先に結論:前頭側頭葉変性症(FTLD)
- 前頭側頭葉変性症は前頭葉・側頭葉が萎縮する認知症で、65歳未満の若年発症が多く、初期は記憶よりも人格・行動の変化や言葉の障害が目立ちます
- 臨床的に行動障害型前頭側頭型認知症(bvFTD)・意味性認知症(SD)・進行性非流暢性失語(PNFA)に分けられます
- MRIでは前頭葉・側頭葉前部のナイフの刃状の強い萎縮(左右差が多い)、SDでは左側頭極、PNFAでは左Sylvius裂周囲の萎縮が特徴です
- FTLDは病理(脳の変性)にもとづく疾患群の総称、FTD(前頭側頭型認知症)はその臨床症状の呼び名で、ほぼ同じ病気の群を別の側面から呼んだものです
- CTでも前頭葉・側頭葉前部の萎縮は分かりますが、側頭極の細かい萎縮や左右差の評価はMRIの冠状断が向いています
- アルツハイマー病との見分けは、FTLDで前頭葉・側頭葉前部、ADで頭頂側頭連合野・後部帯状回・楔前部の血流低下が目立つかどうかを手がかりにします(ただし早期は画像だけでは難しいことがあります)
前頭側頭葉変性症(FTLD:frontotemporal lobar degeneration)とは?

- frontotemporal lobar degeneration:FTLD。
- エピソード記憶障害のない認知症。行動異常など。
- 前頭葉・側頭葉の葉性萎縮を示す非アルツハイマー病性変性疾患。
- アルツハイマー病に比べて、若年で発症することが多い。
- Pick病、前頭側頭型認知症を包括する概念。
- 多くは初老期に発症する。
以下の3つの臨床症候群がある(現在の国際診断基準では、行動障害型前頭側頭型認知症(bvFTD)、意味型原発性進行性失語(svPPA)、非流暢/失文法型原発性進行性失語(nfvPPA)と呼ぶ)。
- 前頭側頭型認知症型(FTD:fronto-temporal dementia)、
- 意味性認知症型(SD:semantic dementia)
- 進行性非流暢性失語型(PNA:progressive non-fluent aphasia)
※このようにFTLDの中にFTDは含まれる。
前頭側頭葉変性症(FTLD)と前頭側頭型認知症(FTD)の違い
FTDは行動・遂行機能・言語の進行性の障害を示す神経変性疾患群をまとめた臨床用語で、とくに65歳未満の認知症ではよくみられるタイプです(Bang 2015)。
| 前頭側頭葉変性症(FTLD) | 前頭側頭型認知症(FTD) | |
|---|---|---|
| 何を指す言葉か | 前頭葉・側頭葉の神経細胞が脱落する病理・疾患群の総称 | FTLDでみられる臨床症候群(認知症としての呼び名) |
| 分け方 | たまる異常タンパク(タウ・TDP-43・FUS)で分類 | 症状で分類(行動障害型・意味型・非流暢型) |
行動障害型FTDは3つの病理(タウ・TDP-43・FUS)のどれでも起こりうるため、症状だけで背景の病理を言い当てるのは難しいとされます(Whitwell 2012)。
- アルツハイマー病の治療に使われるアセチルコリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジルなど)は、FTDを対象にした小規模な比較で全般的な認知機能や重症度の改善がみられず、一部の患者さんで脱抑制や強迫的な行動が悪化し、中止で軽快したと報告されています(Mendez 2007)。
前頭側頭型認知症型(FTD:fronto-temporal dementia)

- 前頭葉変性症型、Pick型、運動ニューロン型。
- 人格変化と社会的接触性の障害が病初期および全経過を通じて優勢な特徴。
- 国際診断基準(Rascovsky 2011)では、脱抑制、無気力(アパシー)、共感の喪失、常同・強迫的な行動、口唇傾向(食行動の変化)、遂行機能障害の6項目のうち3つ以上で「possible」、生活機能の障害と特徴的な画像所見が加わると「probable」とされます。
- 認知、空間的技能、行為、記憶等の道具的機能は正常か比較的よく保たれる。
- 血流・代謝は前頭側頭葉で低下する。
- 萎縮は前頭葉や側頭葉に限局的に起こる。
FTDの基礎疾患
- 3リピートタウオパチー(Pick球を有するPick病(PDPB))
- 4リピートタウオパチー(大脳皮質基底核変性症(CBD)、進行性核上性麻痺(PSP)、嗜銀顆粒性認知症(DG))
- TDP43プロテイノパチー(ユビキチン陽性封入体を有する前頭側頭変性症、認知症を伴う筋萎縮性側索硬化症(FTLD-U、ALS-D/MND-D))
- FUS/TLSプロテイノパチー(好塩基性封入体病、神経中間線維封入体病)
画像所見
- 側脳室前角の拡大
- 比較的左右差の強い萎縮。
- knife-blade gyral atrophy
- 萎縮している脳回の境界がはっきりしている。
Pick病
- 前頭葉や側頭葉の限局性萎縮と大脳皮質症状を呈して、Pick小体の出現を神経病理学的特徴とする変性性認知症。
- 人格、行動、感情面の障害が主体。
- 病変部皮質の著明な萎縮。Knife-blade atrophyが特徴的。
- 大脳皮質がペラペラに薄くなる。
- 萎縮に左右差を認める事も多く、大脳皮質基底核変性症との鑑別を要する場合がある。

進行性非流暢性失語型(PNA:progressive non-fluent aphasia)

- 言語了解は良好だが、表出言語の障害。発語は短く、口ごもりがち。
- 左Sylvius裂周囲皮質が萎縮。左の前〜側頭葉の萎縮が目立つ。また同部位の血流・代謝の低下を伴う。
症例 70歳代女性

- VSRADがわかりやすい。

意味性認知症型(SD:semantic dementia)

- 流暢で正しい文法を使った会話ができるが、言葉の意味が分からなくなる。物品呼称ができなくなる。
- 左側頭葉極の萎縮が目立つ。また同部位の血流代謝の低下。
- 画像所見:VSRADおよびMRにて左側頭葉の萎縮著明。

前頭側頭葉変性症 右側優位型
- 左ではなくて、右の前部側頭葉の萎縮が目立つ場合は、右側頭葉型前頭側頭型認知症(right temporal variant FTD)と呼ばれる。
- 人の区別ができなくなるという特徴的な症状あり。右前部側頭葉の萎縮が主体の例では、社会情動面の障害、言葉以外の意味記憶の障害、人物に関する知識の障害がみられ、左前部側頭葉優位の意味型原発性進行性失語(意味性認知症)と鏡像の関係にあると考えられています。2022年には、右前部側頭葉優位の萎縮を示す例に「意味型行動異常型前頭側頭型認知症(semantic behavioural variant FTD:sbvFTD)」という名称と診断基準が提案されました。初期症状は共感の喪失・人物に関する知識の障害・複雑な強迫行為や思考の硬さで、病理はFTLD-TDPが84%と最多でした。

FTLDまとめ

亜型ごとの萎縮・血流低下の部位と左右差
| 亜型 | 目立つ部位 | 左右差 |
|---|---|---|
| 行動障害型(bvFTD) | 前頭葉・側頭葉前部。症状は脱抑制・無気力・共感の喪失など(Rascovsky 2011) | 左右差が出やすい |
| 意味性認知症(SD、意味型PPA) | 側頭極と前部紡錘状回の非対称な萎縮。進行すると反対側の側頭極や内側前頭前野へ(Landin-Romero 2016) | 通常は左優位。右優位なら右側頭葉型(sbvFTD、Younes 2022) |
| 進行性非流暢性失語(PNFA) | 左の下前頭回と島(Gorno-Tempini 2004) | 左 |
SDは側頭極、PNFAは左下前頭回〜島が中心と報告されているため、「左の前頭〜側頭」とひとまとめにせず区別します。左の後部側頭葉〜下頭頂小葉の萎縮が主体の失語は、別の亜型(logopenic型)として考えます(Gorno-Tempini 2004)。SDの病理はTDP-43 type Cが最も多く、遺伝性は少ないとされます(Landin-Romero 2016)。
アルツハイマー病との見分け:血流SPECTと萎縮のパターン
| FTLD(FTD) | アルツハイマー病(AD) | |
|---|---|---|
| 血流・代謝の低下 | 前頭葉・側頭葉前部 | 頭頂側頭連合野、後部帯状回、楔前部 |
| 萎縮 | 前頭葉・側頭葉前部、左右差、knife-blade atrophy | 海馬を含む内側側頭葉などが目立つ |
| 初期の症状 | 人格・行動の変化、言葉の障害 | エピソード記憶の障害 |
- ASL-MRIの検討では、FTDはADより頭頂葉と後部帯状回の血流が高く、灰白質の萎縮に前頭葉と頭頂葉の血流を加えると、FTDとADの分類が87%になりました(Du 2006)。
- 早期ADでは、SPECTの統計画像(eZIS)で後部帯状回・楔前部・頭頂葉の血流低下がFTDやVDより強く、ADとFTD・VDの鑑別に役立ちます。ただしADとDLB・混合型の区別は難しいとされます(Waragai 2008)。
- 画像診断の精度は早期には限られ、診断は臨床評価が中心です(Ducharme 2020)。基準を満たさなかった例は高齢で、記憶障害が目立つ非典型例が多いと報告されています(Rascovsky 2011)。
間違えやすいポイント:「後部帯状回が保たれる」は相対的な所見で、ADと比べたときの話です。FTLDだから後部が正常、という意味ではありません。
CTとMRIでの見え方の違い
- CT:前頭葉・側頭葉前部の脳溝の開大や側脳室前角・下角の拡大として萎縮が分かりますが、軽い萎縮や左右差は見落としやすいです。
- MRI:冠状断で側頭極の萎縮や左右差を比べやすく、knife-blade atrophyも見やすくなります。
前頭側頭葉変性症でよくある疑問(Q&A)
Q. 前頭側頭型認知症と前頭側頭葉変性症は別の病気ですか?
A. 別の病気ではありません。FTLDは病理にもとづく総称、FTDはその臨床症状の呼び名で、見ている側面が違うだけです。
Q. knife-edge(knife-blade)atrophyとは何ですか?
A. 脳回が刃のように薄くなり、脳溝が開いた強い萎縮のことです。Pick病で有名で、前頭葉・側頭葉の限局的な萎縮にみられ、左右差を伴うことが多いです。
Q. FTLDとアルツハイマー病は画像でどう見分けますか?
A. 血流SPECTでは、FTLDは前頭葉・側頭葉前部、ADは頭頂側頭連合野・後部帯状回・楔前部の低下が目立ちます。FTDではADよりこれらの後方の血流が高いと報告されています(Du 2006、Waragai 2008)。
Q. 左右差はなぜ大切ですか?
A. 左側頭極が強ければSD、左下前頭回〜島が強ければPNFA、右前部側頭葉が強ければ右側頭葉型と、左右差と部位が亜型の手がかりになるためです(Gorno-Tempini 2004、Landin-Romero 2016、Younes 2022)。
人柄が変わった、言葉が出にくい・意味が分からなくなったなど、気になる変化があれば早めに医療機関(脳神経内科・精神科・もの忘れ外来など)に相談してください。
参考文献
- Rascovsky K, Hodges JR, Knopman D, et al. Sensitivity of revised diagnostic criteria for the behavioural variant of frontotemporal dementia. Brain. 2011;134(Pt 9):2456-77. PubMed
- Gorno-Tempini ML, Hillis AE, Weintraub S, et al. Classification of primary progressive aphasia and its variants. Neurology. 2011;76(11):1006-14. PubMed
- Borghesani V, DeLeon J, Gorno-Tempini ML. Frontotemporal dementia: A unique window on the functional role of the temporal lobes. Handb Clin Neurol. 2022;187:429-448. PubMed
- Younes K, Borghesani V, Montembeault M, et al. Right temporal degeneration and socioemotional semantics: semantic behavioural variant frontotemporal dementia. Brain. 2022;145(11):4080-4096. PubMed
- Whitwell JL, Josephs KA. Neuroimaging in frontotemporal lobar degeneration–predicting molecular pathology. Nat Rev Neurol. 2012;8(3):131-42. PubMed
- Bang J, Spina S, Miller BL. Frontotemporal dementia. Lancet. 2015;386(10004):1672-82. PubMed
- Mendez MF, Shapira JS, McMurtray A, et al. Preliminary findings: behavioral worsening on donepezil in patients with frontotemporal dementia. Am J Geriatr Psychiatry. 2007;15(1):84-7. PubMed
- Gorno-Tempini ML, Dronkers NF, Rankin KP, et al. Cognition and anatomy in three variants of primary progressive aphasia. Ann Neurol. 2004;55(3):335-46. PubMed
- Landin-Romero R, Tan R, Hodges JR, et al. An update on semantic dementia: genetics, imaging, and pathology. Alzheimers Res Ther. 2016;8(1):52. PubMed
- Du AT, Jahng GH, Hayasaka S, et al. Hypoperfusion in frontotemporal dementia and Alzheimer disease by arterial spin labeling MRI. Neurology. 2006;67(7):1215-20. PubMed
- Waragai M, Mizumura S, Yamada T, et al. Differentiation of early-stage Alzheimer’s disease from other types of dementia using brain perfusion single photon emission computed tomography with easy Z-score imaging system analysis. Dement Geriatr Cogn Disord. 2008;26(6):547-55. PubMed
- Ducharme S, Dols A, Laforce R, et al. Recommendations to distinguish behavioural variant frontotemporal dementia from psychiatric disorders. Brain. 2020;143(6):1632-1650. PubMed
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