胸部レントゲン検査や胸部CT検査を受けた後、検査結果に

「右肺尖部(はいせんぶ)の胸膜が肥厚しています」

「左肺尖部の胸膜が肥厚しています」

「両側の肺尖部の胸膜が肥厚しています」

「肺尖部の胸膜癒着が疑われます」

などと記載されることがあります。

しかし、特に問題はなさそう。だけど本当に大丈夫?と不安になられる方もおられるかもしれません。

そこで今回は、肺尖部(はいせんぶ)の胸膜肥厚・癒着について、どう言ったことが起こっているのか、本当に大丈夫なのかについてまとめたいと思います。

肺尖部の胸膜肥厚・癒着(肺尖帽:apical cap)とは?

まず肺のレントゲンは下のように、上から

  • 肺尖部(はいせんぶ)
  • 上肺野(じょうはいや)
  • 中肺野(ちゅうはいや)
  • 下肺野(かはいや)

と分けられます。

肺尖部とは、上の写真にあるように、レントゲンの肺が写っている部分のうち一番上の部分です。
黒く見えるところが肺実質ですね。

この肺尖部の中でも上側に胸膜が肥厚して、本来の肺が見えにくくなることがあり、これを肺尖部の胸膜肥厚と言います。
第2後肋骨の直下に形成されます。

英語ではapical cap(アピカル キャップ)と呼ばれます。

  • apical とは尖部であり、肺尖部のこと
  • cap とはキャップ、つまり帽子のこと

です。つまり、肺尖部が帽子をかぶっている(ようだ)ということですね。

実際のレントゲン画像は次のようです。

両側の肺尖部の胸膜が軽度肥厚しているのがわかります。
少しギザギザしていますよね。

 

別の方の胸部レントゲンですが、こちらも両側の肺尖部に胸膜肥厚を認めています。

特に右側(向かって左側)で少し目立ちます。

右側を拡大したものが下の図に当たります。

帽子をかぶっているようにも見えるでしょ?

これをCTで見るとこのように見えます。

横断像を動画で見てみるとこのような感じです。

なぜ肺尖部の胸膜が肥厚する?原因は?癒着?

 

肺尖部の胸膜が肥厚したり、癒着する原因として、

  • 慢性的な虚血
  • 繰り返す感染

が考えられています。

特に昔に結核性などの胸膜炎や膿胸を起こした人に見られやすいとされています。

これらが原因となり、肺尖部で胸膜や胸膜直下の肺組織に非特異的な線維化が起こることにより肥厚すると言われています。

 

肺尖部の胸膜肥厚は正常?基準は?

この肺尖部の胸膜肥厚は、よく見られる変化であり、45歳以上の16%で見られるとも言われています。(Radiology 110:569-573,1974)。

多くの場合は両側に認められ、基本的には問題になりません

胸部レントゲン像では、正常範囲ならば肺尖部の胸膜肥厚は5mmを超えることはないとされています。

そして5mmを超える場合は、

  • 肺がんが浸潤している(パンコースト腫瘍)
  • 結核などによる胸膜炎
  • 胸膜腫瘍(悪性リンパ腫、悪性中皮腫や転移など)
  • 外傷後胸膜下出血
  • 放射線治療後
  • 血管異常
  • PPFE(pleuro parenchymal fibroelastosis)

などを考えなければなりません。

特に、左右対称ではなく、片方のみに胸膜肥厚が認められる場合は注意が必要です。

以前のレントゲン写真と比較することが重要です。

このほかに、また、健診目的のレントゲン撮影では関係のない話ですが、外傷により大動脈が損傷した場合に、左肺尖部のapical capが見られることがあります。

 

参考)外傷性大動脈損傷の胸部レントゲン所見

  • 上縦隔陰影の幅の増大
  • 大動脈弓の不明瞭化
  • 下行大動脈の不明瞭化
  • 食道及び経鼻胃管の右側偏位
  • 気管の右側偏位
  • 左肺尖部のapical cap ←
  • 左主気管支の下方への偏位
  • 大動脈と肺動脈との間のclear spaceの消失
  • 左傍脊柱線の消失

肺尖部の胸膜肥厚が病的であった症例を見てみましょう。

症例 60歳代 男性


胸部レントゲン写真です。

先ほどと異なり右側(向かって左側)のみの肺尖部の肥厚を認めています。

またその厚さも明らかに5mmを超えています。

胸部CT検査で精査が行われました。

CTでは右側だけ肥厚している様子がより明瞭にわかります。

生理的な両側の胸膜肥厚とは明らかに異なります。

生検の結果、肺癌(扁平上皮癌、胸膜への浸潤あり)と診断されました。

このような片側のみの肥厚、5mmを超える肥厚には注意が必要です。

肺尖部の胸膜肥厚を指摘されたらどうすればいい?

では、肺尖部の胸膜肥厚を指摘されたらどうすればいいのでしょうか?

多くは両側性であり、また5mmを超えない場合は、特に病的な意義はなく経過を観察すれば十分とされます。

非常に良くある所見であり、特に病的な意義がない場合は、医師によっては指摘さえしないこともあります。(胃の小さな良性ポリープをいちいち指摘しないことがあるのと同じです。)

また、肺尖部の胸膜肥厚・胸膜癒着は、

  • 肺尖部に陳旧性炎症性瘢痕があります。
  • 肺尖部にscarがあります。

などと書かれることもあります。

最後に

主に肺尖部で指摘されることがある胸膜肥厚についてまとめました。

多くは左右対称の5mm以下で認められ、通常異常ではないものです。

基本的にこの胸膜肥厚・癒着は消失するものではない(急性期病変は除く)ので、一度見られたら翌年も見られます。

胸膜の肥厚を認めた場合は、過去の画像と比較をすることが大事です。

もし、過去の画像と比較して増大している場合は指摘され、CTなどの精査が必要になることが稀にあります。

しかし、ほとんどは変化ないため、指摘されないこともあるということです。

参考)臨床画像vol.29,No9,2013 P1041-1042

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