先に結論:辺縁系脳炎とは・考える原因
- 辺縁系は、記憶や感情にかかわる海馬・扁桃体・帯状回・島回などのまとまりで、ここに起こる脳炎が辺縁系脳炎です。症状は新しいことを覚えられない(記憶障害)、性格・行動の変化、けいれん、意識障害などです
- 原因:①ヘルペス性(単純ヘルペスウイルスが最も重要、ほかにHHV-6・水痘帯状疱疹ウイルス)、②非ヘルペス性:自己免疫性脳炎(抗NMDA受容体抗体脳炎、抗LGI1抗体脳炎など)、がんに伴う傍腫瘍性(肺小細胞がん、卵巣奇形腫、胸腺腫など)、膠原病、他のウイルスなど
- MRIではFLAIR・T2強調像で側頭葉内側(海馬・扁桃体)が白く腫れるのが典型です。単純ヘルペス脳炎は命にかかわるため、疑ったら検査結果を待たずに抗ウイルス薬(アシクロビル)を始めます
- 診断は、MRI(拡散強調像を含む)・髄液検査(ウイルスのPCRや抗体)・脳波を組み合わせます。自己免疫性脳炎ではMRIが正常のこともあるため、MRIだけで否定しません
- ヘルペス脳炎の治療後にいったん良くなってから再び悪くなったときは、ウイルスの再燃だけでなく自己免疫性脳炎(抗NMDA受容体抗体脳炎など)の合併を考えます。免疫抑制下での新しい症状では、ヘルペス以外の感染症(進行性多巣性白質脳症など)も鑑別に挙がります
※急な記憶障害・異常な行動・けいれん・発熱があるときは、すぐに救急受診してください。
大脳辺縁系とは
- 発生学的に古い皮質とこれらの皮質と線維結合をもつ皮質下核からなる機能的単位のこと。
- 皮質には、海馬体、帯状回、海馬傍回など、皮質下核には扁桃体や中隔野などが含まれる。
- 定まった定義はなく、人によっては側頭葉の一部や、島皮質も大脳辺縁系に含めることがある。

辺縁系脳炎
- 辺縁系脳炎とは、海馬、扁桃体、島回、前帯状回からなる辺縁系を中心におこる感染や炎症。
- 症状としては、近時記憶障害(海馬障害)、情動異常(扁桃体障害)、行動異常などが出現する。2016年の自己免疫性脳炎の診断基準(Graus)では、FLAIRで両側の側頭葉内側に限局する異常信号が確実例の要件の一つとされ、片側病変のみでは特異抗体が確認されない限り確実例としません。単純ヘルペス脳炎は辺縁系にとどまらず広がりやすく、出血、拡散制限、造影効果を伴うことが多い点が鑑別の手がかりです。
- 一般的には単純ヘルペスウイルス、HHV-6、VZVによることが多く、これらのヘルペスウイルスが原因でないものを、非ヘルペス性辺縁系脳炎と呼び、他の感染や傍腫瘍性、膠原病性などで生じる。
辺縁系脳炎の種類(鑑別に挙げるもの)
①ヘルペス性急性辺縁系脳炎(herpetic limbic encephalitis)
- 単純ヘルペスウイルス-1,2
- ヒトヘルペスウイルス6(HHV-6):骨髄移植後の再活性化による。
- 水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)
②非ヘルペス性急性辺縁系脳炎(non-herpetic limbic encephalitis)
a)自己免疫介在性:
- 傍腫瘍性辺縁系脳炎(肺小細胞癌、神経芽細胞腫、精巣腫瘍、胸腺腫、乳癌、Hodgkinリンパ腫など)
- 傍感染性辺縁系脳炎(梅毒など)
- 抗NMDA受容体抗体脳炎など。抗NMDA受容体抗体脳炎577例の多施設研究では、年齢中央値21歳(577例中211例が18歳未満)と若年に多く、第一選択の免疫療法または腫瘍切除を受けた例の53%が4週以内に改善した。
1.細胞内抗原:Hu,Yo,Ri,Ta/Ma2,ANNA-3,CRMP5/CV2
2.細胞表面抗原:NMDA,LGI1・CASPR2(この2つが従来のVGKC複合体抗体),GABA-b,AMPA,Glycine,mGluR1,VGCC
b)自己免疫疾患関連:
- 橋本脳症(SREAT:自己免疫性甲状腺炎に伴うステロイド反応性脳症。MRIは正常または非特異的)
- SLE
- Sjogren症候群 など
c)他のウイルス:
- エンテロウイルスなど
辺縁系脳炎のMRI所見と鑑別のポイント
典型像はFLAIR・T2強調像で両側の側頭葉内側(海馬・扁桃体)が高信号に腫れる所見ですが、原因で広がり方が異なり、MRIがほぼ正常のこともあります。
| 原因 | MRIの特徴 | 手がかり |
| 単純ヘルペス脳炎 | 辺縁系にとどまらず広がりやすく、出血・拡散制限・造影効果を伴うことが多い(Graus 2016) | 発熱・急な発症 |
| HHV-6脳炎 | 免疫不全の7例中、初回MRIの異常は2例のみ(Berzero 2021) | 造血幹細胞移植後など |
| 自己免疫性辺縁系脳炎(抗LGI1抗体など) | 両側の側頭葉内側のFLAIR高信号が典型。片側のみや正常のこともある(Graus 2016) | 亜急性の記憶障害・けいれん |
| 抗NMDA受容体抗体脳炎 | FLAIR/T2の異常は100例中55例(側頭葉内側22例など)(Dalmau 2008) | 若い女性に多く、98例中58例に腫瘍(多くは卵巣奇形腫)(Dalmau 2008) |
辺縁系脳炎の検査・診断の流れ
- MRI:拡散強調像も撮像し、他の病気を除外する(Graus 2016)。
- 髄液検査:ヘルペスウイルスのPCRと神経抗体を調べる。抗LGI1抗体脳炎の59%は細胞増多がなく、髄液が正常でも否定できない(Graus 2016)。
ヘルペス脳炎の治療後に再び悪化したら(自己免疫性脳炎の合併)
単純ヘルペス脳炎の治療後に、いったん落ち着いた症状が再び悪くなることがあります。原因はウイルスの再燃とは限りません。スペインの前向き研究では、単純ヘルペス脳炎51例のうち14例(27%)が経過中に自己免疫性脳炎を発症し、14例全例で神経抗体が陽性でした(NMDA受容体抗体が9例)。ヘルペス脳炎の発症から3週間以内に抗体が検出されたことが、その後の自己免疫性脳炎の危険因子でした(オッズ比11.5)(Armangue 2018)。
- 時期:多くはヘルペス脳炎の治療後2か月以内に現れました(Armangue 2018)
- 症状は年齢で異なる:4歳より年上では精神病症状が多く(58%)、4歳以下ではすべての例で舞踏アテトーゼ(不随意運動)がみられ、意識障害の頻度も高く、1年後の経過も不良でした(Armangue 2018)
- 治療が異なる:自己免疫性脳炎は免疫療法に反応しうるため、早い診断が重要です。再悪化したときは、髄液のウイルス検査(再燃の確認)と神経抗体の測定をあわせて行います。特に4歳より年上の患者は免疫療法に反応しうるとされています(Armangue 2018)
免疫抑制下で疑う中枢神経の感染症(PMLを中心に)
免疫抑制薬や分子標的薬を使っている人、HIV感染症、血液疾患などで免疫が低下している人に、亜急性の認知機能低下・片まひ・言語障害・視覚障害が出たときは、辺縁系脳炎だけでなく進行性多巣性白質脳症(PML)を考えます。PMLは、多くの人が潜伏感染しているJCウイルスが再活性化して白質に起こる病気です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 薬剤との関係 | ナタリズマブ(多発性硬化症)、リツキシマブ(リンパ腫・膠原病)など、モノクローナル抗体薬で報告があります。PMLの警告が付いた薬は複数あり、確実に有効とされた治療はありません(Sharma 2022) |
| MRIの特徴 | HIV関連・リツキシマブ関連・ナタリズマブ関連のいずれも大脳白質のU-fiberに及び、T2*強調像で低信号を伴います。ナタリズマブ関連では点状の微小嚢胞様の所見、皮質への進展、造影効果がみられ、HIV・リツキシマブ関連では造影効果は軽度でした(Alleg 2021) |
| 診断 | 臨床像と画像所見が合い、他の病気で説明できず、髄液のJCウイルスPCRが陽性であれば診断可能とされています。確定診断には病理でJCウイルスを示す必要があります(Berger 2013) |
辺縁系脳炎との違いは、PMLが主に白質の病気で、側頭葉内側に限局する炎症ではない点です。MRIで白質の広い異常をみたら、使用中の薬と免疫状態を確認するよう臨床側に伝えることが役立ちます。
辺縁系脳炎でよくある疑問(Q&A)
Q. 辺縁系脳炎は治りますか?
A. 原因によって異なります。抗NMDA受容体抗体脳炎では、24か月時点で252例中203例(81%)が日常生活を自立して送れる程度(mRS 0-2)まで回復し、早い治療開始が良い経過と関係していました(Titulaer 2013)。
Q. ヘルペス脳炎の治療後に悪くなったら、ウイルスが再燃したのですか?
A. 再燃もありますが、自己免疫性脳炎の合併も多く、単純ヘルペス脳炎の27%で認められました。発症の多くは治療後2か月以内で、免疫療法に反応しうるため、髄液のウイルス検査と神経抗体を調べます(Armangue 2018)。
Q. 免疫抑制薬を使っていて意識や視力に異常が出たときは何を疑いますか?
A. 薬剤関連のPMLなど、免疫低下に伴う感染症を考えます。MRIで白質のU-fiberに及ぶ病変がないかを確認し、髄液のJCウイルスPCRで診断を進めます(Alleg 2021, Berger 2013)。症状が出たときは自己判断せず、早めに主治医へ連絡してください。
参考文献
- Graus F, Titulaer MJ, Balu R, et al. A clinical approach to diagnosis of autoimmune encephalitis. Lancet Neurol. 2016;15(4):391-404. PubMed
- Graus F, Vogrig A, Muñiz-Castrillo S, et al. Updated Diagnostic Criteria for Paraneoplastic Neurologic Syndromes. Neurol Neuroimmunol Neuroinflamm. 2021;8(4):e1014. PubMed
- Dalmau J, Graus F. Antibody-Mediated Encephalitis. N Engl J Med. 2018;378(9):840-851. PubMed
- Kelley BP, Patel SC, Marin HL, et al. Autoimmune Encephalitis: Pathophysiology and Imaging Review of an Overlooked Diagnosis. AJNR Am J Neuroradiol. 2017;38(6):1070-1078. PubMed
- Titulaer MJ, McCracken L, Gabilondo I, et al. Treatment and prognostic factors for long-term outcome in patients with anti-NMDA receptor encephalitis: an observational cohort study. Lancet Neurol. 2013;12(2):157-65. PubMed
- Dalmau J, Gleichman AJ, Hughes EG, et al. Anti-NMDA-receptor encephalitis: case series and analysis of the effects of antibodies. Lancet Neurol. 2008;7(12):1091-8. PubMed
- Berzero G, Campanini G, Vegezzi E, et al. Human Herpesvirus 6 Encephalitis in Immunocompetent and Immunocompromised Hosts. Neurol Neuroimmunol Neuroinflamm. 2021;8(2):e942. PubMed
- Armangue T, Spatola M, Vlagea A, et al. Frequency, symptoms, risk factors, and outcomes of autoimmune encephalitis after herpes simplex encephalitis: a prospective observational study and retrospective analysis. Lancet Neurol. 2018;17(9):760-772. PubMed
- Alleg M, Solis M, Baloglu S, et al. Progressive multifocal leukoencephalopathy: MRI findings in HIV-infected patients are closer to rituximab- than natalizumab-associated PML. Eur Radiol. 2021;31(5):2944-2955. PubMed
- Berger JR, Aksamit AJ, Clifford DB, et al. PML diagnostic criteria: consensus statement from the AAN Neuroinfectious Disease Section. Neurology. 2013;80(15):1430-8. PubMed
- Sharma K, Tolaymat S, Yu H, et al. Progressive multifocal leukoencephalopathy in anti-CD20 and other monoclonal antibody (mAb) therapies used in multiple sclerosis: A review. J Neurol Sci. 2022;443:120459. PubMed
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