脊柱管狭窄症の原因の1つの病態に、腰椎変性すべり症という病態があり、この腰椎に起こるすべり症には、
- 腰椎変性すべり症
- 腰椎分離すべり症
というものがあります。
今回は、この腰椎変性すべり症・分離すべり症(読み方は「ようついへんけいすべりしょう・ぶんりすべりしょう」)について
- 原因
- 症状
- 診断
- 治療
について、イラストや実際のレントゲン、CT、MRI画像と共に分かりやすく解説致します。
腰椎変性すべり症・分離すべり症とは?
腰椎変性すべり症・分離すべり症の違いを図でまとめると以下のようになります。
それぞれに分けて詳しく見ていきましょう。
腰椎変性すべり症
腰椎の椎体が前方に滑っている状態で、椎弓に分離症がないため、別名「無分離すべり症」ともいわれます。
腰椎がずれたことによって、脊柱管が狭くなり(狭窄)、馬尾や神経根が圧迫されるようになると、神経症状が出現します。
中年以降の女性に多く、部位としてはL4に好発します。
分離すべり症
椎弓の関節突起間部の骨が分離し、椎骨が前方にずれている状態です。
分離部分が不安定になっているために、症状が出現します。
成人発症は通常認めず、子供の病気と言われます。
腰椎L5に多く90%を占め、多くは両側性(80%)と言われています。
腰椎変性すべり症・分離すべり症の原因は?
それぞれ原因が異なりますので、分けてご説明します。
腰椎変性すべり症
- 椎間板の変性
- 椎間関節の変性
が発症要因になります。
この変性が進行する過程で、椎体及び椎弓に前方にずれを起こす力が加わってしまい、腰椎変性すべり症をきたすためです。
中高年の女性に好発するため、ホルモンバランスとの関わりも指摘されています。
分離すべり症
10歳代の少年期に好発します。
この少年期は骨の成熟期でもあり、この時期に取り組むスポーツ(部活やクラブ活動など)によって分離症が起こり、それが進行したことによって分離すべり症になります。
過伸展とねじれが加わり発生すると言われています。
また、疲労骨折して、骨癒合しないままに分離症に進行するケースもあります。
腰椎変性すべり症・分離すべり症の症状は?
それぞれに分けてご説明します。
腰椎変性すべり症
すべり症自体で症状が発生するというより、すべり症によって起こった脊柱管狭窄によって症状が起こります。
- 腰痛
- 下肢の疼痛
- 下肢のしびれ
- 間欠性跛行
- 両下肢の脱力感
- 会陰部のしびれ
- 会陰部の熱感
- 膀胱直腸障害
腰痛から始まり、進行するにつれ以上のような様々な症状を呈するようになります。
分離すべり症
- 腰痛
- 臀部痛
- 大腿後面痛
- 下肢痛
- しびれ
長時間同姿勢(立ったまま・座ったまま・背屈したまま)でいると、痛みが増すことが多くあります。
また、ウィルツらの分類により、状態や原因が分けられます。
ウィルツらの分類
- Ⅰ・・・形成障害性
- Ⅱ・・・峡部性
- Ⅲ・・・変性性
- Ⅳ・・・外傷性
- Ⅴ・・・病的
Ⅰ | 上位仙椎や第5腰椎椎弓の先天異常が原因 |
Ⅱ | 病変が弓間部
|
Ⅲ | 分節間不安定性(長期に存在) |
Ⅳ | 弓間部以外の骨折 |
Ⅴ | 全身性・局所性疾患が原因
(椎弓根・弓間部・関節突起などの骨性制動機能が侵され、上位の椎体が前方に寄ったもの) |
※Ⅴの全身性では、大理石骨病・関節拘縮症・パジェット病・梅毒があります。
腰椎変性すべり症・分離すべり症の診断は?
どちらも画像診断が有用です。
腰椎変性すべり症
X線検査では、腰椎のずれ(すべり変性)が確認できます。
腰椎を前後に曲げた状態で撮影し、椎間板腔が狭くなったり不安定になっているのが分かります。
MRI検査では、神経が圧迫された状態が確認でき、場所や状態を正確に特定できます。
症例 60歳代 女性
腰椎CT及びMRI(T2強調像)の矢状断像において、L4の前方辷りを認めています。
これに伴いL4/5では著明な脊柱管狭窄を認めています。
また、L4/5及びL5/Sには椎間板の変性及び減高を認めています。
横断像では、脊柱管狭窄及び両側の神経孔の著明な狭小化がわかります。
腰椎変性辷り(すべり)症と診断されました。
症例 50歳代 女性
腰椎MRI(T2強調像)の矢状断像において、L4の前方辷りを認めています。
横断像で見ると脊柱管狭窄と両側の神経孔の狭小化を認めています。
またこれには黄色靭帯・椎間関節の肥厚も関与していることがわかります。
腰椎変性辷り(すべり)症と診断されました。
分離すべり症
ケンプ徴候(腰を反り、左右にひねると下肢に放散痛が現れる)を確認することもあります。
また、腰椎変性すべり症同様、X線検査やCT検査、MRI検査によって診断しますが、神経根の圧迫を神経ブロックを行い調べることもあります。
初期の腰椎分離症にはX線検査やCT検査で所見を認めず、MRIのみで検出できることがあります。
症例 20歳代男性
腰椎L5に軽度前方辷り(すべり)を認めています。
また両側のL5の関節突起間部に分離を認めています。
慢性期の腰椎分離症の所見です。
分離すべり症における病期分類
なお分離すべり症における病期分類(経過)は以下の通りです。
分離前期(骨折前)
- MRIで椎弓根や関節突起間部に脂肪抑制画像で高信号
- CTで骨折なし
分離初期(初期分離症)
- MRIで椎弓根や関節突起間部に脂肪抑制画像で高信号
- CTでhairline
進行期
- 明瞭な分離がある。
- 骨硬化像(-)
終末期
- 骨硬化像(+)(偽関節) ← 腰椎分離症
- 神経根性疼痛、分離部疼痛、椎体すべり、楔状椎
腰椎変性すべり症・分離滑り症の治療は?
保存療法もしくは、手術療法が選択されます。
それぞれの治療法を説明します。
腰椎変性すべり症
保存療法では、
- コルセット装着
- 薬物療法
- 体幹・両下肢の筋力をトレーニング
- ストレッチング
- 温熱療法
- 牽引療法
- 硬膜外ブロック
などを行い、症状改善を図ります。
保存療法を行っても改善されなかった場合・歩行制限や立位制限がある場合では、手術が検討されます。
手術では、腰椎除圧固定法が一般的に多く行われていますが、インストゥルメンテーション(椎弓根スクリュー固定)を併用することもあります。
分離滑り症
保存療法では、
- 局所安静
- 硬性コルセット装着
- 分離部修復術
- 薬物療法
- 神経ブロック
などを行います。
再発予防と痛みの管理には、ストレッチが有効とされています。
体が硬いと再発しやすいためです。
腰椎変性すべり症同様、保存療法で改善しない場合(慢性期腰椎分離症)では、手術が検討されます。
手術では、椎体間固定術を行い、インストゥルメーンテーション(金具を用いて、固定する手術)を併用することもあります。
症例 20歳代男性 腰椎分離すべり症 (上と同一症例)
L5の腰椎分離辷り(すべり)症に対して、L5-S1の除圧及び後方固定術が施行されました。
参考文献:整形外科疾患ビジュアルブック P333・334
参考文献:全部見えるスーパービジュアル整形外科疾患 P284〜287
最後に
- 腰椎の椎体が前方に滑っている状態で、椎弓に分離症がないのが腰椎変性すべり症
- 椎弓の関節突起間部の骨が分離し、椎骨が前方にずれている状態が腰椎分離すべり症
- 腰椎変性すべり症は、椎間板の変性や椎間関節の変性が発症要因となる
- 腰椎分離すべり症は、少年期のスポーツや疲労骨折が原因となる
- 腰椎変性すべり症は、脊柱管狭窄によって腰痛などの症状が起こるようになる
- 腰椎分離すべり症は、長時間同姿勢でいると、腰痛などの痛みが増す
- 画像検査が有用
- 保存療法で改善しなければ、手術療法が検討される
早期に治療を開始することで、保存療法で治ることも多いため、痛みを我慢し続けるのではなく、早期受診、早期治療を心がけましょう。