信号であり、同部の無信号は動脈瘤を疑う所見です。

(同部は円形の無信号を生じるような脳梗塞は通常認めない場所で、梗塞を起こすならば側頭葉先端部全体に萎縮を認めるのが通常です。また同部は脳挫傷を生じやすい部位でもありますが、脳挫傷後としても不自然な形態です。)

今回出題の意図と異なるためMRAを提示していませんでしたが、提示します。

MRAではやはり右中大脳動脈分岐部に嚢状の動脈瘤を認めていることが分かります。

 

診断:右中大脳動脈分岐部動脈瘤

 

miki先生ご指摘いただき、ありがとうございます。

動画でも解説しました。

 

お疲れ様でした。

今日は以上です。

今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。

過去のコメント
  1. 今回の症例では、「DWIでの磁化率によるアーチファクト」、「SWIでの静脈の抽出不良」、「FLAIRでの脳槽の濃度上昇」を認めます。金属による磁化率による影響を考えましたが…FLAIRでの脳槽の濃度上昇に違和感を感じていました。
    高濃度酸素投与によるものと考えると、下記のように考えることができてスッキリしました。
    「SWIでの静脈の抽出不良」→ 還流静脈血の相対的なオキシヘモグロビン濃度の上昇、デオキシヘモグロビン濃度の低下、によるものと考えることが出来ます。
    「FLAIRでの脳槽の濃度上昇」→ 酸素は常磁性体であり、T1 短縮効果があることが知られています。また、血液が組織に灌流する際に、血液内に溶存する酸素が脳脊髄液に拡散する機序が報告されています。よって、高濃度酸素吸引により、脳脊髄液に拡散する酸素が増加することで、酸素が造影剤のような働きをしてFLAIRで脳脊髄液の信号濃度上昇を示す、と考えることができます。(ということは、高磁場MRIの方がより高酸素吸引の影響を受けやすいと想像します。)

    1. アウトプットありがとうございます。

      >「SWIでの静脈の抽出不良」→ 還流静脈血の相対的なオキシヘモグロビン濃度の上昇、デオキシヘモグロビン濃度の低下、によるものと考えることが出来ます。

      確かに・・・。
      SWIで明らかに静脈の描出不良を認めていますね。
      まるでT2*WIのようですね。もしかして、T2*WIだったかな?と確認しましたがやはりSWIでした。

      FLAIRでの脳槽の濃度上昇についての考察もありがとうございます。

  2. 高濃度酸素の吸引・・・恐らくココでなければ体験できない症例でした。診療所勤務ですのでなかなか今回の様な症例にあたることはないと思いますが、普段から、ヌケを意識しながら検査したいと思います。回答は、何これ珍解答でした(-_-)

    1. アウトプットありがとうございます。

      高濃度酸素の吸引でFLAIRが高信号になるという点は教科書的には有名ですが、なかなか症例がない(少なくとも当院では)ので目に焼き付けておいてください(^^)

  3. 前頭部のアーチファクトにつられてしまいました.
    状況を想像しながら読影しなければダメですね.
    しかし,考察のレベルが高い・・・

    1. アウトプットありがとうございます。

      >考察のレベルが高い・・・

      ですね!前頭部のアーチファクトも所見として重要ですね。

  4. 磁化率アーチファクトに気を取られてFLAIRを見落としました。高濃度酸素吸引の症例自体も初めて見たのでしっかり目に焼き付けたいと思います…

    1. アウトプットありがとうございます。

      FLAIRは強力ですが、このように偽陽性もあるので注意が必要ですね。

  5. 言われてみてやっとくも膜下腔のFLAIR高信号に気が付きました。比較的MRI画像は見る立場なのに情けないですが、とはいえ難しい症例だったと思います。FLAIRでのくも膜下腔信号を今一度しっかり意識して観察したいと思います。

    解説も考察も非常に勉強になる症例でした。

    1. アウトプットありがとうございます。

      >言われてみてやっとくも膜下腔のFLAIR高信号に気が付きました。

      FLAIRはこうやってみるとSAH診断などには使えるのですが、ややくせ者ですね。

      >解説も考察も非常に勉強になる症例でした。

      ありがとうございますm(_ _)m

  6. こんにちは。本日もよろしくお願いいたします。

    金属アーチファクトに気を取られ、全く気が付きませんでした…。
    金属アーチファクトの場合、このように管状にうねうねと伸びることもあるのですね。

    これまで勉強したSWI所見は、出血や、脳梗塞のsusceptibility sign,Misery perfusionなどでしたが、高濃度酸素投与後では逆に静脈の描出が不良になるのですね。
    ごろ〜先生のご解説にあわせて、kenken先生の考察が補強になって理解が深まりました!

    意識した上で見慣れていないと異常に気が付け無そうな所見だったので、とても勉強になりました。

    1. アウトプットありがとうございます。

      >金属アーチファクトの場合、このように管状にうねうねと伸びることもあるのですね。

      です。

      >kenken先生の考察が補強になって理解が深まりました!

      ですね。私も勉強になりました。

      >意識した上で見慣れていないと異常に気が付け無そうな所見だったので、とても勉強になりました。

      そうですね。言われてみて初めてわかる所見かもしれませんが、正常例を見ていただいて違和を感じていただけたらと思います。

  7. 恥ずかしながら、全く知りませんでした。
    今まで、脳外科のある病院では、頭部MRIは脳外科が読影していたので、見ることがなかったですし、
    高濃度酸素投与後のMRIをみることもほとんどなかったおうに思います。
    しかし、FLAIRでの異常を拾えなかったことは猛省です。
    本当に勉強になります。やっててよかった。

    1. アウトプットありがとうございます。

      >高濃度酸素投与後のMRIをみることもほとんどなかったおうに思います。

      そうなんです。
      なかなか探すのに苦労した症例です(^^)
      普段実は術後の方ならば意外とあるのかもしれませんが。

      >FLAIRでの異常を拾えなかったことは猛省です。

      ちょっと見えにくいな。程度にしか思わないかもしれませんね。
      その目で見てみるとおかしいことがわかりますね。

  8. とても初歩的な質問かもしれませんが、前頭部の金属アーチファクトの原因の金属はなんでしょうか…?加えて、FLAIRで観察できる、体外にある高信号の管状のものはなんでしょうか?(FLAIR8~13スライスで左耳に入り込んでいるのも気になりました。酸素マスク?)
    FLAIR9-16スライスの右後頭部の高信号の出っ張りのようなものはなんでしょうか?MRIの読影の際、皮膚・頭蓋骨・硬膜の信号があやふやで、中々同定できません…。
    また、右側頭極のFLAIRの低信号のぬけ(+高信号の縁取り)は陳旧性脳梗塞(ラクナ梗塞よりサイズは大きい?)でしょうか?

    1. アウトプットありがとうございます。

      >前頭部の金属アーチファクトの原因の金属はなんでしょうか…?

      義歯もしくはインプラントによるアーチファクトと思われます。SWIで特に強いですね。

      >加えて、FLAIRで観察できる、体外にある高信号の管状のものはなんでしょうか?(FLAIR8~13スライスで左耳に入り込んでいるのも気になりました。酸素マスク?)

      これは何なのでしょうか、ちょっとすぐわからないので確認します。

      >FLAIR9-16スライスの右後頭部の高信号の出っ張りのようなものはなんでしょうか?MRIの読影の際、皮膚・頭蓋骨・硬膜の信号があやふやで、中々同定できません…。

      これは最も外層ですので皮膚ですね。皮膚のたるみ、2重にかさなっているものです。

      >右側頭極のFLAIRの低信号のぬけ(+高信号の縁取り)は陳旧性脳梗塞(ラクナ梗塞よりサイズは大きい?)でしょうか?

      これは。。。。動脈瘤ではないかと思ったらやはり動脈瘤でした。
      (今回MRAは非提示でしたが、確認するとサイズの大きな動脈瘤が右の中大脳動脈分岐部にあります)
      これもFLAIRだけでも指摘しないといけないですね。
      追記します。ありがとうございます。

    2. >前頭部の金属アーチファクトの原因の金属はなんでしょうか…?加えて、FLAIRで観察できる、体外にある高信号の管状のものはなんでしょうか?(FLAIR8~13スライスで左耳に入り込んでいるのも気になりました。酸素マスク?)

      これですが、脳外科の先生に聞いてみました。

      「頚部の部分の画像がないとなんとも言えませんが、CEA後に皮下にペンローズドレーンを入れる事はありますが、この画像では場所が変ですね。」

      とのことです。
      頸部の画像はないので、何とも言えませんが。

  9. 素人の質問ですみません。高濃度酸素の吸引とは量でいうとどれくらい以上と思えばいいのでしょうか?電カルから情報として読み取る際の参考にしたいです

    1. アウトプットありがとうございます。

      調べてみましたが具体的な量は書いていないですね(^_^;)
      人工呼吸器を使っていれば高濃度ではないでしょうか。