肺水腫(はいすいしゅ)とは、文字どおり肺に水がたまり、肺が腫れた状態と言えます。
肺に水が溜まりそうになっても、通常ならば肺の水分バランス調節により、その水は取り除かれます。この調節機構が破綻してしまった場合に、肺水腫になります。
肺に水がたまると、呼吸苦などの症状が出てきます。ところで、何が原因で肺水腫が起こるのでしょうか?またどのような症状が出て、どのように肺水腫を診断するのでしょうか?
今回は肺水腫の原因、症状、画像診断を中心とした診断方法についてまとめました。
肺水腫の原因は?
肺に水が溜まる肺水腫の原因は、その病態から大きく2つに分けられます。
- 水力学的肺水腫:肺の毛細血管圧が上昇する。
- 透過性亢進型肺水腫:肺の毛細血管の透過性が亢進する。
の2つです。
そもそも肺の血流が増えてしまい、血管から溢れてしまうのが1、血流は増えないけども、何らかの原因により、血管の透過性が亢進してしまうのが2です。
これ以外に低アルブミン血症に陥った場合、血漿膠質浸透圧が低下して肺水腫になることがあります。
水力学的肺水腫の原因は?
肺の毛細血管圧が上昇する、つまり血管から溢れるくらい肺静脈圧が上昇してしまう原因は以下のものが挙げられます。
- 左心不全
- 腎不全
- 過剰輸液
このうち左心不全によるものが最多と言われます。
腎不全と、過剰輸液は純粋に循環血漿量が増えるものですが、左心不全の場合は、心臓のポンプ機能が低下した結果、心臓から全身にうまく血液を送り出せなくなり、肺に水が溜まってしまう(肺うっ血)状態です。
肺水腫の原因として最多である左心不全を例にすると下記のようになります。
左心室のポンプ機能に低下を認めると、血液を拍出できなくなりますから、左心室の圧が上がり、その前の左心房の圧が上がり、さらにその前の肺静脈の圧が上がり、静水圧が上がります。そうなると肺の間質に血液から水分が漏れ出て来て、それが進行すると肺胞に水が溢れてきます。
透過性亢進型肺水腫の原因は?
一方で、血管の透過性が亢進した結果、肺水腫に陥ってしまう原因としては、
- 尿毒症
- 外傷
- ショック
- 薬剤:パラコート、刺激ガス、ヘロイン
- ALI/ARDS
といったものが挙げられます。
肺水腫の原因には以上のようなものがあり、これらを念頭に入れて肺水腫の原因を精査をすることになります。
では、そもそも肺水腫を疑うきっかけとなる症状にはどのようなものがあるのか見てみましょう。
肺水腫の症状は?
肺水腫は以下のような症状があります。
- 労作時息切れ
- 頻呼吸
- 咳
- 喘鳴
- 起座呼吸
- 発作性夜間呼吸困難
- ピンク色泡沫状の喀痰
- 肺野の聴診で断続性のラ音
- 心臓の聴診でⅢ音、Ⅳ音、gallop rhythm
起座呼吸とは、寝ていると静脈の血流が増えて呼吸困難が増悪してしまうため、起き上がり呼吸困難が楽になる座る姿勢を自然に取るようになることを指します。
肺水腫の診断は?
肺水腫であると診断するには以下の診察結果を総合的に見ていく必要があります。
- 症状
- 聴診
- 胸部X線
- 動脈血液ガス
症状および聴診はすでに述べた通りです。ここでは胸部X線写真の変化と、血液動脈ガスのポイントについて触れます。
肺水腫の胸部レントゲン像の変化は?
肺の血管から水分が漏れ出ると、まず肺の間質に水が溜まります。間質が水で溢れるようになると今度は肺の実質である肺胞内に水が溜まってきます。
→次に肺の実質(肺胞内)に水がたまる。(肺静脈圧>25mmHg):肺胞性肺水腫
水がたまると胸部レントゲンにおいても変化が見られるようになります。
- Kerley’s B line(カーリーのBライン)が見えるようになる。:小葉間隔壁の肥厚を反映。
- peri-bronchial cuffing(気管支周囲の肥厚(1mm以上)):B3bで観察しやすい。→B3bについてはこちら。
- C-P angleの鈍化:胸水を反映。
- vanishing tumor:葉間胸水を反映。
- 左心不全によるものの場合、心陰影の拡大。
- butterfly shadow(蝶形陰影):両側肺門部の浸潤影を反映。
左心不全によるものの場合、レントゲン以前に、心エコーによる心機能の評価が重要となります。
肺水腫の動脈血液ガス所見は?
低酸素血症およびⅠ型呼吸不全を反映して、PaO2が低下し、A-DO2の開大を認めます。
また、頻呼吸になることで呼吸性アルカローシスとなり、PaCO2の低下がみられます。
最後に
肺水腫の原因で最も多いのは左心不全によるものです。ですので、肺水腫=左心不全のように紹介されることもありますが、それ以外にも原因はたくさんあります。
肺水腫を見たときは、その原因が何であるかを検索していく必要があり、その際には、
- 症状
- 心エコー
- 胸部レントゲン、CT
- 血液ガス
などが参考になります。