精巣上体炎(せいそうじょうたいえん)とは、陰囊(いんのう)が痛くなり、腫れて赤くなる急性陰嚢症を起こす疾患の1つとして重要です。
精巣捻転(せいそうねんてん)とともに陰囊の救急疾患として鑑別に挙げられますが、
- 精巣捻転→精巣が捻れる(ねじれる)
- 精巣上体炎→感染症
という違いがあります。
ねじれた場合それを解除しなければ虚血壊死へと陥る危険があり、より緊急を要しますが、精巣上体炎の場合は、抗生剤で治療していきます。
今回は、そんな精巣上体炎(Epididymitis)について
- 原因
- 症状
- 診断
- 治療
を実際のMRI画像や図を用いてわかりやすくまとめました。
精巣上体炎の原因は?
先ほど述べたように、精巣上体炎は感染症です。
では、どこから感染をするかというと、前立腺炎、尿道炎や他の尿路感染症から精管・精索を介しての上行性感染によって引き起こされることが最も多いとされます。
若い男性の場合、性交による感染から続発することが多いとされます。
起炎菌としては、様々で、
- 青年期:淋菌・クラミジア・マイコプラズマ
- 小児及び青年期以降:大腸菌・プロテウス菌・腸球菌など
他には、緑膿菌・ウイルス性などが挙げられます。
ウイルス性精巣炎であるムンプス精巣炎は、耳下腺炎後、成人男性の20%程度に起こるとされます。
一方、小児の場合、ムンプス感染症は精巣に波及しにくいとされます。
精巣上体炎の症状は?
寒気を伴う高熱で発症し、数時間後に
- 陰囊局所の腫脹
- 自発痛
- 圧痛
- 発赤
- 熱感
が顕著になってきます。
前立腺炎、尿道炎や他の尿路感染症から精管・精索を介しての上行性感染する場合は、先行する感染があるので診断は可能です。
しかし、そうでない場合は、精巣捻転との鑑別が重要となります。
精巣捻転の場合は、緊急手術が必要になるからですね。
精巣捻転との違いは?
精巣上体炎と精巣捻転の違いは、次のような点です。
精巣捻転症 | 精巣上体炎 | |
年齢 | 思春期〜40歳、時に新生児 | 20〜80歳 |
発症 | 急性 | 緩徐/亜急性 |
嘔気 | 伴う | 少ない |
疼痛 | 激痛 | 中〜重度 |
発熱 | なし | 多い |
尿検査 | 正常 | 多くは膿尿 |
精巣挙上すると | 疼痛持続 | 疼痛軽減 |
精巣の位置 | 上昇、横転のことあり。 | 正常 |
精巣上体炎は、精巣捻転と比べて発症年齢がやや高いこともポイントです。
また、精巣を挙上して、痛みが軽減することをPrehn’s sign(「プレーンサイン」prehn(プレーン)徴候)陰性と言います。
- 精巣を挙上して痛みが軽減(プレーン徴候陰性)→精巣上体炎
- 精巣を挙上しても痛みが持続もしくは増強(プレーン徴候陽性)→精巣捻転
を疑います。
精巣上体炎では精巣の長軸が縦方向を向きますが、捻転ではねじれて横向きになります。
精巣上体炎の診断は?
- 症状
- 身体診察
- 採血結果:炎症反応及び白血球が高値であることが多い
- 尿検査:膿尿であることが多い
に加えて重要なのが、画像検査です。
- 超音波検査(エコー)
- CT・MRI
といった検査が診断には重要です。
これらの画像検査で見られる共通するポイントは、
- 精巣には異常がない
- 精巣上体が腫大して、血流が増加する
ということです。
精巣上体炎のMRI画像
MRI では脂肪抑制T2強調像や STIRという撮像法で患側の精巣上体に高信号を示します。
精巣の造影効果及び内部の実質には異常を認めない点が、精巣捻転との鑑別点となります。(精巣上体炎はよく造影されるが、精巣捻転は染まりが悪い。)
症例 30歳代 男性 急性陰嚢症
STIRの冠状断像です。
右(向かって左)の精巣上体は腫大し、精巣上体〜精索に異常な高信号を認めています。
また右には陰嚢水腫を認めています。
造影剤を用いた造影MRI(脂肪抑制T1強調像 冠状断像)では、右の精巣上体〜精索に異常な造影効果を認めています。
右精巣上体炎と診断されました。
症例 20歳代男性 急性陰嚢症
脂肪抑制T2強調像の冠状断像です。
左(向かって右)の精巣上体は腫大し、精巣上体〜精索に異常な高信号を認めています。
また左には陰嚢水腫を認めています。
造影MRI(脂肪抑制T1強調像 冠状断像)では、左の精巣上体〜精索に異常な造影効果を認めています。
左精巣上体炎と診断されました。
症例 70歳代男性 左陰嚢の痛み、腫れで受診
脂肪抑制T2強調像の冠状断像です。
左(向かって右)の精巣上体は腫大し、精巣上体〜精索に異常な高信号を認めています。
また左には陰嚢水腫を認めています。
造影MRI(脂肪抑制T1強調像サブトラクション 冠状断像)では、左の精巣上体〜精索に異常な造影効果を認めています。
左精巣上体炎と診断されました。
精巣上体炎の治療は?
精巣上体炎と診断すれば
- 安静を保つ
- 陰嚢を挙上し、局所を冷やすあるいは、温めるかして痛みの軽減を図る
- 抗生物質を投与する
ことで治療していきます。
精巣捻転より緊急度は落ちますが、炎症が悪化すると膿瘍を形成したり、精巣萎縮により無精子症を引き起こすこともありますので、十分な抗生物質による治療が重要となります。
とくにクラミジアに対しては、ドキシサイクリン(ビブラマイシン®)やミノサイクリン(ミノマイシン®)100mgを1~ 2回/日、ニュ一キノロン系薬を200~400mg/日使用します。
最後に
精巣上体炎について、ポイントをまとめます。
- 精巣上体炎は、感染症
- 前立腺炎、尿道炎や他の尿路感染症から精管・精索を介しての上行性感染によって引き起こされる
- 淋菌・クラミジア・マイコプラズマ・大腸菌・プロテウス菌・腸球菌などが原因菌となる
- 寒気を伴う高熱・陰囊局所の腫脹・自発痛・圧痛・発赤・熱感などがある
- 精巣捻転との鑑別が重要
- 臨床症状・身体診察・採血・尿検査・画像検査を行い診断する
- 治療法は、安静の上、十分な抗生物質による治療が重要
治療後も、精管通過障害が治らないまま残ることもあります。
その場合、それが両側に起こると不妊の原因にもなるため注意が必要です。