医療の現場で使われるちょっと難しい医療用語の一つにNOMIがあり、読み方はしばしば「ノミ」と呼ばれます。
今回はこのNOMIについてまとめました。
非閉塞性腸管虚血(NOMI:non-occlusive mesenteric ischemia)とは?
NOMIの定義:腸間膜動静脈に狭窄や閉塞が認められない腸管虚血。
腸間膜動脈に血管に狭窄や閉塞があれば、栄養する腸管に虚血が起こることは容易に想像できますが、狭窄や閉塞がないにもかかわらず、腸管虚血が起こってしまうのがこのNOMIです。
狭窄や閉塞ではなく、血管の攣縮(れんしゅく)が起こると推測されています。
では何が原因でこのNOMIが起こってしまうのでしょうか?
NOMIの原因・リスクは?
心不全、ショックなど全身の低還流がある場合、優先順位の高い脳や心臓など重要臓器への血流を維持するために腸間膜動脈末梢が攣縮することが原因とされています。
つまり、重篤な基礎疾患をもつ人に発生するといわれています。
なかでも、
- うっ血性心不全
- 心筋梗塞
- 肝・腎障害
- 体外循環使用
- ショック状態
- 敗血症
- 脱水状態
- 透析や心臓・腹部術後による血圧低下
- 血管作用薬使用(ジギタリス、αアドレナリン作動物質、バゾプレッシン)
などと関連があるといわれています1)
ではそんなNOMIにはどのような症状があるのでしょうか?
NOMIの症状は?
NOMIは早期には特異的な症状が認められない事が多く、20-30%では腹痛の訴えさえもないと言われています。
進行すると、腹部全体あるいは腹部のいかなる部位にも疼痛を認めるようになりますが、にもかかわらず、視診や触診では所見がないことがあります。
NOMIの血液検査は?
初期には血液検査で異常をきたさないことも多いので注意が必要です。
典型的には、
- 炎症反応
- CK
- ALP
- LDH
- AST/ALT
- lactate
などが高値を示します。
また、血液ガス検査において、代謝性アシドーシスを示します。
ただし、もともと有する基礎疾患によってもこれらの数値が上がっている可能性も考慮する必要があります。
NOMIをいつ疑うか?
上記基礎疾患があり、上記採血における上昇を認め、
- 原因不明のアシドーシス
- エンドトキシンショック
などを伴う場合に疑います。
※初期には血液検査上異常を認めないことも多い。
※臨床所見や血液生化学検査から腸管虚血が疑われることも少なくない。
NOMIの診断は?
診断のGold standardは血管造影で、腸管膜動脈末梢が攣縮状に狭小化して描出されないことを確認します。
ただし上記のような重篤な基礎疾患を有する人に血管造影検査は侵襲が大きく、また近年のCTの画像描出能の向上により、
最近は、造影CTで代用することもあります。
NOMIの画像所見
報告はたくさんありますが「これが典型」といえるようなものはありません。
CTでは、以下のsmaller SMV signがあればNOMIの可能性があるとされます。
画像診断の主な役割は、腸管虚血を疑われる症例で、SMA閉塞症、絞扼などを除外すること、消化管の状態の把握にあります。
血管造影での所見としては、
- SMA分枝起始部の狭小化.
- SMA分枝血管の不整,
- SMAアーケードの攣縮,
- 腸管壁内血管の造影不良
が診断基準として報告されています2)。
Smaller SMV sign ⇆ NOMI ?
正常ならば、SMV径>>SMA径となりますが、
SMA領域の血流障害
→血流がSMVに帰ってこないのでSMV潰れる
→SMV<SMAとなる。(smaller SMV sign) (動脈壁は厚いから潰れない)
と言う機序で、SMV径の方がSMA径よりも小さくなってしまうことがあり、これをsmaller SMV signと呼びます。
ただし、この所見はNOMIに特異的ではなく、SMA領域の血流障害が起これば生じる可能性があるため、絞扼性腸閉塞や高齢者の場合、脱水でも見られることがあります。
また局所的なNOMIでは見られないので注意が必要です。
しかし、NOMIでは他に診断価値の高い異常所見を認めないため、この徴候の意義は大きいとされます。
症例 90歳代女性 腹痛
広範な小腸壁肥厚、腸間膜脂肪織濃度上昇を認めています。
SMAに明らかな狭窄や血栓などは認めず、Smaller SMV signを認めています。
NOMIと診断されました。
参考 正常のSMAとSMVの径の関係(20歳代男性)
通常は上のようにSMVの径の方がかなり大きいです。
NOMIの治療は?
診断がつけば直ちに
- 補液
を開始すると同時に、
- 塩酸パパベリン30~60mg/時の持続動注、PGE1、抗アンジオテンシン薬
などを考慮します。
ただし、腸管がすでに不可逆な壊死に陥っていることが疑われる場合は、外科的治療が考慮されます。
1)Eur Radiol 12:1179-1187,2002
2)Radiology 112:533-542,1974
いつもお世話になっております。
大変勉強になっております。ありがとうございます。
ひとつ伺いたいのですが、NOMIと虚血性腸炎の違いとはなんでしょうか?
NOMIは造影CT撮影するのですが、虚血性腸炎は単純のみです。
この線引きは何かあるのでしょうか?
お忙しい中恐縮ですが教えて頂けると幸いです。
コメントありがとうございます。
NOMIと虚血性腸炎は腸管虚血という意味では共通していますが、病態が全く異なります。
この辺りは教科書などを読んでください。
NOMIは血管の攣縮やSMAの塞栓を除外するために診断には造影が必要です。
虚血性腸炎は基本的に左半結腸の腸管浮腫を観察しますので単純のみでも診断可能です。