腎盂腎炎(pyelonephritis)とは?
- 腎盂・腎杯・尿管に及んだ急性細菌感染症を急性腎盂腎炎とよぶ。
- 上行性、血行性、リンパ行性の感染経路がある。多くは上行性尿路感染が原因となる。
指導医
つまり、膀胱→尿管→腎盂へと感染が進行するということです。
- 若年女性に多い。
- 増悪するとすぐに敗血症性ショック、DIC、ARDSとなる。なので迅速に診断、治療する必要がある。
腎盂腎炎の症状
- 症状は、急な発熱、悪寒と側腹部の痛み、吐気、嘔吐、CVA tenderness+など。
- 頻尿、排尿障害などの下部尿路の症状が約3割に起こる。
- ただし、小児では、症状が通常乏しい。
- 膀胱炎症状を有するのは83%。
- 結石性腎盂腎炎は膿尿が出ない事がある。
- 消化器症状が前面に出る事があるので注意。
- 悪寒、振戦あるなら敗血症になっていると考える。
▶︎背部痛〜右側腹部痛をきたす疾患
- 胆嚢結石症、急性膵炎、膵癌、後腹膜リンパ節腫大
- 尿路結石、腎盂腎炎
- 化膿性椎間板炎、化膿性脊椎炎、腸腰筋膿瘍
- 椎体圧迫骨折
- まれ:特発性食道破裂、大動脈解離、特発性後腹膜出血、腎梗塞、腎静脈血栓症
- 小児に特徴的:ムンプス膵炎、腎結石、腎盂腎炎
腎盂腎炎の検査
- 検査所見では、CRP陽性、血沈亢進、白血球増多、尿中の細菌および白血球の存在を認める。
その他、検査所見
- 尿培養→細菌10万(10の5乗)/ml以上(これが確定診断)。大腸菌が9割。
- KUBで結石→閉塞解除のため緊急処置。
- エコーでhydro→尿管ステントなどでドレナージを。
- CTは後述
- 慢性腎盂腎炎では、症状およびこれらの検査所見が急性に比べると軽度。
- 原因菌は大腸菌が最多。他に、プロテウス菌、緑膿菌、クレブシエラ菌などがある。
- 尿流障害をきたす尿路基礎疾患(尿路結石、膀胱尿管逆流、水腎症、神経因性膀胱、尿管奇形、膀胱留置カテーテルなど)がある複雑性腎盂腎炎と、それらのない単純性腎盂腎炎に大別される。急性腎盂腎炎の多くは単純性である。
- 糖尿病や妊娠が誘因となることがある。
- 単純性腎盂腎炎は性的活動期の女性に多く認められる。原因菌の多くは大腸菌で、上行感染が多い。
腎盂腎炎のCT所見
まず覚えておくべきことは、75%の症例で所見が見られないということ。
指導医
ですので、CTで腎盂腎炎を疑う所見がないから、腎盂腎炎ではないとは絶対に言えません。
症状はもちろん、細菌尿など検査所見が診断には大事です。
- 腎腫大、造影剤の排泄遅延を認める。
- 炎症が腎周囲に及ぶと、単純CTでbridging septaやGerota筋膜の肥厚が認められ、腎周囲腔の浮腫や液体貯留を反映しているとされる。
- 慢性腎盂腎炎では、病変部の腎実質の菲薄化、腎杯の変形を認める。
▶造影CTにて、
- 腎皮質相での皮質造影効果不良による皮髄境界不明瞭化
- 腎実質相~排泄相での楔状・線状の造影効果不良所見(炎症によるdebris、間質の浮腫、血管攣縮による尿細管閉塞を反映した所見とされる。)
※後者のタイミングの方が診断しやすい。
症例 20歳代女性 発熱、右腰痛
研修医
右腎上極内側に楔状の造影不良域を認めます。皮髄境界は不明瞭ですね。
症例 20歳代女性 右腰痛、発熱
研修医
右腎に造影不良域を認めています。
症例 30歳代女性 発熱、腰痛
研修医
この症例は両側、造影不良があり、腎腫大も認めています。両側の腎盂腎炎ですね
動画でチェックする。
腎実質造影効果不良所見の鑑別
研修医
造影不良域があれば腎盂腎炎ですか?
指導医
いいえ、腎盂腎炎以外に以下の場合を考えましょう。
- 部分的な腎梗塞
- 稀な間質性病変(サルコイドーシス、自己免疫性膵炎に伴う間質性腎炎、悪性リンパ腫など)
- 腎腫瘍(単発の場合)
※これらは、尿や臨床所見で鑑別可能。
腎盂腎炎の治療
指導医
治療は以下の通りです。
血液培養2セット、尿培養提出後、
【治療】抗生剤は、まず広域に開始。
- 第3世代セフェム系薬 ロセフィン®1g+生食100ml
- BLI配合ペニシリン系薬
- アミノグリコシド系薬
- カルバペネム系薬
※治療期間は最低合計2週間(14日間)。解熱して3日経過すれば経口への変更も可能。症状が良くならず熱も持続していれば①尿路閉塞、②膿瘍形成を考えて画像検索を行う。
処方例
Ⅰ.単純性腎盂腎炎:尿路の解剖学的異常を伴わない場合
①起炎菌:急性膀胱炎と同じ。
②推奨薬剤 外来治療:クラビット(100)4錠分1後*7~14日。
入院治療:ユナシンS3g×2。
③使ってもよい薬:シプロキサン300mg×2またはパズクロス500mg×2。
※診断は中間尿で10*5/cfu以上、カテーテル尿で10*4/cfu以上。
セフェム単独は腸球菌に無効。
Ⅱ.複雑性腎盂腎炎:尿路に解剖学的異常を伴い再発を繰り返す場合。
①起炎菌:緑膿菌による感染を考慮しなければならない。
②推奨薬剤:ビクシリン2g×2~3+(硫酸アミカシン15mg/kg* or エクサシン8(~15*)mg/kg)×1、or(チエナム0.5g or メロペン0.5g or オメガシン0.3g)×2~3。
③使ってもよい薬:シプロキサン300mg×2またはパズクロス500mg×2。
※尿路感染では緑膿菌を含む腸内細菌には感受性薬剤1種類のみで有効。
腎盂腎炎のTIPS
何故腎盂腎炎は高齢で多いのか?
- 男性の場合は前立腺肥大などによる尿路狭窄。
- 前立腺からの抗菌物質の分泌低下。
- 女性の場合は膀胱脱による残尿・神経筋疾患・膀胱の運動障害などによる尿流のうっ滞。
- ホルモンバランス変化による膣の菌叢の変化。
- 認知症による会陰部の不衛生状態。
急性単純性腎盂腎炎で解熱までにかかる時間
- 治療開始から解熱までは平均34時間。
- 48時間後の発熱患者は26%。72時間後の発熱患者は13%も熱が続く。なので、2日熱が続いても慌てない。
- 3日経っても解熱しないなら、腎周囲膿瘍、腎膿瘍、結石に伴う水腎症、膀胱尿管逆流症などを疑う。
妊婦の急性単純性腎盂腎炎の管理のポイント
- 妊婦の場合は腎盂尿管は拡張し、膀胱は弛緩、子宮により下部尿管が圧迫されて、尿流も滞りやすい。
- 治療にはST合剤・キノロンを避け、βラクタム系を用いる。
無症候性細菌尿について
- 尿路感染の症状がなく、特定の菌が10の5乗CFU/ml以上(カテーテル尿では10の2乗CFU/ml以上)検出された場合、無症候性細菌尿とする。男性では1回、女性では2回で定義を満たす。
- 治療は原則不要。
- ただし、妊婦、侵襲的泌尿器科処置の術前は例外。