※2021年9月17日v2.1に対応しました。
前立腺癌のMRI画像診断の問題点とPI-RADS version2が目指すもの
日本は他の先進国と比較して人口当たりのMRI装置は多く、人間ドックなどにおいても前立腺のMRI検査は数多く施行されていますが、その読影方法の標準化がされてこなかったという背景があります。
PI-RADS version2は、その前立腺MRI検査の
- 検査自体の標準化、
- 撮影された画像の読影の標準化
を行い、それにより、
- 前立腺の生検を行う基準作り(不必要な生検を減らすこと)
- 死亡に関わる臨床的意義のある有意な前立腺癌の検出の精度をより上げること
を目的としています。
そこで今回は前立腺癌のMRI画像診断においてPI-RADS v2をどのように用いて、評価をし、レポート記載するのかということについて、文献を参考にまとめました。
臨床的意義のある有意な前立腺癌とは?
以下の条件のいずれかを満たすものと定義されています。
- Gleasonスコア7以上の病変(3+4を含む)
- 0.5ml以上の病変
- 前立腺外伸展(extraprostatic extension:EPE)を示す病変。
(Eur.Urol,69,16-40,2106)
これらは、各種ガイドラインの言うところの概ね監視療法の適応外となるものということができる病変です。
PI-RADS version2とは?
MRI画像の組み合わせにより、臨床的意義のある癌の存在する可能性を5段階で評価するものです。
具体的には、
- T2強調像
- 拡散強調像(DWI)
- ダイナミック造影像
の3つの所見の組み合わせで評価します。
注意する点としては、これらの3つの撮像方法で評価したスコアを合算して、トータルの点数で評価するものではないということです。
また、T2強調像では辺縁域と移行域で評価方法が異なるという点にも注意が必要です。
通常の前立腺癌のパターン
通常の前立腺癌の画像パターンは以下の通りです。
- T2強調像:低信号
- 拡散強調像(DWI):高信号、ADC mapにて信号低下。
- ダイナミック造影像:早期濃染、wash outされる。
症例
ただし、様々な例外もあります。PI-RADS version2での各撮像法でのスコアは以下の通りです。
T2強調像のスコア
辺縁域の場合
- スコア1:均一な高信号(正常)
- スコア2:線状あるいは楔状の低信号、またはびまん性の中等度の低信号(通常は境界不明瞭)
- スコア3:不均一な信号域、または輪郭のない円形の中等度低信号域、または2,4,5以外
- スコア4:前立腺内に限局する最大径1.5cm未満の輪郭のある均一な中等度低信号域/腫瘤
- スコア5:4と同じで最大径1.5cm以上のもの、または、前立腺外進展・浸潤傾向を呈するもの
(INNERVISION(31・6)2016 P40-52より引用)
PI-RADS version2.1に基づくイメージ
移行域の場合
- スコア1:均一な中等度信号(正常)
- スコア2:輪郭のある低信号域、または被膜のある不均一な結節(BPH)
- スコア3:境界不明瞭な不均一な信号域、または2,4,5以外
- スコア4:レンズ状あるいは輪郭不明瞭で、均一な中等度信号域で最大径1.5cm未満のもの
- スコア5:4と同じで最大径1.5cm以上のもの、または、前立腺外進展・浸潤傾向を呈するもの
(INNERVISION(31・6)2016 P40-52より引用)
スコア2に相当していた結節のうち、背景の移行域と類似した所見はスコアしない。また、典型的なBPH(円形、完全に被膜に覆われている)結節はスコアしない(スコア1とする)。と変更になりました。
T2WIでスコア2に相当するatypical noduleは
- 大部分皮膜で被われた結節
- 被膜のない均一な低信号の結節
- 結節間の均一な低信号域
と定義されます。
PI-RADS version2.1に基づくイメージ
拡散強調像(DWI)のスコア
- スコア1:ADC map、高b値拡散強調像で異常信号がないもの(すなわち正常)
- スコア2:ADC mapで不明瞭な低信号域。
- スコア3:限局したDWI高信号/ADC信号低下(著明な信号変化でもいいが、DWI,ADC両者ではない。)
- スコア4:最大径1.5cm未満の限局した、ADC mapで著明な低信号、かつ高b値拡散強調像で著明な高信号を示す領域
- スコア5:4と同じで最大径1.5cm以上のもの、または、前立腺外進展・浸潤傾向を呈するもの
PI-RADS version2.1に基づくイメージ
ダイナミック造影のスコア
まずダイナミック造影は、T2強調像、拡散強調像があれば、それほど診断能の向上に寄与しないため、あくまで補助的な立ち位置であることを理解しましょう。その上で、造影の有無については以下のように判断します。
- (-):早期濃染がない、あるいは対応するT2強調像、拡散強調像で限局した異常信号がないびまん性の造影効果、あるいはT2強調像でBPH結節の像を呈する病変に対応する限局した造影効果。
- (+):隣接する正常前立腺組織と同等、あるいはより早期の限局した造影効果を示す領域で、かつT2強調像や拡散強調像に対応する疑わしい病変があるもの。
(INNERVISION(31・6)2016 P40-52より引用)
ポイントは、ダイナミックで(+)と取るのは、あくまで結節や腫瘤があり、なおかつ造影効果を認めるものであるということです。
ただし、その場合、BPH(前立腺肥大)結節は除外する必要があります。
総合評価は?
これらのスコアから総合的に前立腺癌の可能性を評価します。
- PI-RADS1:非常に低い(臨床的意義のある癌はまず存在しない)
- PI-RADS2:低い(臨床的意義のある癌が存在する可能性は低い)
- PI-RADS3:中程度(臨床的意義のある癌が存在するか、なんとも言えない)
- PI-RADS4:高い(臨床的意義のある癌が存在する可能性が高い)
- PI-RADS5:非常に高い(臨床的意義のある癌がほぼ確実に存在する)
という風に数字が上がるほど、癌の可能性が高くなります。
辺縁領域
拡散強調像スコア | T2強調像スコア | ダイナミック造影像スコア | PI-RADSカテゴリー |
1 | 1-5 | (+),(-),及び× | 1 |
2 | 1-5 | (+),(-),及び× | 2 |
3 | 1-5 | (-),及び× | 3 |
(+) | 4 | ||
4 | 1-5 | (+),(-),及び× | 4 |
5 | 1-5 | (+),(-),及び× | 5 |
これからわかることは、辺縁領域はT2強調像は何であれ、拡散強調像スコア(及び一部ダイナミック造影像スコア)にPI-RADSカテゴリーが依存している、ということです。
移行領域
T2強調像スコア | 拡散強調像スコア | ダイナミック造影像スコア | PI-RADSカテゴリー |
1 | 1-5 | (+),(-),及び× | 1 |
2 | 1-3 | (+),(-),及び× | 2 |
4,5 | (+),(-),及び× | 3 | |
3 | 1-4 | (+),(-),及び× | 3 |
5 | (+),(-),及び× | 4 | |
4 | 1-5 | (+),(-),及び× | 4 |
5 | 1-5 | (+),(-),及び× | 5 |
※v2.1でT2WIスコア2の場合、DWIスコアが3以下か、4以上かでPI-RADSスコアに上のように変更がありました。
つまり、PI-RADSでは、これからわかることは、移行領域は拡散強調像は何であれ、T2強調像スコアにPI-RADSカテゴリーが依存している、ということです。
- 辺縁領域→拡散強調像(DWI)が重要。
- 移行領域→T2強調像が重要。
であり、まずはここに着目すればいいことがわかります。
この点は、明快でわかりやすいですが、移行領域で拡散強調像を軽視するという点(高信号を示す前立腺肥大結節を除外するという意図)はやや問題視する声があるのも事実であり、PI-RADSでの問題点、限界点とも言えます。
適切な拡散強調像がない場合(辺縁領域、移行領域共通)
T2強調像スコア | 拡散強調像スコア | ダイナミック造影像スコア | PI-RADSカテゴリー |
1 | × | (+),(-),及び× | 1 |
2 | × | (+),(-),及び× | 2 |
3 | × | (-),及び× | 3 |
(+) | 4 | ||
4 | × | (+),(-),及び× | 4 |
5 | × | (+),(-),及び× | 5 |
レポートに記載するべき内容は?
前立腺の大きさ
簡易的に、
- 前立腺容量V(ml)=(横断像での横径(cm))×(矢状断像での縦×横(奥行き)(cm))×0.52
で計算することがでます。
病変のカテゴリー評価
上で出したPI-RADSカテゴリーで3以上の病変を最大4つまで記します。
そして、その中でどれがindex tumorであるかを記載します。
index tumorとは?
- 最もPI-RADSカテゴリー分類が高い病変
- 最も高いカテゴリー分類が複数ある場合→前立腺外進展を示す病変
- 最も高いカテゴリー分類が複数あるが、前立腺外進展を示す病変がない場合、最大径が最も大きな病変。
と、PI-RADS version2で定義されています。
病変の大きさ
- 辺縁領域→ADC mapで最大径を測定。
- 移行領域→T2強調像で最大径を測定。
したものを記載します。
PI-RADS version2に基づく簡易的読影方法は?
step①:まず前立腺の大きさを記載します。(前後、左右、上下の径)
step②:辺縁領域及び移行領域の病変をPI-RADSカテゴリーに分ける。
辺縁領域に病変がある場合
拡散強調像を見てスコアをつける。
- スコア3以外なら、拡散強調像のスコアが、PI-RADSカテゴリーとなる。
- スコア3の場合、ダイナミック造影像を見て、早期濃染の有無をチェックあればPI-RADSカテゴリー4。
移行領域に病変がある場合
T2強調像を見てスコアをつける。
- スコア2,3以外→T2強調像のスコアが、PI-RADSカテゴリーとなる。
- スコア2→拡散強調像のスコアをチェック。
・拡散強調像スコア=1-3→PI-RADSカテゴリー2。
・拡散強調像スコア=4,5→PI-RADSカテゴリー3。 - スコア3→拡散強調像のスコアをチェック。
・拡散強調像スコア=5→PI-RADSカテゴリー4。
・拡散強調像スコアが、評価できない場合→ダイナミック造影像をチェックし、早期濃染の有無をチェックあればPI-RADSカテゴリー4。
step③ :各病変を最大4つまで評価して、index tumorを決定する。
step④: index tumorの最大径を測定する。この際
- 辺縁領域→ADC mapで最大径を測定。
- 移行領域→T2強調像で最大径を測定。
をするようにする。
関連記事:膀胱癌のMRI画像診断におけるVI-RADSまとめ!
参考文献)
Eur.Urol.,69,16-40,2016
INNERVISION(31・6)2016 P40-52
PI-RADSがver 2.1に更新されたことで、移行域のT2の扱いや辺縁域でのDWIの扱いが大きく変更されています。移行域ではT2 scoreが2でもDWIの影響を受けるなどの変更もされています。またお手隙の際に更新いただければ幸いです。
コメントありがとうございます。
そうですね。更新が必要ですね(^_^;)
時間を見つけて更新します。
いつも参考にしています。
中心域病変は基本、移行領域という認識でよろしかったでしょうか。
論文に書いてあったかうろおぼえでして…
よろしければ教えて下さい。
コメントありがとうございます。
質問の意図がよくわからないのですが、中心域と移行域は別ではないでしょうか。