大脳白質病変とは?
- T2強調像における斑状〜融合状の高信号病変は、白質構造が粗な状態であることを意味するleukoaraiosisとも、非特異的な白質病変、慢性虚血性変化とも呼ばれる。また、unidentified bright objects(UBO)とも呼ばれる。
- 病理学的には髄鞘の希薄化を見ており、虚血が関与していると考えられているが、厳密には分かっていない。したがって、この変化を画像でみたときに、慢性虚血性変化という表現は正しくない可能性がある。
- 軽度のものは症状のない高齢者で加齢性変化として認められる。
- ただし、程度が強くなると、認知機能低下や、下肢機能低下といった症状が生じてくる。また、脳梗塞を生じるとそれに対応した症状が出現する。
- 高血圧(最大の因子)や加齢、糖尿病、心房細動、心疾患の既往、喫煙歴、無症候性脳梗塞などが危険因子とされる。したがって、高度な大脳白質病変を見た場合、積極的な降圧療法が必要となる。
- 高度白質病変の終末像は、「Binswanger型」血管性認知症に相当する。Binswanger病は基本的に病理学的用語であるが、画像所見にも用いられることあり。
- 大脳白質病変は大きく以下のように分けられる。
大脳白質病変
- 深部皮質下白質病変(deep and subcortical white matter hyperintensity:DSWMH)
- 脳室周囲病変(periventricular hyperintensity:PVH)
- 側脳室前角、後角周囲の高信号域 Cap
- 側脳室体部周囲の層状の高信号域 Rim
これらの2つに分けられる。これらは互いに融合傾向を示し、PVHから連続してDSWMHに不規則に広がる。
※ただし、これらに明確な境界があるわけではない。
- PVHは、CTでは低吸収域として捉えられ、periventricular low density:PVLと呼ばれる。
- PVH、DSWMHともに0-4の5段階に分けられる。グレード4では、びまん性に広がる白質病変。
- 部位としては、前頭葉、頭頂葉>>後頭葉、側頭葉。また橋底部にも認められる。
- 広範な白質病変が見られる場合でも、通常U-fiberは保たれる。
- 脳室周囲の変化は、周囲髄鞘の淡明化、軸索の減少、血管周囲腔の拡大、拡張した静脈、側脳室を裏打ちする上衣細胞の欠損、グリオーシス(→間質液貯留の要因の一つ)を見ている。
- 特に、periventricular rimは上衣細胞の局所的な脱落と周囲の間質液の増加(十分な耐水性の保持ができず、髄液が実質内に浸透する)が主体とされる。
- periventricular rimは加齢に伴うものであり、病的意義は乏しいとされる。
関連記事)こちらにもシェーマ付きでわかりやすくまとまっています→脳MRIの慢性虚血性変化とは?シェーマでわかりやすく解説!
半卵円中心と放線冠
- 両者は、放線冠レベル・半卵円中心レベルなどと、同じように使われるが、概念はかなり異なるもの。
- 半卵円中心は、肉眼的な分類。脳梁より上方の横断面で、白質が卵を半分に割ったように見えることからこのように呼ばれる。大脳の神経線維(投射線維、連合線維、交連線維)がいずれも含まれる。
- 一方で、放線冠とは、内包を通る投射線維が上方で扇状に広がる部分のこと。従って、肉眼分類ではわかりにくく、MRIで放線冠と記載しても実際は異なることもある。厳密には拡散テンソル画像DTIを撮影すればわかる。
- ※投射線維とは、大脳皮質と皮質下構造を連絡する線維であり、頭尾方向の線維。
参考→頭部画像診断ツールより。両者の位置はあくまで目安。実際には、両者は混在するレベルもある。
大脳白質病変のMRI所見は?
- T2WIで脳室周囲白質や深部・皮質下白質に淡い高信号病変。
- FLAIRでは明瞭な高信号(これが最も特徴的)。ラクナ梗塞よりも高信号を示す。高度な場合は、微小なラクナ梗塞が混在している可能性があるが、安易に大脳白質病変を脳梗塞と判断してはいけない。
- T1強調像では等信号あるいは大脳灰白質と同程度の軽度低信号を示す。
ラクナ梗塞 | 白質病変 | 血管周囲腔 | |
T1強調像 | 低信号 | 等〜低信号 | 等〜低信号 |
T2強調像 | 明瞭な高信号 | 高信号 | 高信号 |
FLAIR | 等〜高信号時に、低信号 | 明瞭な高信号 | 等〜低信号 |
周囲 | T2WI,FLAIRにて不規則な高信号 | 周囲に高信号を伴わない。 | |
その他 | 最大径3mm〜15mm | 3mm以下 |
- T2強調像でちょっとでも高信号を見ると梗塞などとレポートしてはいけない。
- FLAIRで高信号で、T1強調像で明瞭な低信号でない場合はleukoaraiosisとする。
Leukoaraiosisのグレード分類
- Fazekasらの分類が、Leukoaraiosisの視覚分類として広く普及している。
- 脳ドックガイドラインでは、グレードが1つ多い。
側脳室周囲病変(PVH)のグレード分類
Shinoharaら 2007 (一部改変) | Fazekasら 1991 (参考) | |
グレード0 | なし,または”periventricular rim” のみ | なし。 |
グレードⅠ | “periventricular cap” のような限局性病変 | 脳室壁に沿った一層の高信号領域もしくはCap |
グレードⅡ | 脳室周囲全域にやや厚く拡がる病変 | 脳室壁に沿った平滑なHalo |
グレードⅢ | 深部白質にまでおよぶ不規則な病変 | 深部白質病変と癒合性を示す不整形高信号。 |
グレードⅣ | 深部~皮質下白質にまでおよぶ広汎な病変 |
脳ドックのガイドライン 2008より
深部皮質下白質病変(DSWMH)のグレード分類
Shinoharaら 2007 (一部改変) | Fazekasら 1991 (参考) | |
グレード0 | なし。 | なし。 |
グレード1 | 直径3 mm未満の点状病変,または拡大血管周囲腔 | 点状高信号領域 |
グレード2 | 3 mm以上の斑状で散在性の皮質下~深部白質の病変 | 癒合性高信号領域 |
グレード3 | 境界不鮮明な融合傾向を示す皮質下~深部白質の病変 | びまん性癒合性高信号領域 |
グレード4 | 融合して白質の大部分に広く分布する病変 |
脳ドックのガイドライン 2008より
実際のレポートに書くこと
- 上記グレードを書く必要はない。
- グレードⅠ-Ⅱでは、軽度な非特異的な大脳白質病変。あるいは書かない。
- グレードⅡ-Ⅳでは、中等度〜高度な大脳白質病変。高血圧などが関与している可能性あり。
などと記載。
関連記事)こちらにもシェーマ付きでわかりやすくまとまっています→脳MRIの慢性虚血性変化とは?シェーマでわかりやすく解説!
参考&引用改変文献)・脳ドックのガイドライン2008
小生は脳外科医ですが、このMRI(T2およびフレア)上の白質のHSIってどう考えたら良いのか、患者にどう説明したら良いのか悩ましいのですが、多発性脳梗塞とどう鑑別するのでしょうか?またビンスワンガー病とは異なるのでしょうか?以上、プリミティブな質問で申し訳ありませんが、宜しくお願いしますm(_ _)m。
由良茂貴
勤務先:〒047-0152 小樽市新光1丁目21番5号
医療法人 北光会 朝里中央病院 脳神経外科
電話:(0134) 54-6543、FAX :(0134) 52-3951
由良先生
コメント頂きありがとうございます。返信遅くなり申し訳ありません。
白質病変と脳梗塞の鑑別はやはり記事にも記載があるように、脳梗塞の場合は、T1WI及びFLAIR像で真ん中が抜ける(低信号に成る)のが特徴だと思います。
一方では単なる白質病変の場合は、抜けがありません。
抜けがないのに何でも脳梗塞として脳外科に回されて困ると以前脳外科の先生がおっしゃっていました。
またビンスワンガー病は認知症を伴う血管性認知症に分類されるものであり、画像上はこの白質病変とは区別できません。症状ありきだと思います。
よろしくお願いします。