
先に結論:医療従事者の被ばく防護は「時間・距離・遮蔽」の3原則。透視では散乱線がX線管球側で多く、天井懸垂板と防護眼鏡は「置き方・かけ方」で効果が変わる
| 項目 | ポイント |
|---|---|
| 3原則 | 時間を短く、距離をとり、遮蔽する。患者さんの線量を減らす工夫は、そのままスタッフの被ばく低減になる |
| 散乱線 | 主な線源は患者さんの体。X線管球側のほうが検出器側より多く、側面像では検出器側に立つほうが有利 |
| 水晶体 | ICRP 118(2012年)は、白内障と循環器疾患のしきい線量を実用上0.5 Gyとして示した。水晶体の防護は天井懸垂板・防護眼鏡・立ち位置の組み合わせで行う |
| 線量計 | 鉛エプロンの内側と、首元(エプロンの外側)に着ける運用がある。眼鏡の内側に着ける第3の線量計は、線量が多くなりやすい人に有用 |
| 注意 | 具体的な限度値や運用は法令・施設の放射線管理担当者の指示に従う |
被ばく防護の3原則:時間・距離・遮蔽
放射線防護の現場で最初に習うのが、時間・距離・遮蔽の3原則です。難しい理屈ではなく、「いつ・どこで・何を使って」浴びる量を減らすかの整理だと考えると使いやすくなります。
| 原則 | 考え方 | 透視・IVRでの具体例 |
|---|---|---|
| 時間 | 放射線の出ている時間が短いほど、浴びる量は少ない | 透視時間を必要最小限にする、不要な撮影を避ける、放射線が出ていないときに近づかない |
| 距離 | 線源から離れるほど減る。線量は距離の2乗に反比例する | 患者さんの近くに長く立たない、撮影(DSAなど)の間は一歩下がる、モニターの位置を整えて身をかがめない |
| 遮蔽 | 線源と体の間に鉛などの遮蔽物を置く | 防護衣、甲状腺防護、防護眼鏡、天井懸垂板、寝台側のカーテン |
距離については、線量が距離の2乗に反比例するため、照射されている部位からの距離を約40%長くとると、スタッフの被ばくは半分になると解説されています(Akahane 2022)。数十センチ下がるだけでも意味があります。
もう一つ大切なのが、患者さんの線量を減らすことは、スタッフの線量を減らすことだという点です。散乱線の源は患者さんの体なので、透視時間やフレームレートを抑える、絞り(コリメーション)を使うといった工夫が、そのまま職員の防護になります(Schueler 2021、Akahane 2022)。IVRで患者さんの被ばくを減らす方法はkVp(管電圧)とは?IVRで患者の被ばくを減らす8つのポイントと拡大率で説明しているので、この記事では職員側の防護に絞ります。
散乱線はどこから来て、どこに多いのか
透視やIVRで職員が浴びる放射線の主役は、X線管球から直接来るビームではなく、患者さんの体で散乱した放射線です。患者さんが散乱体になるため、体に近いほど、そして照射野に近いほど強くなります。
血管造影の模型実験では、腹部の透視で、散乱線が「寝台の下側から術者の下肢へ」「患者さんの体の側方から腹部へ」「患者さんに近い寝台の面から頭頸部へ」と向かうことが示されました(Ito 1999)。寝台下の隙間や術者の腹部・頭頸部をどう遮るかが、防護具の配置を考える手がかりになります。
管球側は散乱線が多い
散乱線は、X線管球側のほうが検出器側より多いとされています(Akahane 2022)。このため、次のような使い分けが勧められています。
| 状況 | 考え方 |
|---|---|
| 管球が寝台の下にある(アンダーカウチ) | 管球が寝台の上にある配置(オーバーカウチ)より、頭頸部への散乱線が少ない(Akahane 2022) |
| 側面像(ラテラル)の撮影 | 管球側ではなく検出器側に立つ。検出器と患者さんの体が遮蔽として働く(Akahane 2022) |
| 斜位・頭側の角度が大きい撮影 | 冠動脈造影の模型実験では、術者の線量率は左前斜位45度・頭側25度の撮影で最も高く、頭側25度のみで最も低かった(Jia 2017) |
| 術者と助手 | 同じ実験では、助手のほうが術者より全体に被ばくが少なかった(Jia 2017) |
放射線が出ているときは、いまどの角度で撮っているか、管球が自分の側にあるかを意識しておくと、立ち位置を調整しやすくなります。
防護衣・防護眼鏡・天井懸垂板の使い方
防護衣と甲状腺の防護
鉛などの入った防護衣(エプロン)と甲状腺防護(ネックガード)は、体幹と甲状腺を守る基本装備です。体の前面だけでなく、側方からの散乱線も当たるため、術者のように寝台の横に立つ人は、背中側や側方も覆うタイプが使われます。目の防護に使う道具(遮蔽板・ドレープ・眼鏡)は、有用なものと防護が限られるものがあると総説で整理されています(Schueler 2021)。
防護衣は重いため、長時間の着用で腰や頸に負担がかかります。サイズが合わない・ずれて隙間ができる・ひび割れがあるといった状態では、防護の効果が落ちます。施設の点検の決まりに従い、保管は折りたたまず専用のハンガーで行いましょう。
天井懸垂板(天吊り式の遮蔽板)
天井懸垂板は、術者の頭頸部・胸部を守る遮蔽板です。ただ置けばよいのではなく、術者の近くに寄せるほど効果が大きいことが模型実験で示されています。冠動脈造影の実験では、寝台側の遮蔽に加えて天井懸垂板を使うと、術者への線量が、患者さんに近い位置で76.8%、左の横方向で81.9%、術者の近くで93.5%減りました。助手でも同様の傾向で、70.3%、76.7%、90.0%でした(Jia 2017)。
実際の診療でも、天井懸垂板を使うと、使わない場合に比べて頭部の線量が平均5.7分の1になったと報告されています(van Rooijen 2014)。解説論文では、天井懸垂板は模型で4〜10倍、実臨床で2〜7倍の線量低減が報告されているとされ、防護眼鏡より広い範囲を守れる点が強みです(Akahane 2022)。
一方で、板を下げすぎると手元が見えにくくなり、清潔野の妨げにもなります。「見える」「手が動かせる」と「守れる」の両立を、事前に位置を決めておくことが重要です。
引用図 寝台側の遮蔽と天井懸垂板の配置(冠動脈造影の模型実験)

引用:Jia Q, Chen Z, Jiang X, et al. Sci Rep 2017;7:42077(Figure 1). CC BY 4.0(無加工)。PMC
寝台側の遮蔽(下半身用の遮蔽)、垂直方向の延長板、天井懸垂板を併用した冠動脈造影の模型実験の配置です。術者に近い位置に天井懸垂板を置いたとき、線量低減が最も大きくなりました。
水晶体を守る:ICRP 118と防護眼鏡
ICRP 118の水晶体の考え方
目の水晶体は、放射線に比較的敏感な組織です。ICRP 118(2012年)は、組織反応(以前の「確定的影響」)についてのしきい線量を見直し、特に白内障と循環器疾患では、思ったより低い線量で、しかも被ばくから長い時間がたってから障害が増えるという証拠が出ていることを示しました。その上で、1%の発症率を基準にした実用上のしきい線量として、白内障と循環器疾患に0.5 Gyを提案しています。線量の与えられ方(急に浴びたか、少しずつ浴びたか)にかかわらず、この値を使うとされています(ICRP 2012)。
この考え方を受けて、ICRPは2011年に、水晶体の職業被ばくの線量限度を引き下げる声明を出し、日本でも法令に取り入れられ、2021年4月から施行されています(Akahane 2022)。限度値の細かな数字や測り方は、法令と施設の管理規程で確認してください。組織反応と確率的影響の違いは放射線被ばくの確定的影響(組織反応)と確率的影響の違い、線量限度の改正はピッチファクタとは?ヘリカルピッチとの違いと被ばく低減策・線量限度(水晶体2021年改正)にも書いています。
白内障は、しきい値なしで低い線量でも起こりうるというデータもあります。透視下のIVRや循環器の手技に関わる職員では、水晶体の混濁が報告されており、水晶体の線量を測ることと、現在の臨床での追跡調査が望まれると述べられています(Schueler 2021)。
防護眼鏡の効果は「向き」と「隙間」で変わる
防護眼鏡の効果は、条件で大きく変わります。人の頭の模型で、正面から線が来る場合の線量低減は、眼鏡のタイプにより7.9〜10.0倍でした。ところが、頭を横に向けると効果は大きく落ちました。管球に近い側の目は、側面の遮蔽と眼鏡の曲がりのおかげで比較的よく守られました。実際の診療で測ると、眼鏡の線量低減は平均で2.1倍にとどまりました(van Rooijen 2014)。研究チームは、部屋の配置や職員への教育が最適でないことを理由に挙げています。
IVRの職員でみると、循環器のカテーテル室で、直接目に着ける線量計で測った研究では、水晶体の線量は「眼鏡なしの医師 > 眼鏡ありの医師 > 看護師」の順で、0.07 mm鉛当量の眼鏡の遮蔽効果は、臨床では約60%でした(Haga 2017)。別の模型実験では、鉛当量が高いほど、また皮膚と眼鏡の下側の隙間が小さいほど水晶体の線量が少なくなりました(Imai 2025)。
| 効果を落とす条件 | 対策 |
|---|---|
| 頭を線源から横にそむける | 照射されている部位に顔を向け、頭の向きを意識する(van Rooijen 2014) |
| 眼鏡と顔の間の隙間 | 隙間があると、下からの散乱線が入る。鉛当量が高く、隙間の小さい眼鏡が有利(Imai 2025)。顔と眼鏡の隙間を小さくすることは総説でも要点とされる(Akahane 2022) |
| 上を向く・身を乗り出す姿勢 | わずか15度上を向くだけで、眼鏡によっては効果がほとんどなくなることがある。モニターの位置を調整して、首を上げずに見られるようにする(Akahane 2022) |
| 天井懸垂板がない・遠い | 眼鏡だけに頼らず、板を併用する(van Rooijen 2014、Akahane 2022) |
防護眼鏡は、天井懸垂板の代わりではなく、「板で守りきれない部分を補う」道具と考えると使いやすくなります。
個人線量計のつけ方
個人線量計は、自分の被ばくを知り、防護が効いているかを確かめるためのものです。つけ方で測れる値が変わるため、どこに着けるかを守ることが重要です。
| 着ける位置 | 何がわかるか | 注意点 |
|---|---|---|
| 鉛エプロンの内側(胸・腹部) | 防護衣で守られた体幹の線量 | 内側と外側を取り違えると、水晶体の線量を過小評価する可能性がある(Akahane 2022) |
| 首元(エプロンの外側、襟のあたり) | 頭頸部・水晶体の線量の推定に使える | 防護眼鏡を効果的に使うと、水晶体の実際の線量より多めに出る(眼鏡の線量低減係数が2なら約2倍に過大評価)(Akahane 2022) |
| 眼鏡の内側(目の近く) | 眼鏡の遮蔽効果を反映した水晶体の線量 | 線量が多くなりやすい人に有用。専用の線量計が必要で、施設の方針に従う(Akahane 2022) |
循環器のカテーテル室で、12人の医師と11人の看護師を6か月測った研究では、首の線量計の値と目の線量計の値に強い相関がありました(決定係数は眼鏡の内側で0.93、外側で0.86)。著者らは、水晶体の線量を正しく評価するには、医師に目の線量計を使うことを推奨しています(Haga 2017)。
引用図 水晶体用線量計と個人線量計の着ける位置

引用:Haga Y, Chida K, Kaga Y, et al. Sci Rep 2017;7:569(Figure 1). CC BY 4.0(無加工)。PMC
カテーテル室での測定に使われた線量計の位置です。目のすぐ外側(眼鏡の内側と外側)と、鉛エプロンの外側で首の左側に着けた個人線量計が示されています。
どの着け方が必要か、リングバッジを併用するかなどは、職種・手技・施設の方針で決まります。自己判断で外したり、他人のものと交換したりせず、放射線管理担当者の指示に従ってください。
職種別の心がけ
| 職種 | ポイント |
|---|---|
| 看護師 | 処置の間は、できるだけ管球・照射野から離れる位置で患者さんを観察する。必要な介助のときだけ近づく。防護眼鏡・防護衣のサイズと着け方を確認する |
| 診療放射線技師 | 撮影のたびに、線量が出ることを声かけし、スタッフが立ち位置を取れる時間をつくる。線量計の装着確認や、患者さんの線量を減らす設定の工夫を担う |
| 研修医・術者 | 防護具の使い方を、手技を習う最初の段階で身につける。長時間の手技ほど線量が増えるため、体勢・モニターの位置にも気を配る |
現場では、手技に集中するほど防護が後回しになりがちです。手技の前に、天井懸垂板の位置・眼鏡・線量計を「チェックリスト」のように確認する習慣をつけると、続けやすくなります。放射線の種類や被ばくの基本は放射線被ばくの種類(人工放射線、自然放射線)も参考にしてください。
よくある疑問(Q&A)
Q. 防護眼鏡をかければ、水晶体は十分に守れますか?
A. 眼鏡は頭の向き・隙間・姿勢で効果が変わります。模型では正面で7.9〜10.0倍の低減でも、実際の診療では平均2.1倍にとどまった報告があります(van Rooijen 2014)。天井懸垂板との併用が基本です。
Q. 散乱線は、どちら側に立てば少ないですか?
A. 管球側のほうが検出器側より多いため、側面像のときは検出器側に立つのが有利です(Akahane 2022)。管球が寝台の下にある配置は、上にある配置より頭頸部への散乱線が少ないとされます。
Q. 水晶体の線量は、首の線量計だけで足りますか?
A. 首の線量計の値と、目の線量計の値には相関があるという報告があります(Haga 2017)。ただし、眼鏡を効果的に使っていると、首の値は水晶体より多めに出ます(Akahane 2022)。測り方は、施設の方針に従ってください。
Q. 妊娠中や心配なときはどうすればよいですか?
A. 防護の方法や配置は、職場の放射線管理担当者に早めに相談してください。体調や気になる症状があれば、医療機関に相談しましょう。
あわせて読みたい:レントゲン・CTの被ばく量は大丈夫?妊娠中・授乳中の影響と検査ごとの目安(mSv)【図解】
あわせて読みたい:診断参考レベル(DRL)とは
参考文献
- Authors on behalf of ICRP; Stewart FA, Akleyev AV, Hauer-Jensen M, et al. ICRP publication 118: ICRP statement on tissue reactions and early and late effects of radiation in normal tissues and organs–threshold doses for tissue reactions in a radiation protection context. Ann ICRP. 2012;41(1-2):1-322. PubMed
- Schueler BA, Fetterly KA. Eye protection in interventional procedures. Br J Radiol. 2021;94(1126):20210436. PubMed
- van Rooijen BD, de Haan MW, Das M, et al. Efficacy of radiation safety glasses in interventional radiology. Cardiovasc Intervent Radiol. 2014;37(5):1149-1155. PubMed
- Jia Q, Chen Z, Jiang X, et al. Operator Radiation and the Efficacy of Ceiling-Suspended Lead Screen Shielding during Coronary Angiography: An Anthropomorphic Phantom Study Using Real-Time Dosimeters. Sci Rep. 2017;7:42077. PubMed
- Akahane M, Yoshioka N, Kiryu S. Radiation Protection of the Eye Lens in Fluoroscopy-guided Interventional Procedures. Interv Radiol (Higashimatsuyama). 2022;7(2):44-48. PubMed
- Haga Y, Chida K, Kaga Y, et al. Occupational eye dose in interventional cardiology procedures. Sci Rep. 2017;7(1):569. PubMed
- Ito H, Hosoya T, Eguchi Y, et al. Analysis of radiation scatter during angiographic procedures: evaluation of a phantom model and a modified radiation protection system. J Vasc Interv Radiol. 1999;10(10):1343-1350. PubMed
- Imai S, Yamahata A, Gotanda T, et al. Evaluation of factors influencing eye lens radiation dose while using radiation protection glasses in interventional radiology: A phantom study. Eur J Radiol. 2025;184:111943. PubMed
画像診断を無料で学べるコンテンツ

腹部画像診断を症例で学ぶ
4日に1回、朝6時に症例が届き、実際に画像をスクロールして読影する講座です。90症例以上・1年以上続く講座で、医師・医学生・放射線技師・看護師など10,000名以上が参加中です。
講座に参加する(無料) →
