診断参考レベル DRLは線量の上限ではない・最適化の目安

病院のCTの説明に「診断参考レベル(DRL)」という言葉が出てきました。これは「ここまでなら被ばくしてよい」という上限のことでしょうか?
上限ではありません。DRLは、施設ごとの線量が他の施設と比べて高くなっていないかを点検するための「ものさし」で、患者さん一人ひとりに当てはめる制限値ではありません。ICRP Publication 135の考え方と、正当化・最適化との関係、日本の公開資料の見方を整理します。

先に結論:DRLは医療被ばくの「最適化」の道具。線量限度でも、検査をしてよいかどうかの境目でもなく、施設の線量を見直すきっかけにする目安

項目 ポイント
DRLとは ICRP(国際放射線防護委員会)が提案した、診断・IVRの患者の医療被ばくで、防護の最適化を助けるために使う調査のためのレベル(ICRP Publication 135)
上限ではない 線量限度ではなく、診療行為の是非を分ける境界でもない。臨床的な必要性があれば超えてよく、個々の患者の線量の良し悪しを判定する物差しにも使わない(J-RIME 2025)
比べる量 CTではCTDIvol(mGy)とDLP(mGy・cm)など、装置が表示する量。一般撮影では入射表面空気カーマ、IVRでは基準点空気カーマや面積空気カーマ積などを使う(J-RIME 2025)
使い方 施設の標準的な患者群の中央値をDRL値と比べ、高ければ装置・撮影条件を見直し、再調査する。DRL値自体も3〜5年ごとに見直す(ICRP 135、J-RIME 2025)

診断参考レベル(DRL)とは

診断参考レベル(Diagnostic Reference Level、DRL)は、CTやX線撮影、IVR、核医学などの検査で、施設が使っている線量を、全国や地域の実態と見比べるための基準です。ICRPは1996年のPublication 73でこの言葉を初めて使い、数値の決め方、見直しの間隔、臨床での使い方などに追加の助言が必要になったため、2017年にPublication 135を出しました。同書は、DRLが防護の最適化を助ける有効な道具であることが示されてきたと述べています(Vañó 2017)。

日本では、医療被ばく研究情報ネットワーク(J-RIME)が、参加する学会・協会と共同で、全国調査にもとづくDRLを公表しています。J-RIMEによれば、日本初のDRLは2015年6月に公表され、2020年7月に2020年版、2025年7月7日に2025年版が公開されました(J-RIME 2025)。

DRLは上限ではない:誤解されやすい3つの点

J-RIMEの2025年版の報告書は、DRLの意義として最も強調すべき点を、線量限度ではないこと、そして診療行為の是非を分ける境界ではないことと述べています。線量限度は超えてはならない値ですが、DRLは臨床的な必要性があれば超えてもよい、とされています(J-RIME 2025、ICRP 135を引用)。

誤解 実際
DRLを超えたら違反や不適切 線量限度ではない。超えた場合は、臨床的に正当な理由がなければ、線量が最適化されているかを見直す(J-RIME 2025)
DRL以下ならよい DRLは「正常な線量」ではない。DRLよりずっと低い線量でも、診断に十分な画質が得られることがある(Damilakis 2023)
患者一人ひとりの線量に使う DRLは患者群・検査群に使うもの。体重や体格によって、標準的な患者より高い線量が必要な場合がある(J-RIME 2025)
目的は線量を下げること 目的は最適化で、線量低減そのものではない。必要な診断情報が得られなければ、かえって無駄な被ばくになる(J-RIME 2025)

撮影条件を変えたときは、線量の変化だけでなく画質と診断能が保たれていることの確認が肝要で、求めるのは最高の画質ではなく、診断に必要十分な画質です(J-RIME 2025)。

正当化と最適化:DRLが働く場所

医療被ばくの防護は、大きく「正当化」と「最適化」の2つで考えます。正当化は、その検査で得られる利益が被ばくによる害を上回るか、つまり検査を行う理由があるかを問う段階です。最適化は、検査を行うと決めたうえで、診断に必要な画質を保てる範囲で線量をできるだけ低くする段階です。DRLが担当するのは後者の最適化です。

段階 問うこと DRLとの関係
正当化 この検査は必要か。別の方法(超音波・MRIなど)で足りないか DRLは正当化の代わりにならない。検査の適応そのものはDRLでは決まらない
最適化 必要な画質・診断能を保って、線量を適切にできているか DRLの中心的な役割。自施設の線量を全国の分布と比べ、高ければ原因を探す

被ばくの考え方はレントゲン・CTの被ばく量は大丈夫?、放射線の影響の種類は確定的影響と確率的影響の違いで説明しています。

何の量で比べるのか:DRL量

DRLでは、検査ごとに「DRL量」を決めます。J-RIMEの資料では、DRL量は撮影の際に用いる放射線の量を評価するための、一般的で、容易に測定または決定できる量と定義されています(J-RIME 2025)。装置が表示する量など、どの施設でも同じ方法で比べられる量を使います。

検査 DRL量の例(J-RIME 2025)
CT CTDIvol(ボリュームCT線量指標、mGy)とDLP(長さ線量積、mGy・cm)。装置が表示する値を使う
一般撮影(胸部・腹部など) 入射表面空気カーマ(Ka,e)
マンモグラフィ 平均乳腺線量(DG)
IVR・透視 基準点空気カーマ(Ka,r)や面積空気カーマ積(PKA)など
核医学 投与した放射能量(放射性医薬品の量)

CTで使うCTDIvolは、ファントム(線量測定用の模型)で測った単一スライスの平均線量(CTDIw)をヘリカルピッチで規格化した量、DLPはあるスキャン長のCTスキャンで患者に与えられた総エネルギーの目安となる量です(J-RIME 2025)。つまりどちらも「患者さんの被ばくそのもの」ではなく、装置の出力を示す指標です。ピッチと線量の関係はピッチファクタとは?も参考にしてください。

DRLの決め方:全国値から施設の値まで

DRL値は、多数の施設の線量調査の結果を集め、その分布の75パーセンタイル(上から4分の1のところ)などを参考にして、専門家が設定します(J-RIME 2025)。ICRPは、DRLの種類を調査の範囲によって分けています。ESR(欧州放射線学会)のEuroSafe Imaging作業部会は、その整理をふまえて次のように説明しています(Damilakis 2023)。

種類 調べる範囲 使う値
国のDRL 国全体を代表する施設を選んだ全国調査 各X線室の中央値の第3四分位(75パーセンタイル)。J-RIMEは分布の75パーセンタイルなどを参考に設定(Damilakis 2023、J-RIME 2025)
ローカルDRL 地域内のいくつかの施設のX線室(10〜20室以上が目安) 各X線室の中央値の第3四分位(Damilakis 2023)
典型値(typical value) 少数の施設、または新しい技術を入れた単独の施設 分布の中央値。第3四分位を使うにはデータが足りないため(Damilakis 2023)

ESRの声明は、ローカルDRLを作る現実的な方法として、臨床目的がはっきりした検査を20〜30件以上集め、中央値と第3四分位(75パーセンタイル)を求めることを挙げています。ローカルDRLは、国のDRLと同じかそれより低いことが望ましく、高くてもよいのは、臨床上の利益が十分に説明できる場合に限られる、としています(Damilakis 2023)。新しい技術(逐次近似再構成や深層学習再構成を備えたCTなど)で線量を下げられる施設では、国の値より低い値を使えることも述べられています(Damilakis 2023)。

DRLの使い方:比べて、見直して、再調査する

J-RIMEの報告書は、DRLの活用を次の流れで説明しています(J-RIME 2025)。

手順 内容
1. 自施設の線量を調べる 標準的な患者群の典型的な線量(中央値)を調べる。装置の表示値が最も使いやすい
2. DRL値と比べる 中央値がDRL値を超えていれば、臨床的に正当な理由がない限り、最適化できているかの見直しをする
3. 原因を探して対策する 装置の性能や撮影プロトコールを調べ、高線量の原因を突き止める。画質に影響しない対策を優先する
4. 再調査する 対策の後に、もう一度、施設の線量を調べ、DRL値と比べる

見直しの間隔について、J-RIMEの報告書はICRP Publication 135の推奨として、CTとIVRは年1回、その他の検査は装置などの変更がなければ3年に1回の線量調査を挙げています。また、新しい装置のプロトコールは患者さんに使う前に評価し、導入後1年以内、検査方法が確立した時点で再評価するとしています。DRL値そのものについても、ICRP Publication 135は少なくとも3〜5年ごとの改定を推奨しており、J-RIMEは2015年、2020年、2025年と5年ごとに改定してきました(J-RIME 2025)。

ESRの声明は、ローカルDRLを放射線科医・医学物理士・診療放射線技師を含む最適化チームで継続的に運用することを勧めています。DRLを超えた検査の理由(撮影範囲が長い、追加撮影、体格、体動など)を記録しておくと、後の改善に役立ちます(Damilakis 2023)。

日本のDRL(J-RIME 2025年版)は何に設定されているか

日本のDRL 2025年版は、J-RIMEと多くの学会・団体が名を連ねて公開しています(J-RIME 2025)。数値は検査名、体格、ファントムの径などの条件込みで決められているため、ここでは数値を載せず、どんな検査に設定されているかだけを整理します。数値を使うときは、J-RIMEの原本で条件を確認してください。

区分 設定されている検査(J-RIME 2025)
成人CT 頭部単純ルーチン、胸部1相、胸部〜骨盤1相、上腹部〜骨盤1相、肝臓ダイナミック、冠動脈、急性肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症、外傷全身CT。標準体格は体重50〜70kg
小児CT 頭部・胸部・腹部・頸部〜骨盤。年齢別(0歳台、1〜4歳、5〜9歳、10〜14歳)と、体重別(胸部・腹部・頸部〜骨盤)
小児心臓CT、治療計画CT 小児心臓CTは年齢別・体重別。治療計画CTは脳腫瘍定位、頭頸部、肺定位、乳癌術後、前立腺などの照射技術別
CT以外 一般撮影、マンモグラフィ、歯科X線(口内法・パノラマ・歯科用コーンビームCT)、IVR、診断透視、核医学(SPECT/CTやPET/CTのCT部分を含む)

J-RIMEの報告書によると、2025年版では2020年版と比べ、CTのすべてのプロトコールでDRL値が低下していました。その理由として、検出器のX線利用効率の向上、管電流自動変調機構の普及、逐次近似応用画像再構成が標準技術として広まったこと、DRLの認知の向上、2020年4月に施行された医療法施行規則の改正を受けて医療被ばくの管理が進んだことなどが挙げられています(J-RIME 2025)。小児CTでも、すべての年齢幅・体重幅・部位でCTDIvolのDRL値が2020年版より低下していました(J-RIME 2025)。

日本の全国調査では、2015年のDRLがCT線量の低減に貢献したことも示されています。2014年から2017年にかけてCTDIvolの平均値や75パーセンタイル値、四分位範囲が低下し、研究者らは、逐次近似再構成や低管電圧の普及がさらなる低減を後押しするだろうと述べています(Matsunaga 2019)。東京の100施設・176台のCTを対象にした調査では、東京のDRLは日本の2020年版より全プロトコールで低く、放射線科医や認定技師がいる施設、ビーム幅が広い装置、逐次近似再構成または深層学習再構成を使う施設で線量が低い傾向がありました(Sato 2026)。

DRLを読むときの落とし穴

同じCTでも撮影の仕方で値が変わる

DRLの値は、体格・撮影範囲・相(造影前、動脈相など)の数・使うファントムの径で大きく変わります。J-RIMEの成人CTの値は標準体格(体重50〜70kg)の患者を対象とし、肝臓ダイナミックでは、CTDIvolは全相の平均、DLPは検査全体の値という条件がついています(J-RIME 2025)。ESRの声明も、欧州のCT DRLの施設間・国間の差は、主に相の数と撮影範囲の違いによることを指摘し、DRLをつくる際にこれらを揃えて報告する必要を述べています(Damilakis 2023)。小児CTの調査では、装置の表示が16cm径ファントムに基づく体幹部の値は、32cm径ファントムの値に補正してから集計されています。条件を合わせて比べるのが基本です(J-RIME 2025)。

臨床の目的によって線量の水準は違う

必要な画質は臨床の目的で異なるため、ESRの声明は、部位別のDRLから臨床目的別のDRLへの移行が必要だとしています(Damilakis 2023)。国際登録(7か国・161施設・約370万件の成人CT)のデータから、欧州のEUCLID研究が選んだ10の臨床目的ごとにDRL(75パーセンタイル)と中央値を示した報告では、同じ部位でも臨床目的によって線量が有意に異なり。米国のDRLは10目的のうち9つで欧州より高く、著者らは不必要な線量のばらつきがあり得ると述べています(Bos 2022)。

DRLより低ければ安心、とも言えない

DRLを下回っていても、画質が診断に足りなければ意味がありません。J-RIMEの報告書は、自施設の中央値が国の中央値より低い場合は、線量より先に画質や診断能が十分かを確認できると述べています。画質の低下による診断能のわずかな低下が検査の損益のバランスを大きく損ねることもあります(J-RIME 2025)。

検査を受ける人にとってのDRL

DRLは病院の側が使う品質管理の道具で、患者さんが自分のCTの線量の高い・低いを判断するためのものではありません。体格が大きい人や、複数の相・広い範囲が必要な検査では、標準的な患者より高い線量が必要になることがあります(J-RIME 2025)。検査の必要性や被ばくが気になるときは、主治医や検査施設に相談してください。気になる症状があれば、医療機関に相談しましょう。

よくある疑問(Q&A)

Q. DRLを超えたCTは「やりすぎ」ですか?
A. そうとは限りません。DRLは線量限度ではなく、臨床的な必要性があれば超えてよいとされています。ただし、施設の標準的な患者の中央値がDRLを超えるときは、臨床的に正当な理由がない限り、装置や撮影条件を見直すことが求められます(J-RIME 2025)。

Q. DRLは法律で決まった上限値ですか?
A. 上限値ではありません。DRLは学会・団体の調査にもとづく、最適化のための目安です。日本では、学協会がDRLを確立した後に、診療用放射線の安全管理に関する医療法施行規則の改正(2020年4月施行)が整備された経緯があります(J-RIME 2025)。

Q. DRLはどのくらいの頻度で見直されますか?
A. ICRP Publication 135は、国のDRLを少なくとも3〜5年ごとに見直すことを推奨しています。各施設の線量調査は、CTとIVRでは年1回、その他の検査では装置の変更がなければ3年に1回が推奨されています(J-RIME 2025)。

あわせて読みたい:CT検査の基本まとめ、マルチスライスCT(MDCT)とスライス厚

あわせて読みたい:CTDIvolとDLPとは、医療従事者の被ばく防護

参考文献

  1. Vañó E, Miller DL, Martin CJ, et al. ICRP Publication 135: Diagnostic Reference Levels in Medical Imaging. Ann ICRP. 2017;46(1):1-144. PubMed
  2. Damilakis J, Frija G, Brkljacic B, et al. How to establish and use local diagnostic reference levels: an ESR EuroSafe Imaging expert statement. Insights Imaging. 2023;14(1):27. PubMed
  3. Matsunaga Y, Chida K, Kondo Y, et al. Diagnostic reference levels and achievable doses for common computed tomography examinations: Results from the Japanese nationwide dose survey. Br J Radiol. 2019;92(1094):20180290. PubMed
  4. Bos D, Yu S, Luong J, et al. Diagnostic reference levels and median doses for common clinical indications of CT: findings from an international registry. Eur Radiol. 2022;32(3):1971-1982. PubMed
  5. Sato H, Sugaya M, Ishida K, et al. Establishment of CT diagnostic reference levels (DRLs) in Tokyo. Eur Radiol. 2026;36(5):3465-3476. PubMed
  6. 医療被ばく研究情報ネットワーク(J-RIME). 日本の診断参考レベル(2025年版)(Japan DRLs 2025). 2025年7月(2025年11月28日一部修正). J-RIME

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