胃・十二指腸潰瘍
- 胃・十二指腸粘膜に生じて、粘膜筋板を越えて深く組織が欠損した状態。
- 胃の良性陥凹性病変で最多。癌との鑑別が重要。
- 潰瘍よりも浅い状態をびらんという。
- 胃潰瘍は幽門線領域と胃底線領域との境界に好発する。
- 加齢により胃粘膜は萎縮をきたし、その境界が口側に移動する。そのため加齢により潰瘍の好発部位も口側に移動する。
- 胃潰瘍は小彎側>>後壁、前壁>大彎に発生する。大彎の潰瘍性病変では癌を考慮。
- 症状は、心窩部痛、腹部膨満感、悪心、嘔吐、胸焼け、食欲不振など。突然の吐血(コーヒー残渣様)、下血(タール便)、貧血やショックをきたすことがある。
- H.pylori感染とNSAIDsの内服が主な原因。
- 検査は内視鏡検査で辺縁平滑な潰瘍性病変を確認するか、上部消化管造影で、ニッシェ(niche)やひだの集中像を確認することによる。
胃潰瘍 | 十二指腸潰瘍 | |
好発年齢 | 40-60歳代 | 20-40歳代 |
男女比 | 1:1 | 3:1 |
心窩部痛 | 食後 | 空腹時 |
胃粘膜萎縮 | あり | なし〜あり |
胃酸分泌 | 低下 | 上昇 |
好発部位 | 胃角部小彎側 | 球部前壁 |
胃潰瘍の分類
- Ul Ⅰ:欠損が粘膜層内に止まる。粘膜筋板に及ばないもの。びらん。
- Ul Ⅱ:粘膜筋板が断裂し、欠損が粘膜下層に及ぶもの。これ以上が潰瘍。
- Ul Ⅲ:欠損が固有筋層まで及ぶ。
- Ul Ⅳ:固有筋層を断裂するもの。
胃・十二指腸潰瘍の透視所見
- 上部消化管造影で、組織欠損部に造影剤が貯留する。これをニッシェ(niche)という。
- 潰瘍は正面像(en-face niche)および側面像(profile niche)で観察をする。
- 鄒壁の集中像、小彎短縮および反対側の陥入などの二次的な胃の変形を認める。
- 活動期では潰瘍の辺縁が浮腫状に隆起する。圧迫像ではニッシェの周りに帯状の透亮像を認める。これをHampton’s lineと呼ぶ。
- 治癒過程で潰瘍は縮小し、ニッシェは消失、粘膜鄒壁の集中像が見られるようになる。
- 線状潰瘍(linear ulcer)は小彎に直行して走行する。通常3mm以上の長さのものをいう。長いほど潰瘍の発生からの経過が古い。胃の小彎が著しく短縮して嚢状胃となる。
- 接吻潰瘍(kissing ulcer)は胃長軸に対称的な部位に生じる2個の潰瘍のこと。
胃・十二指腸潰瘍のCT画像所見
CTでは潰瘍そのものを示唆する直接所見と間接所見に分けられます。
直接所見
- 粘膜の途絶:造影CTで高吸収を示す粘膜に途絶を認める。
- 嚢状の壁欠損:潰瘍のクレーターを示す所見
間接所見
- 粘膜下層の肥厚(低吸収部分の肥厚):浮腫を見ている。潰瘍だけでなく、胃炎や十二指腸炎などでも生じる。比較的わかりやすい所見であるため、発見の第一歩となることが多い。
- 粘膜の造影効果増強:粘膜部分の充血を見ている。こちらも潰瘍だけでなく、胃炎や十二指腸炎などでも見られる。
- ひだの肥厚
- 周囲脂肪織濃度上昇
- リンパ節腫大:反応性に周囲にリンパ節が腫大することがある。
症例 60歳代男性
胃体下部から前庭部にかけて著明な粘膜下層の肥厚を認めています(間接所見)。
また後壁には粘膜の途絶および嚢状の壁欠損を認めており、胃潰瘍を示唆する所見(直接所見)です。
参考文献:画像診断 Vol.41 No.4 増刊号 2021 P138-139