胸骨骨折に見えるアーチファクト 胸部CT矢状断での見分け方と注意点

胸部CTの矢状断を確認すると、胸骨に段差や皮質の不連続があり、「胸骨骨折では?」と迷うことがあります。

しかし、このような所見は、呼吸や息止め不良によるモーションアーチファクトでも生じます。実際に、呼吸性アーチファクトを胸骨骨折と誤認した例が文献に報告されています[1,2]。

今回は、胸骨が骨折しているように見える呼吸性アーチファクトについて、発生する仕組みと、実際の骨折との鑑別ポイントを解説します。

呼吸や息止め不良で胸骨が骨折のように見えることはある?

あります。胸骨骨折を評価する際に知っておきたい、CT読影上の落とし穴です。

Kimらは、交通外傷患者87人を対象に、胸骨骨折に対する多列検出器CT(MDCT)の診断能を検討しています。この研究では、呼吸性アーチファクトにより胸骨骨折の偽陽性となった症例が1例あり、胸骨側面X線写真が正しい診断に役立ったと報告されています[1]。

また、Artulらは、高所からの転落で胸部を受傷した14歳男児について、CT矢状断で胸骨柄の高度な骨折に見えるモーションアーチファクトを報告しています[2]。

「よくある」といえるほど頻度は高い?

ここは、現象が起こることと、発生頻度を分けて考える必要があります。

胸骨骨折に似た呼吸性アーチファクトは文献に示されていますが、一般の胸部CTでどの程度の頻度で生じるのかを示す十分なデータは、今回確認した文献にはありません。

したがって、「頻繁に起こる」と断定するよりも、「呼吸や体動のあるCTでは、胸骨骨折を疑う所見の鑑別に挙げるべきアーチファクト」と理解するのが適切です。

なぜ胸骨骨折のように見えるのか?

撮影中に呼吸や体動で胸骨の位置が変わると、位置のずれた画像データが再構成され、胸骨の輪郭に不連続が生じることがあります。

特に矢状断の多断面再構成画像(MPR)では、胸骨に階段状のずれ(stair-step artifact)が現れ、横骨折や骨片の転位のように見えることがあります[3]。

つまり、画像上の段差が、そのまま実際の骨の断裂を意味するわけではありません。

症例 40歳代男性 胸骨骨折に見える呼吸性アーチファクト

胸骨骨折に見える呼吸性アーチファクト CT 矢状断像
引用:Radiopaedia(Breathing artifact mimicking a sternal fracture)

交通外傷で撮影された胸部CTの矢状断像です。胸骨体に段差があり骨折のように見えます(赤矢印)が、同じ高さで前方の皮膚にも段差がみられます(黄矢印)。撮影中の体の動きによるアーチファクトと判断された症例です。

実際の胸骨骨折との見分け方

1.胸骨前方の皮膚・皮下組織にも同じ高さの段差がないかを見る

特に参考になるのが、胸骨の段差と同じ高さに、前方の軟部組織にも不連続がないかという点です。

Parkらの報告では、呼吸性アーチファクトにより胸骨骨折に似た所見が生じた症例で、胸骨前方の軟部組織にも不連続が認められています[3]。

胸骨だけを見ると転位骨折のようでも、皮膚や皮下組織まで同じ高さでずれていれば、撮影中の動きによる位置ずれを考える手掛かりになります。

2.肋骨など、周囲の構造にも不連続がないかを確認する

胸骨以外の構造を確認することも有用です。

Parkらの症例では、3D画像で複数の肋骨に、水平方向に並ぶ不連続が認められています[3]。また、Imらも、肋骨や縦隔構造を含めて比較することが、骨折とモーション・呼吸性アーチファクトとの鑑別に役立つと述べています[4]。

胸骨の一部分だけに注目せず、同じ高さの胸壁や周囲構造を合わせて確認することが大切です。

3.矢状断と元の軸位像を照合する

胸骨の評価では、矢状断が非常に有用です。Imらの研究では、胸骨骨折が確認された82人について、軸位像に矢状断を追加することで骨折の検出が改善し、読影者間の一致度も向上しました[4]。

一方で、矢状断には呼吸による段差も現れるため、矢状断の1枚だけで判断せず、元の軸位像と照合する必要があります。

なお、胸骨の横骨折は軸位像だけでは捉えにくいことがあります。「軸位像で骨折線が目立たないからアーチファクト」とは判断できません。複数断面の所見を組み合わせて評価します[1,4]。

4.周囲血腫の有無も参考にする

骨折部周囲の血腫は、実際の外傷を支持する所見の一つです。Parkらは、実際の胸骨骨折で、骨片の転位と血腫が矢状断に明瞭に描出された例を提示しています[3]。

ただし、血腫がないことだけでは胸骨骨折を否定できません。Imらの胸骨骨折症例でも、胸骨後血腫は全例に認められたわけではありません[4]。

判断に迷ったときはどうする?

まずは、以下の点を整理します。

  • 胸骨前方の皮膚・皮下組織にも、同じ高さで段差があるか。
  • 肋骨や周囲構造にも、位置ずれや不連続があるか。
  • 矢状断と元の軸位像の所見が整合するか。
  • 骨折部周囲の血腫など、外傷を支持する所見があるか。
  • 受傷機転や局所の疼痛・圧痛が、画像所見と一致するか。

これは、文献の所見をもとに整理した実務上の確認項目であり、単独で骨折の有無を決める診断基準ではありません。

モーションアーチファクトが強く、CTでの評価が難しい場合には、胸骨側面X線写真などの追加評価が役立つ場合があります。Kimらも、CTに高度なモーションアーチファクトがある場合の追加X線撮影の有用性を指摘しています[1]。

まとめ

  • 呼吸や息止め不良によって、胸骨が骨折・転位しているように見えることがあります。
  • 特に矢状断MPRでは、階段状のずれが骨折に似て見えることがあります。
  • 胸骨前方の皮膚・皮下組織にも同じ高さの段差がないかが、鑑別の手掛かりになります。
  • 周囲構造、複数断面、血腫、臨床所見を合わせて判断します。
  • 文献上の報告はありますが、一般の胸部CTにおける発生頻度は十分に明らかではありません。

引用・参考文献

  1. Kim EY, Yang HJ, Sung YM, Hwang KH, Kim JH, Kim HS.
    Sternal fracture in the emergency department: diagnostic value of multidetector CT with sagittal and coronal reconstruction images.
    Eur J Radiol. 2012;81(5):e708-e711.
    doi: 10.1016/j.ejrad.2011.05.029.
    PubMed
  2. Artul S, Yamini A.
    Motion artefact in multidetector CT in a child with severe chest injury resembling serious pathology.
    Emerg Med J. 2014;31(9):744.
    doi: 10.1136/emermed-2013-203141.
    PubMed
  3. Park KJ, Kang DK, Kim TH.
    Traumatic Thoracic Injury: The Role of Multidetector-row CT.
    J Korean Radiol Soc. 2006;54(5):393-401.
    doi: 10.3348/jkrs.2006.54.5.393.
    呼吸性アーチファクトの実例はFigure 4、胸骨骨折の実例はFigure 6を参照。
  4. Im DJ, Hahn S, Kim YJ.
    The Usefulness of Sagittal Reformation for Diagnosis of Sternal Fracture.
    J Korean Soc Radiol. 2014;70(1):25-30.
    doi: 10.3348/jksr.2014.70.1.25.

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