先に結論:急性冠症候群(ACS)の初期対応

  • ACSは症状・心電図・心筋マーカーで診断し、来院10分以内に12誘導心電図をとります。STEMIなら一刻も早く再灌流(PCI)を目指して循環器内科へ連絡します
  • 高齢者・女性・糖尿病では胸痛のない非典型的な症状が多く、下壁梗塞では右室梗塞(右側胸部誘導)・後壁梗塞も確認します。大動脈解離の除外も大切です
  • STEMIは心電図でST上昇がある心筋梗塞、NSTEMIはST上昇はないがトロポニンが上がる心筋梗塞、UAP(不安定狭心症)はトロポニンが上がらないものです。ST上昇の反対側の誘導でSTが下がるミラーイメージ(reciprocal change)は、心筋梗塞を示唆する所見です
  • 従来の「MONA(アスピリン・酸素・ニトロ・モルヒネ)」は見直されており、酸素はSpO2 90%未満など低酸素のときに投与、モルヒネは硝酸薬で治まらない痛みに限って慎重に使い、高感度トロポニンで経時的に判定します。薬の使い方は主治医が判断します

急性冠症候群(ACS(STEMI,NSTEMI/UAP))

※ACS:Acute Coronary Syndrome
※STEMI:ST elevation myocardial infarction
※NSTEMI:non-ST elevation myocardial infarction
※UAP:Unstable Angina Pectoris

STEMI・NSTEMI・UAPの違い

STEMI NSTEMI UAP(不安定狭心症)
心電図 持続するST上昇(新たな左脚ブロックを含む) ST上昇なし(ST低下・T波陰転、または変化なし) ST上昇なし(ST低下・T波陰転、または変化なし)
心筋トロポニン 上昇 上昇 上昇しない
心筋の壊死 あり あり なし
急ぐこと 一刻も早い再灌流(PCI) 危険度に応じて早期の冠動脈造影を検討 危険度に応じて評価・治療

NSTEMIとUAPは、来院時には心電図だけでは区別できず、トロポニンを経時的に測って分けます。両者をまとめてNSTE-ACS(非ST上昇型急性冠症候群)と呼びます。

ACSか否か?

▶急性冠症候群(ACS)を診断する3つのポイント

Ⅰ, ACSの症状は多彩である。

Ⅱ, ACSでも最初の心電図で典型的な所見が出ないことがある!

Ⅲ, よってACSの診断は病歴、身体所見の情報を総合的に判断する。

※ACSは、問診、診察、心電図で診断する。胸部X線、血液検査、心エコーで他の疾患でないことを確認する。

ACSへの対応

①Vital signのチェックと第一印象

→12誘導心電図(来院から10分以内が目標。誘導部位にはマーキング)静脈ライン確保(同時に採血、Trop T/Rapi checkも)
→ACSが疑わしい時点で循内コール

②問診

③身体所見(①~③は同時進行)

④モニター装着

⑤各種薬剤投与(AONM)

⑥心エコーで虚血部位を確認、大動脈解離の除外

⑦胸部X線

⑧尿道カテーテル挿入

⑨心カテ室へ

・カテーテル前にチェックしておくこと
・胃潰瘍などの出血性病変の可能性(大量ヘパリンを使用するため)
・腎機能の確認(大量の造影剤使用により腎機能悪化の可能性があるため)

心電図(ACSの可能性を上げる変化)

・隣接する2つ以上の誘導でのST上昇(新たなST上昇のLR+ 5.7〜53.9)

※下壁ならⅡ,Ⅲ,aVF、側壁ならⅠ,aVL、前壁ならV1~V6

・新たなQ波の出現(LR+ 5.3〜24.8)

・T波の陰転化

・新たな伝導障害:房室ブロック、脚ブロック

・逆に、心電図が正常ならMIの可能性は下がる(LR 0.1〜0.3)

→ACSを疑い症状が続く場合はECGを短い間隔で繰り返す。

心電図(ST上昇の鑑別)

・心筋梗塞
・心室肥大
・良性早期再分極 
・急性心外膜炎 
・その他:Brugada症候群、左脚ブロック、右脚ブロック、左室瘤、不明、異型狭心症、High take-off,高K血症、低体温、脳血管障害、急性腹症

心電図(ST上昇で注意する点)

▶ミラーイメージ(Reciprocal change)は
・下壁(ST↑/↓)⇔側壁、前壁(ST↓/↑)
・特異度が高い。→あればAMI!!
・胸痛とST上昇があった179例(STEMI 85例、心外膜炎・たこつぼ心筋症・早期再分極などの非虚血性94例)の検討では、下壁のST上昇でⅠ誘導のST低下がSTEMIの83%にみられ、非虚血性では0%でした。前壁のST上昇でⅡ誘導のST低下は、STEMIの40%にみられ、非虚血性では0%でした。一方、胸部誘導のPR低下は非虚血性(38%)にSTEMI(12%)より多くみられました(Lindow 2020)。
・多変量解析では、ミラーイメージのST低下は虚血(心筋梗塞)と関連し、aVRのST低下と胸部誘導のPR低下は非虚血性(心外膜炎など)と関連していました(Lindow 2020)。スライド10

▶下壁梗塞を見たら右誘導(V4R,V5R)を追加。(V4R,V5RにてST↑が見られると右室梗塞)
∵右室梗塞を伴うことが多い。
→だから、モルヒネ、ニトロは行くな。輸液負荷を。
→A型大動脈解離が冠動脈の入口部に及んで心筋梗塞を起こすこともある。A型解離211例中24例で冠動脈に解離が及び、右冠動脈のみが11例、両側が9例と右冠動脈が多かった(Neri 2001)。下壁梗塞では大動脈解離の除外も意識する。スライド11

▶後壁梗塞
・右室梗塞や側壁梗塞に合併しやすい
ST↓(V1~V3)…後壁のST↑のミラーイメージ
R↑(V1~V3)…後壁のQ波のミラーイメージ
・V8,9(後壁誘導)を追加注文スライド12

▶良性早期再分極(Benign Early Repolarization)
・若い健常人男性に多い。
・左側前胸部誘導(V2~V5)で見られる。
・四肢誘導のみで認めることは稀(aVRにありaVLにない対側誘導でのST低下)
・AMIと違い、経時変化はない。

▶左室肥大
・凹型
・左室肥大の他の特徴

▶急性心外膜炎
・びまん性ST上昇
・aVRにあってaVLにない対側誘導でのST低下
・PR低下

ACSの心電図の経時的変化

・急性期、超急性期(T波の尖鋭、増高:hyperacute T wave)

・ 数時間後(Q波の出現)

・2日後(上昇したSTの軽度下降、T波逆転)

・慢性期 (Q波、陰性T波)

Trop /Rapi checkについて

▶心筋トロポニン(Trop)
利点:心筋特異性が高い
欠点:(従来法では)超急性期の診断には有用性が低い。

▶H-FABP(心臓型脂肪酸結合蛋白(Rapi))
利点:発症早期の超急性期で陽性
欠点:心筋特異度が低い。腎機能障害や大動脈解離で偽陽性となる。
→陽性でもACSとは言えない。

問診 ACSの典型的な症状(OPQRST)

Onset(発症様式) 突然発症
Position(部位) 胸骨下
Quality(性状) 圧迫感、以前のACSと同じ痛み
Radiation(放散痛) 左右どちらかの肩への放散痛
Symptom(随伴症状) 冷汗、嘔気
Timing/Time course(タイミング、時間経過) 労作時や安静時に発症し、持続する

ACSの可能性を上げる情報

・放散痛:左右両腕への同時の放散痛 LR+7.1

・身体所見:Ⅲ音 LR+3.2、低血圧 LR+3.1

・胸痛の性状、放散痛の部位、冷汗、嘔気・嘔吐、リスク因子(男性・高齢・高血圧・糖尿病・脂質異常症・喫煙・ACSの既往や家族歴)も、単独では弱いながら可能性を上げる

ACSの可能性を下げる情報

・胸痛の性状:鋭い・刺すような痛み LR 0.3、胸膜痛 LR 0.2、体位で変わる痛み LR 0.3

・身体所見:触診で再現される痛み LR 0.2〜0.4

ACSの治療

★AONMが治療の基本

・Aspirin→アスピリン
※PCIを前提に、P2Y12阻害薬を併用することが多い(薬剤の選択は循環器内科と相談し、ガイドラインで確認)。

・Oxygen→SpO2 90%未満など低酸素血症があるときに酸素投与(低酸素のない例へのルーチン投与は不要)

・Nitroglycerin→ニトログリセリン(硝酸薬)
※低血圧のときや、右室梗塞(下壁梗塞に合併することが多いので、下壁梗塞では右側胸部誘導で確認)では使わない。

・Morphine→モルヒネ
※ただし、硝酸薬で胸部不快感が緩和しない場合に限って使う。
※モルヒネは経口P2Y12阻害薬(チカグレロル)の吸収を遅らせ、効果を弱めることが報告されている。

・AMIの場合、引き継ぐまでに時間がかかるなら
→ヘパリン(未分画ヘパリン)を考慮(循環器内科と相談し、ガイドラインで確認)。

ACSの注意点

・非典型的な症状を示すのは?→高齢者、女性、糖尿病患者

・胃が痛い+迷走神経亢進(徐脈、嘔吐)+冷汗→下壁心筋梗塞を見逃すな。

・胸痛のないAMIは少なくない。米国の心筋梗塞登録43万例の解析では、33%が来院時に胸痛がなく、胸痛のある群に比べて高齢・女性・糖尿病・心不全の既往が多く、院内死亡率は23.3%(胸痛あり9.3%)と高率であった。

・85歳以上の高齢者の主訴は息切れが多い。

・危険因子のある胸痛患者は、ACSを考えて心電図と(高感度)トロポニンを経時的に再評価する。

ACSの悪化シナリオと対処例

・心不全:心筋虚血で壁運動低下、ポンプ機能低下→心臓の前では肺を中心とした鬱血、心臓の後では臓器虚血が起こる。→PCPSでとりあえずの酸素化を得つつ、一刻も早くPCIを行って心臓の血流を回復する。

・血圧低下:右室梗塞を生じると、左室の前負荷が下がり血圧の低下をきたす(肺うっ血がない低心拍出状態)→十分な輸液

・致死性不整脈:徐脈やVT/VF→DC。ただし、難治性のことがあり、根本治療が必要。→PCPSでとりあえずの循環を保ちつつPCI

・虚血心筋細胞の破綻による心タンポナーデ/心破裂→緊急開胸して穴をふさぐしかないが、救命は困難か。

参考文献

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  9. Neri E, Toscano T, Papalia U, et al. Proximal aortic dissection with coronary malperfusion: presentation, management, and outcome. J Thorac Cardiovasc Surg. 2001;121(3):552-60. PubMed

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