胃切除手術をした人は、問題のある胃を切除してしまえば、もう安心と思っていませんか?

実は、今までのような食生活が送れなかったり、体調の変化や様々な症状に戸惑ってる方が多くいます。

そんな中でも、胃切除後に起こるダンピング症候群には注意が必要です。

そこで今回は、ダンピング症候群(英語表記で「Dumping syndrome」)について・・・

  • 症状
  • 原因
  • 治療法
  • 予防法

をご説明したいと思います。

胃の手術のあと、食後にめまいや冷や汗が出る…

ダンピング症候群かもしれません。食べ物が急に小腸に流れこむことで起こります。少しずつ、ゆっくり食べるのが基本ですよ。

先に結論:ダンピング症候群

  • ダンピング症候群は、胃の手術後に食べ物が一気に小腸へ流れ込むことで起こる症状で、胃切除後では最大4割ほどにみられると報告されています
  • 早期ダンピングは食後1時間以内に動悸・冷や汗・顔のほてり・腹痛・下痢が、後期ダンピングは食後1〜3時間にインスリンの出すぎによる低血糖(ふるえ・冷や汗・脱力)が起こります
  • 対策は少量ずつ回数を分けて、ゆっくりよくかんで食べる、糖質のとりすぎを避けることが基本で、後期ダンピングの低血糖時は糖分(あめ等)をとることで回復します

※胃の手術後に食後の動悸・冷や汗・ふらつきが続くときは、手術を受けた病院に相談してください。

ダンピング症候群とは?

胃の切除手術後には、胃の体積や機能が低下します。

すると、胃内での食べ物の貯留機能が低下するために起こり、食べた物が小腸内に急速に流入するために起こる病態をダンピング症候群といいます。

ダンピング症候群の種類は?

ダンピング症候群は

  • 食後1時間以内に現れるものを早期ダンピング症候群、
  • 食後1〜3時間たってから起こるものを後期ダンピング症候群

の早期と後期に分けられます(Scarpellini 2020)。

早期ダンピング 後期ダンピング
起こる時間 食後1時間以内 食後1〜3時間
主なしくみ 食べ物が一気に小腸へ入り、水分の移動と消化管ホルモンの放出が起こる 糖の急な吸収でインスリンが出すぎ、血糖が下がる(低血糖)
主な症状 腹痛・お腹の張り・下痢・吐き気、動悸・冷や汗・顔のほてり・だるさ 冷や汗・動悸・ふるえ・空腹感・脱力・ぼんやりする
診断の目安(ブドウ糖負荷試験) 30分後のヘマトクリット3%超の上昇、または脈拍10回/分超の増加 血糖の最低値が50mg/dL未満

(Scarpellini 2020、van Beek 2017をもとに作成)

ダンピング症候群の頻度は?

このダンピング症候群は、胃切除手術のあとにみられることがあります。

頻度は手術の種類や診断の基準によって異なり、迷走神経切離と幽門形成術のあとで約20%、胃切除後で最大40%、食道切除後で最大50%と報告されています(Scarpellini 2020)。早期ダンピングのほうが多いと考えられていますが、胃がんの手術後には、低血糖だけが起こる後期ダンピングが最大25%にみられるという報告もあります。

ダンピング症候群の症状は?

早期・後期それぞれの症状を説明します。

早期ダンピング症候群の症状

  • 腹痛・お腹のはり・お腹がゴロゴロ鳴る
  • 吐き気
  • 下痢
  • 動悸・頻脈
  • 冷や汗
  • 顔のほてり
  • だるさ(食後に横になりたくなる)
  • 血圧の低下、まれに失神

(Scarpellini 2020)
胃切除・幽門形成・胃空腸吻合などを受けた症例にみられます。

後期ダンピング症候群の症状

  • だるさ・脱力感
  • ぼんやりする・意識がもうろうとする
  • 空腹感
  • 発汗・動悸
  • 手のふるえ・イライラ
  • 失神

などで(Scarpellini 2020)、後期は低血糖による症状が中心という点で違いがあります。
食後に大量の糖が急速に吸収され、インスリンの一過性過剰分泌(GLP-1などの消化管ホルモンも関わります)の結果、症状があらわれます。

関連記事)糖尿病で低血糖になった時の対処法は?もしもの時の為に!

ダンピング症候群の原因・メカニズムは?

ダンピング症候群が起こる原因・メカニズムは、早期と後期で異なります。

それぞれ分けて見ていきましょう。

早期ダンピング症候群の原因・メカニズムは?

まず、胃の切除により、食べ物を少しずつ十二指腸へ送り出す幽門の働きが失われたり弱まったりします。

また、胃を切除して胃の体積が減ったわけですから、胃の中の食べ物の貯蔵量も今までよりも少なくなります。

そうすると、消化・吸収されなかった食べ物があふれ出し、小腸に入ります。

これにより2つのことが起こります。

  • 小腸内が食べ物により高浸透圧になる
  • 小腸の粘膜が刺激される
小腸内が高浸透圧になると・・・

小腸内が食べ物により高浸透圧になると、腸管の外から水を引っ張る物理的な力が働きます。

そうすると細胞外液が減少して、体を流れる循環血液量が減ってしまいます。

体を流れる血液が減ると、脳血流が減ったり、血管運動反射と言った自律神経系の症状が起こります。

小腸の粘膜が刺激されると・・・

また食べ物が小腸に入り、小腸の粘膜を刺激します。

これにより消化管ホルモン(ニューロテンシンや血管作動性腸管ペプチドなどの血管に働く物質、GLP-1などのインクレチンなど)が放出され(Scarpellini 2020)、これらが複雑に絡んで、血管運動症状や胃腸管症状を引き起こします。

これらの結果、早期ダンピング症候群の症状が起こります。

後期ダンピング症候群の原因・メカニズムは?


胃を切除したことにより消化・吸収されなかった食べ物があふれ出し、小腸に入るところまでは早期と同じです。

小腸内に食べ物が入ることにより、小腸(空腸)は勢いよく糖を吸収します。

すると、血液中の糖、つまり血糖が高くなり、高血糖を引き起こしてしまいます。

そして、高血糖を抑えようと膵臓からインスリンが多く分泌されます。

しかし、実際は摂取した糖が多いわけではなく、小腸へ入る勢いが強いだけですので、必要以上の過剰なインスリンが分泌されます。

すると、逆に血糖が下がり過ぎてしまい、低血糖症状が起きてしまうのです。

これが、後期ダンピング症候群が起こる原因・メカニズムです。

ですので、後期ダンピング症候群では、食事の摂り方や炭水化物を多く摂ってしまうことも原因となります。

後期ダンピング症候群を起こしてしまう食事の摂り方

後期ダンピング症候群を起こしてしまう食事の摂り方としては、

  • 短時間で食事を済ませる一気食い
  • 炭水化物の量が多すぎた場合

と言った食べ方が挙げられます。

この食べ方によって、急激に血糖値が高まり、それを体が抑えようとインスリンを多く分泌し、逆に低血糖状態となり症状が起こります。

どんな治療法があるの?

胃切除じたいが治療の結果なのに・・・と思われるかもしれませんが、胃の手術後は気をつけないといけません。

まず、食事療法をしっかり守ることが重要です。

そのため、手術後には食事の指導がなされます。

また、症状が出てる時は、対処法や治療が必要になります。

食事療法は予防にもつながりますので、手術後には、指導が入ります。

ここで詳しく説明します。

食事で指導される(食事療法)ことは?

  • 1回の食事量を減らし、回数を多く分ける
  • 甘い物など吸収の速い糖質を減らす
  • たんぱく質と食物繊維の多い食事にする
  • ゆっくり、よくかんで食べる
  • 食事中の水分は控え、食後30分以上たってからとる
  • アルコールは控える

(Scarpellini 2020)

食後にだるさが出たときは、無理をせず休むようにしましょう。なお、「食後30分は横になる」ことを全員に勧めるかどうかは、国際コンセンサスでは合意に至っていません。

また、胃切除後は貧血にもなりやすいため、食事の内容にも気をつけ、鉄分の多い食材を摂ることもおすすめです。

なお、早期ダンピング症候群のしくみには自律神経の反応も関わると考えられています。

続いて、症状が出た場合の対処法・治療法を見ていきましょう。

症状が出た時の対処法

  • 横になって休息(安静)
  • 糖質の補給(飴玉、ジュース、砂糖など)

これはあくまでも、低血糖症状が出た時の対処法です。

ですが、これでも症状が治らない場合や、症状がひどい場合は以下のような治療が必要になります。

症状がひどい時の治療法

食事の工夫で改善しない場合に、薬による治療が検討されます。どの薬を使うかは主治医が判断します。

基本的には、食事療法が大切です。

薬や食事で改善しない難治例では再手術などが検討されることもありますが、効果は一定せず、まずは手術以外の方法で対応することが勧められています。2020年の国際コンセンサスでは、治療の第一段階は食事の調整とされ、後期ダンピングにはα-グルコシダーゼ阻害薬(アカルボース)が有効、食事療法とアカルボースで改善しない場合はソマトスタチンアナログが推奨されています。診断には修正経口ブドウ糖負荷試験が有用とされています。同コンセンサスでは、ブドウ糖摂取開始30分後にヘマトクリットが3%を超えて上昇するか、脈拍が10回/分を超えて増加すれば早期ダンピング、血糖の最低値が50mg/dL未満なら後期ダンピングと診断できるとしています。一方、胃排出検査は診断に有用ではないとされています。

ダンピング症候群でよくある疑問(Q&A)

Q. 胃の手術以外でも起こりますか?

A. 食道の手術、肥満の手術(胃バイパス術やスリーブ状胃切除術)、逆流性食道炎の手術(噴門形成術)のあとにも起こることが報告されています(Scarpellini 2020)。

Q. ダンピング症候群はいつまで続きますか?

A. 時間とともに自然に良くなるかどうかは、十分なデータがなく分かっていません(Scarpellini 2020)。食事の工夫を続けながら、症状が続くときは手術を受けた病院で相談しましょう。

Q. どうやって診断しますか?

A. 手術歴と食後の症状から疑い、必要に応じて修正経口ブドウ糖負荷試験で脈拍・ヘマトクリット・血糖の変化を調べます。胃の排出検査は診断には役立たないとされています(Scarpellini 2020)。

最後に

  • 食後1時間以内に現れるものを早期ダンピング症候群
  • 食後1〜3時間たってから起こるものを後期ダンピング症候群
  • 動悸・冷や汗・腹痛・下痢や、低血糖による症状が出る
  • 低血糖状態を食事によって改善することが治療や対処法になる
  • 食事中の水分は控え、食後30分以上たってからとる
  • 食事療法が予防にも治療にも大切

 

胃切除手術前と同じように考えてはいけないというわけです。

常に、このような症状が起こるかもしれないと予測し、もしもの場合に備えて飴を常備しておいたりすることで、精神的負担も軽くできます。

胃切除しなければ命自体が危なかったかもしれない、今はそれが助かったんだからと前向きに考え、うまく付き合っていくのがダンピング症候群を予防するカギですね。

  1. Scarpellini E, Arts J, Karamanolis G, et al. International consensus on the diagnosis and management of dumping syndrome. Nat Rev Endocrinol. 2020;16(8):448-466. PubMed
  2. Tack J, Arts J, Caenepeel P, et al. Pathophysiology, diagnosis and management of postoperative dumping syndrome. Nat Rev Gastroenterol Hepatol. 2009;6(10):583-590. PubMed
  3. van Beek AP, Emous M, Laville M, et al. Dumping syndrome after esophageal, gastric or bariatric surgery: pathophysiology, diagnosis, and management. Obes Rev. 2017;18(1):68-85. PubMed

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