急性冠症候群(ACS(STEMI,NSTEMI/UAP))

※ACS:Acute Coronary Syndrome
※STEMI:ST elevated myocardial infarction
※UAP:Unstable Angina Pectoris

ACSか否か?

▶急性冠症候群(ACS)を診断する3つのポイント

Ⅰ, ACSの症状は多彩である。

Ⅱ, 典型的なACSの約半数は心電図所見が非典型例

Ⅲ, よってACSの診断は病歴、身体所見の情報を総合的に判断する。

※ACSは、問診、診察、心電図で診断する。胸部X線、血液検査、心エコーで他の疾患でないことを確認する。

ACSへの対応

Vital signのチェックと第一印象

12誘導心電図(10分以内が目標。誘導部位にはマーキング)静脈ライン確保(同時に採血、Trop T/Rapi checkも)
→ACSが疑わしい時点で循内コール

②問診

③身体所見(①~③は同時進行)

④モニター装着

⑤各種薬剤投与(AONM)

⑥心エコーで虚血部位を確認、大動脈解離の除外

⑦胸部X線

⑧尿道カテーテル挿入

⑨心カテ室へ

・カテーテル前にチェックしておくこと
・胃潰瘍などの出血性病変の可能性(大量ヘパリンを使用するため)
・腎機能の確認(大量の造影剤使用により腎機能悪化の可能性があるため)

心電図(ACSの可能性を上げる変化)

・隣接する2つ以上の誘導で1mm以上のST上昇(LR+ 16)

※下壁ならⅡ,Ⅲ,aVF、側壁ならⅠ,aVL、前壁ならV1~V6

Q波の出現(LR+ 8.7)

T波の陰転化(LR+ 2.5)

・新たな伝導障害:房室ブロック、脚ブロック(LR+ 6.3)

→ACSを疑い症状が続く場合はECGを15~30分毎に繰り返す。

心電図(ST上昇の鑑別)

・心筋梗塞
・心室肥大
・良性早期再分極 
・急性心外膜炎 
・その他:Brugada症候群、左脚ブロック、右脚ブロック、左室瘤、不明、異型狭心症、High take-off,高K血症、低体温、脳血管障害、急性腹症

心電図(ST上昇で注意する点)

ミラーイメージ(Reciprocal change)
・下壁(ST↑/↓)⇔側壁、前壁(ST↓/↑)
・特異度が高い。→あればAMI!!
・下壁の梗塞で70%、前壁で30%にあり。スライド10

下壁梗塞を見たら右誘導(V4R,V5R)を追加。(V4R,V5RにてST↑が見られると右室梗塞)
∵右室梗塞を伴うことが多い(20~40%)。
→だから、モルヒネ、ニトロは行くな。輸液負荷を。
→右室梗塞ならば、大動脈解離も疑う。スライド11

後壁梗塞
・右室梗塞や側壁梗塞に合併しやすい
ST↓(V1~V3)…後壁のST↑のミラーイメージ
R↑(V1~V3)…後壁のQ波のミラーイメージ
・V8,9(後壁誘導)を追加注文スライド12

良性早期再分極(Benign Early Repolarization)
・若い健常人男性(平均年齢39歳)に多い。
・左側前胸部誘導(V2~V5)で見られる。
四肢誘導のみで認めることは稀(aVRにありaVLにない対側誘導でのST低下)
・AMIと違い、経時変化はない。

左室肥大
・凹型
・左室肥大の他の特徴

急性心外膜炎
・びまん性ST上昇
・aVRにあってaVLにない対側誘導でのST低下
・5mmを超える上昇は稀、PR低下

ACSの心電図の経時的変化

・急性期、超急性期(T波の尖鋭、増高:hyperacute T wave)

・ 数時間後(Q波の出現)

・2日後(上昇したSTの軽度下降、T波逆転)

・慢性期 (Q波、陰性T波)

Trop /Rapi checkについて

▶心筋トロポニン(Trop)
利点:心筋特異性が高い
欠点:超急性期の診断には有用性が低い。(発症2時間以内は陰性)

H-FABP(心臓型脂肪酸結合蛋白(Rapi))
利点:発症2時間以内の超急性期で陽性
欠点:心筋特異度が低い。腎機能障害や大動脈解離で偽陽性となる。
→陽性でもACSとは言えない。

問診 ACSの典型的な症状(OPQRST)

Onset(発症様式) 突然発症
Position(部位) 胸骨下
Quality(性状) 圧迫感、以前のACSと同じ痛み
Radiation(放散痛) 左右どちらかの肩への放散痛
Symptom(随伴症状) 冷汗、嘔気
Timing/Time course(タイミング、時間経過) 労作時に発症、30分以上持続ニトロ製剤により軽快

ACSの可能性を上げる情報

・胸痛の性状:胸部圧迫間 LR+1.7、以前のACSと同じ症状 LR+1.8

・痛みの時間:突然発症 LR+1.1、60分以上の持続 LR+1.3

・痛みの部位と放散痛:胸骨下 LR+1.2、頸部、顎への放散 LR+1.4、左肩への放散1.8、右肩への放散4.7、両肩への放散痛 LR+7.1

・随伴症状:嘔気・嘔吐 LR+2.0

・リスク因子 男性LR+1.3、年齢60歳以上1.5、高血圧1.2、糖尿病1.3、高脂血症1.7、喫煙1.3、肥満1.4、ACSの既往1.3、ACS家族歴1.2、

・身体所見  SBP<100 3.6、DBP<60 2.5、冷汗 2.9、頸静脈怒張 2.4、湿性ラ音 2.1、S3音 3.2

・胸痛の性状 鋭い痛みLR -0.3、体位により増悪LR -0.3、胸膜痛LR -0.2

・身体所見  胸壁の圧痛LR -0.2、体位による痛みの再現性LR -0.3

ACSの治療

AONMが治療の基本

Aspirin→バイアスピリン®100mg 2T噛み砕き服用(160~325mg)
※すべてのACSがアスピリンの適応。
※ただし最近の消化管出血・アスピリンにアレルギーがないことを確認。
※PCI前提ならクロピドグレル(プラビックス®)300mg~600mg(75mg×4T~8T)も。

Oxygen→酸素2~4L/分

Nitroglycerin→ミオコールスプレー®(0.3mg) 舌下噴霧or ニトロペン®(0.3mg) 1T舌下 5分間隔で2回反復投与
※ただし以下の場合は使わない。
・SBP<90mmHg or HR<50回/分 or HR>100回/分
・右室梗塞、下壁梗塞。
・シルデナフィル(バイアグラ®)を48時間以内に使用。

Morphine→硫酸モルヒネ(10mg/1ml/A) 2mg(0.2ml)ずつ 5~10分毎に反復投与
※ただし、硝酸薬で胸部不快感が緩和しない場合に使う。
※ツベルクリン用1mlシリンジを用いる。

・AMIの場合、引き継ぐまでに時間がかかるなら
ヘパリン(血液凝固阻止剤ヘパリンナトリウム)投与
初回ボーラス投与量 60単位/kg(最大4000単位静注)
 引き続き持続投与  5~15単位/kg/時(最大投与量1000単位/時)

※48時間もしくは血管造影まではaPTTが対照値の1.5~2倍(50~70秒)になるように調節(凝固療法の他の適応がない限り48時間まで投与)。
※ヘパリン投与後3時間でaPTTを初回検査→安定するまで6時間毎に検査し、その後は1日1回検査とする。

ACSの注意点

・非典型的な症状を示すのは?→高齢者、女性、糖尿病患者

・胃が痛い+迷走神経亢進(徐脈、嘔吐)+冷汗→下壁心筋梗塞を見逃すな。

・胸痛のないAMIは1/3~1/4もある。

・85歳以上の高齢者の主訴は息切れが多い。

・STEMIはAMIの40~50%のみ。

・危険因子のある胸痛患者は、ACSを考えて、48時間はCCU入院。6時間毎に心電図、CK-MBチェックをする。

ACSの悪化シナリオと対処例

・心不全:心筋虚血で壁運動低下、ポンプ機能低下→心臓の前では肺を中心とした鬱血、心臓の後では臓器虚血が起こる。→PCPSでとりあえずの酸素化を得つつ、一刻も早くPCIを行って心臓の血流を回復する。

・血圧低下:右室梗塞を生じると、左室の前負荷が下がり血圧の低下をきたす(肺うっ血がない低心拍出状態)→十分な輸液

・致死性不整脈:徐脈やVT/VF→DC。ただし、難治性のことがあり、根本治療が必要。→PCPSでとりあえずの循環を保ちつつPCI

・虚血心筋細胞の破綻による心タンポナーデ/心破裂→緊急開胸して穴をふさぐしかないが、救命は困難か。

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