腹部CTを読影していると、腹腔内に細長いチューブ状構造を認めることがあります。
術後ドレーン、VPシャント、腹腔静脈シャント、経皮的ドレナージチューブなど、さまざまな人工物が鑑別に上がりますが、腎不全や腎萎縮が背景にある場合には、腹膜透析カテーテルを考えることが重要です。
今回は、腹部CTで腹腔内チューブを見たときに知っておきたい、腹膜透析カテーテルの画像所見、留置位置、鑑別診断、合併症のチェックポイントについて整理します。
腹膜透析カテーテルとは?

腹膜透析カテーテルとは、腹膜透析を行うために腹腔内へ留置されるカテーテルです。
腹膜透析では、透析液を腹腔内に注入し、腹膜を半透膜として利用して老廃物や余分な水分を除去します。そのため、透析液を腹腔内へ出し入れするための専用カテーテルが必要になります。
代表的なものとしてTenckhoffカテーテルがよく知られています。腹壁から皮下トンネルを通って腹腔内に入り、先端は骨盤深部に向かって留置されます。
腹部CTでは、腹壁から腹腔内へ入り、骨盤底方向へ向かうチューブ状構造として描出されます。
腹膜透析の仕組み

腹膜透析は、血液透析とは異なり、自分の腹膜を利用して透析を行う方法です。
腹腔内に透析液を入れると、血液中の老廃物や余分な水分が腹膜を介して透析液側へ移動します。その後、透析液を排液することで、老廃物や水分を体外へ除去します。
腹膜透析には、主に以下のような方法があります。
- CAPD:連続携行式腹膜透析
- APD:自動腹膜透析
CAPDでは日中に患者さん自身が透析液を交換します。APDでは夜間に機械を用いて自動的に透析液を交換します。
いずれの場合も、透析液をスムーズに注入・排液するためには、カテーテルの先端位置が重要です。
CTでの腹膜透析カテーテルの見え方
CTで腹膜透析カテーテルは、腹壁から腹腔内へ連続する細長い管状構造として認められます。
読影時には、単に「チューブがある」と見るだけでなく、以下を確認することが大切です。
- 皮下トンネルを通って腹腔内へ入っているか
- カテーテル先端が骨盤深部にあるか
- カテーテルが屈曲・折れ曲がりを起こしていないか
- 先端が上腹部や側腹部へ迷入していないか
- 腹水、腹膜肥厚、腹膜炎所見がないか
- 腹壁や鼠径部への液漏れ、ヘルニアがないか
腹膜透析カテーテルは、術後ドレーンと違って、比較的長く皮下を走行し、腹腔内では骨盤底方向へ向かって留置されることが多いです。
腹膜透析カテーテルの先端はどこにある?
腹膜透析カテーテルの先端は、透析液の排液効率を考えて、腹腔内でも重力的に低い位置である骨盤深部に置かれます。
女性では直腸子宮窩、男性では膀胱直腸窩に相当する部位が深い骨盤腔になります。日常臨床では、これらをまとめて「ダグラス窩付近」と表現されることもありますが、厳密にはダグラス窩は女性の直腸子宮窩を指します。
CTで腹膜透析カテーテルを見たときは、カテーテル先端が骨盤底方向に向かっているかを確認します。先端が骨盤深部から外れて上腹部や側腹部に迷入している場合、注排液不良の原因になることがあります。
症例 60歳代男性 腎不全

腹腔外(非提示)と連続するチューブを認め、先端は直腸膀胱窩(ダグラス窩)に存在します。
腹膜透析カテーテルであることがわかります。
腹腔内チューブを見たときの鑑別診断
腹部CTで腹腔内にチューブを認めた場合、腹膜透析カテーテル以外にも複数の鑑別があります。
1. 術後ドレーン
腹部手術後に留置されるドレーンです。術後早期であれば、手術部位近傍、吻合部周囲、膿瘍腔、肝下面、骨盤腔などにチューブ先端を認めることがあります。
腹膜透析カテーテルと比べると、留置目的が術後排液であり、腹壁近くや手術部位周囲に配置されていることが多いです。
2. VPシャント
脳室腹腔シャントでは、脳室から皮下を通って腹腔内へチューブが挿入されます。腹腔側のチューブは腹腔内にループ状に見えることがあります。
頭頸部から胸腹部皮下を通る連続性が確認できれば、VPシャントを考えやすくなります。
3. 腹腔静脈シャント
難治性腹水に対して留置される腹腔静脈シャントでは、腹腔内の腹水を静脈系へ還流させます。デンバーシャントなどが知られています。
難治性腹水の背景や、腹腔内から静脈系へ向かうチューブ走行を確認することが鑑別のポイントです。
4. 経皮的ドレナージチューブ
膿瘍や胆汁漏、膵液漏、血腫などに対して留置されるドレナージチューブです。チューブ先端は病変部や液体貯留部に位置します。
周囲に膿瘍腔や液体貯留を伴う場合は、経皮的ドレナージチューブを考えます。
5. 腹膜透析カテーテル
腎不全、腎萎縮、腎摘後、透析歴などの背景がある場合には、腹膜透析カテーテルを考えます。
カテーテル先端が骨盤深部にあり、腹壁から皮下トンネルを通って腹腔内へ入る走行を確認できれば、腹膜透析カテーテルと判断しやすくなります。
腹膜透析カテーテルで確認すべき合併症
腹膜透析カテーテルを認めた場合は、カテーテルの存在だけでなく、合併症の有無も確認します。
1. カテーテル位置異常・迷入
カテーテル先端が骨盤深部にない場合、注排液不良の原因になることがあります。上腹部、側腹部、腸管間、網嚢内などへ先端が移動していないか確認します。
2. カテーテル屈曲・閉塞
カテーテルの折れ曲がり、強い屈曲、先端の圧排、腸管や大網による巻き込みなどにより、注液・排液が不良になることがあります。
CTでは、カテーテルの連続性、急峻な屈曲、先端周囲の位置関係を確認します。
3. 腹膜炎
腹膜透析患者では、腹膜炎は重要な合併症です。
CTでは、腹水、腹膜肥厚、腹膜造影効果、腸間膜脂肪織濃度上昇、限局性液体貯留などを確認します。ただし、腹膜炎の診断は画像だけでなく、腹痛、発熱、透析排液混濁、腹水中白血球数、培養結果などの臨床情報が重要です。
4. 腹壁・鼠径部への透析液漏れ
腹膜透析では腹腔内圧が上昇するため、腹壁や鼠径部、陰嚢などへ透析液が漏れることがあります。
CTでは、腹壁皮下や鼠径管、陰嚢周囲の液体貯留を確認します。CT腹膜造影が行われると、漏出経路を確認しやすいことがあります。
5. ヘルニア
腹膜透析では腹腔内圧上昇により、鼠径ヘルニア、臍ヘルニア、腹壁瘢痕ヘルニアなどが問題になることがあります。
CTでは、ヘルニア門、脱出内容、嵌頓や腸閉塞の有無を確認します。
6. 被嚢性腹膜硬化症
長期腹膜透析では、まれですが被嚢性腹膜硬化症が問題になります。
CTでは、腹膜肥厚、腹膜石灰化、腸管の集簇、被膜様構造、腸閉塞所見などを確認します。長期腹膜透析歴がある場合には、重要な鑑別になります。
SMAP法とは?
SMAP法は、Stepwise initiation of PD using Moncrief and Popovich’s technique の略で、腹膜透析を計画的に導入するための方法です。
一般的には、まず腹膜透析カテーテルを体内に埋め込んでおき、実際に腹膜透析を開始するタイミングでカテーテルを外部へ出す、という二段階の流れになります。
この方法では、カテーテル挿入から透析開始までの期間を確保できるため、創部の治癒や計画的導入に有利とされます。
CTで腹膜透析カテーテルを認める患者さんでは、通常の挿入だけでなく、過去にSMAP法でカテーテルが埋め込まれていた可能性もあります。病歴や手術歴とあわせて確認することが重要です。
出典
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