通常左右に1つずつある腎臓(じんぞう)ですが、外傷により損傷を受けることがあります。
これを腎損傷(じんそんしょう)と言います。
尿を生成する腎臓ですが、損傷を受けると腎臓の機能に異常を起こすことがあるのでしょうか?
また、症状はどのようなものがあるのでしょうか?
そこで今回は腎損傷(英語でkidney injury)について、
- 腎損傷とはそもそも何か?
- 腎損傷の分類
- 腎損傷の画像所見
- 腎損傷の治療
などについて図(イラスト)や実際のCT画像を用いてわかりやすくまとめました。
腎損傷とは?
胸腹部や腰部の外傷によって、腎臓が損傷を受けることを腎損傷と言います。
腎損傷は腹部外傷の8-10%に見られ、その80-90%が鈍的外傷であると報告されています1)。
腎臓は、周囲を下位肋骨や腰背部の筋肉に囲まれている後腹膜臓器であり、さらにGerota筋膜などに覆われているため、脾損傷や肝損傷と比べると損傷を受ける頻度が低いとされています。
腎損傷の分類は?
日本外傷学会の腎損傷分類2008によると腎損傷はⅠ型からⅢ型と3つのグレードに分けられます。
- Ⅰ型 被膜下損傷(Ⅰa型:被膜下血腫、Ⅰb型:実質内血腫)
- Ⅱ型 表在性損傷
- Ⅲ型 深在性損傷(Ⅲa型:単純深在性損傷、Ⅲb型:複雑深在性損傷)
この分類は細かくは異なりますが、肝損傷、脾損傷と基本的には同じです。
それぞれの分類を見ていく前に、腎臓の解剖をチェックしておきましょう。
右の腎臓を前から見た図と考えてください。
腎臓は腎被膜に覆われ、さらにその外側をGerota筋膜(ゲロータきんまく)が覆います。
また腎門部には前から腎静脈→腎動脈→尿管という順番で血管及び尿路が位置しています。
また右の図のように腎臓は3等分して、上から上部、中部、下部と3つの部位に分けられます。
これを踏まえて、腎損傷のそれぞれの分類がどういう状態なのかを図(イラスト)とともにみて行きましょう。
Ⅰ型 被膜下損傷
被膜下損傷は、腎被膜が保たれており、腎臓の実質中で出血を起こしている状態です。
さらに、
- 被膜の下に血腫があるのがⅠa型:被膜下血腫
- 被膜から離れた肝実質内に血腫があるのがⅠb型:実質内血腫
と分けられます。
Ⅱ型 表在性損傷
表在性損傷では、腎被膜にも損傷を認め、腎臓の実質にも損傷が及びます。
中でも実質の損傷が皮質に留まる場合(より深い髄質までは損傷を受けていない状態)です。
腎被膜が損傷を受け、被膜外に出血をするとGerota筋膜の間に血腫を形成することになります。
Ⅲ型 深在性損傷
最も重症なのがこのⅢ型です。
Ⅱ型と同じように 腎被膜にも損傷を認め、腎実質にも損傷が及びますが、より深くおおよそ髄質にまで(腎臓の実質の1/2以上の深さ)損傷が及ぶ場合です。
さらに、腎臓の離断や粉砕を伴う場合を、Ⅲ型の中でもⅢb型と分類します。
そのほか、腎茎部の血管損傷(pedicle vessel)はPVと表記し、
- Gerota筋膜内に留まる血腫→H1
- Gerota筋膜内に留まらない血腫→H2
- Gerota筋膜内に留まる尿漏→U1
- Gerota筋膜内に留まらない尿漏→U2
と表記します2)。
腎損傷の症状は?
腎損傷では
- 肉眼的血尿
- 背部痛
- 背部の叩打痛
などの症状が起こることがあります。
ただし、肉眼的血尿は必発ではなく、約10%の腎損傷では見られず、かつ血尿の量と重症度には相関はない3)と言われています。
腎損傷のみを伴うこともありますが、
- 肋骨骨折
- 腰椎横突起骨折
などが同時に存在することがあり、逆にこれらの所見を見たら腎損傷はないかをチェックすることも重要です。
腎損傷のCT画像所見は?
損傷を受けた腎は造影CTで通常、境界不明瞭な低吸収域として描出されます。
治療方針に影響を与える活動性出血の有無を評価するために腎ダイナミックCTの撮影が重要です。
早期相で造影剤の漏出像(extravasation)、仮性動脈瘤(pseudoaneurysm)、動静脈瘻の有無をチェックします。
症例 30歳代男性 スケボーで転倒
腹部単純CTの横断像(輪切り)です。
左腎臓の周囲に高吸収(白い)な血腫を疑う所見を認めています。
その外側には脂肪を挟みその外側に正常なGerota筋膜を認めています。
腹部単純CTの冠状断像(前から見た画像と思ってください)です。
左腎臓の上極に腎臓の形に沿った血腫を疑う高吸収域を認めています。
造影剤を用いた造影CTの冠状断像です。
腎臓の染まりに比べるとやや低吸収です。
左腎臓の被膜下損傷及び出血を疑う所見であり、被膜下損傷Ia型と診断されました。
保存的加療されました。
症例 40歳代男性 落下
腹部単純CTの横断像(輪切り)です。
先程と同じように左腎臓の周囲に高吸収(白い)な血腫を疑う所見を認めています。
造影剤を用いた造影CTの横断像では、腎臓に造影不良域を認めており、腎臓の実質に損傷があることがわかります。
表在性損傷Ⅱ型の腎損傷と診断され、保存的に加療されました。
腎損傷の治療は?
治療は、
- 保存的治療
- 血管内治療(動脈塞栓術(TAE))
- 外科手術
が行われます3)。
保存的治療
腎損傷分類2008のⅠ型、Ⅱ型は循環動態が安定しており、活動性出血がない場合には、基本的に保存的に加療されます。
ただし、Ⅱ型の一部では、血管内治療(動脈塞栓術(TAE))が行われることもあります。
血管内治療(動脈塞栓術(TAE))
Ⅱ型の一部やⅢa型で行われることがあります。
Ⅲa型はこれに加えて経皮的な血腫のドレナージ術を行うことがあります。
外科手術
Ⅲb型やPV(腎茎部の血管損傷(pedicle vessel))では、緊急手術を行います。
PVの場合は、時に血行再建術を行います。
最後に
腎損傷についてまとめました。
- 腎損傷を理解するにはまずは分類を理解する
- その際に腎臓の被膜の損傷の有無に着目することが重要
- 診断は通常CT検査で行う。可能ならば単純CTとダイナミックCTを撮影する
- 治療は保存的治療、血管内治療(動脈塞栓術)、外科的治療の3つがある
という点がポイントです。
参考になれば幸いです( ^ω^ )
参考文献/サイト
1)Adult and pediatric urology,3rd ed.Mosby,St Louis.P539-553,1996
2)日本外傷学会臓器損傷分類2008
3)ICU実践ハンドブックP561-562