精巣上体炎(せいそうじょうたいえん)とは、陰囊(いんのう)が痛くなり、腫れて赤くなる急性陰嚢症を起こす疾患の1つとして重要です。
精巣捻転(せいそうねんてん)とともに陰囊の救急疾患として鑑別に挙げられますが、
- 精巣捻転→精巣が捻れる(ねじれる)
- 精巣上体炎→感染症
という違いがあります。
ねじれた場合それを解除しなければ虚血壊死へと陥る危険があり、より緊急を要しますが、精巣上体炎の場合は、抗生剤で治療していきます。
今回は、そんな精巣上体炎(Epididymitis)について
- 原因
- 症状
- 診断
- 治療
を実際のMRI画像や図を用いてわかりやすくまとめました。
先に結論:精巣上体炎とは・精巣捻転との違い
- 精巣上体炎は、精巣の後ろにある精巣上体(精子を運ぶ管が集まった部分)に細菌が感染して起こる炎症で、陰のうの腫れ・痛み・赤み・発熱が出ます。若い人では性感染症(クラミジア・淋菌)、中高年では大腸菌など尿路感染からが多く、抗菌薬で治療します
- 最も大事なのは精巣捻転との区別です。精巣捻転は思春期(10代)に多く、突然の激痛で始まり、数時間以内の手術が必要です。精巣上体炎は比較的ゆっくり痛くなり、発熱や尿の濁り(膿尿)を伴うことが多いです。プレーン徴候(陰のうを持ち上げると痛みが和らぐ=精巣上体炎を示唆)は参考になりますが、確実ではありません
- 診断にはカラードプラ超音波が最も役立ち、精巣上体の腫れと血流の増加が見られます(精巣捻転では精巣の血流が低下・消失)。MRIでは精巣上体の腫大や膿瘍の有無を確認できます
- 精巣の血流が低下・消失していれば精巣捻転で緊急手術が必要です。迷うときは捻転として扱い、泌尿器科に相談します
※陰のうが急に痛くなったら、様子を見ずにすぐ泌尿器科・救急を受診してください。
精巣上体炎の原因は?

先ほど述べたように、精巣上体炎は感染症です。
では、どこから感染をするかというと、前立腺炎、尿道炎や他の尿路感染症から精管・精索を介しての上行性感染によって引き起こされることが最も多いとされます。
若い男性の場合、性交による感染から続発することが多いとされます。
起炎菌としては、様々で、
- 青年期:淋菌・クラミジア・マイコプラズマ
- 小児及び青年期以降:大腸菌・プロテウス菌・腸球菌など
他には、緑膿菌・ウイルス性などが挙げられます。
ウイルス性精巣炎であるムンプス(おたふくかぜ)精巣炎は、思春期以降の男性でムンプスの合併症として最も多く、若い成人男性ではムンプス患者の最大40%に起こるとの報告があります。多くは耳下腺の腫れの約1週間後に起こります(Wu 2021)。
一方、小児の場合、ムンプス感染症は精巣に波及しにくいとされます。
精巣上体炎の症状は?
寒気を伴う高熱で発症し、数時間後に
- 陰囊局所の腫脹
- 自発痛
- 圧痛
- 発赤
- 熱感
が顕著になってきます。
精巣上体炎の見た目(外見)は?
見た目では、次のような変化が多くは片側に出ます。
- 片側の陰のうが腫れて大きくなる(反対側と左右差が出る)
- 陰のうの皮膚が赤くなり、触ると熱い
- 精巣の後ろ〜上(精巣上体)が硬く腫れて、触ると強く痛む。炎症が精巣にも広がると(精巣上体精巣炎)、精巣全体が腫れて境目がわかりにくくなる
- 陰嚢水腫(陰のうに水がたまる)を伴って、さらに大きく見えることがある
ただし、赤く腫れて痛いという見た目は精巣捻転でも起こり、外見だけでは区別できません。陰のうが急に腫れて痛いときは、写真や見た目で自己判断せず、すぐに泌尿器科・救急を受診してください。
前立腺炎、尿道炎や他の尿路感染症から精管・精索を介しての上行性感染する場合は、先行する感染があるので診断は可能です。
しかし、そうでない場合は、精巣捻転との鑑別が重要となります。
精巣捻転の場合は、緊急手術が必要になるからですね。精巣上体炎では精巣は正常の位置にあり、患側の精巣挙筋反射が保たれていることが多い点も、精巣捻転との鑑別の手がかりになります。
精巣捻転との違いは?
精巣上体炎と精巣捻転の違いは、次のような点です。
| 精巣捻転症 | 精巣上体炎 | |
| 年齢 | 思春期(特に10代)に多い、時に新生児 | 14〜35歳に多い(中高年にもみられる) |
| 発症 | 急性 | 緩徐/亜急性 |
| 嘔気 | 伴う | 少ない |
| 疼痛 | 激痛 | 中〜重度 |
| 発熱 | なし | 多い |
| 尿検査 | 正常 | 多くは膿尿 |
| 精巣挙上すると | 疼痛持続 | 疼痛軽減 |
| 精巣の位置 | 上昇、横転のことあり。 | 正常 |
精巣上体炎は、精巣捻転と比べて発症年齢がやや高いこともポイントです。
また、精巣を挙上して、痛みが軽減することをPrehn’s sign(「プレーンサイン」prehn(プレーン)徴候)陽性と言います。
- 精巣を挙上して痛みが軽減(プレーン徴候陽性)→精巣上体炎
- 精巣を挙上しても痛みが持続もしくは増強(プレーン徴候陰性)→精巣捻転
を疑います。
プレーン徴候とは?陽性・陰性の意味と限界
プレーン徴候(Prehn’s sign)は、あお向けで陰のうをそっと持ち上げたときに痛みが和らぐかどうかを見る診察法です。和らげば「陽性」(精巣上体炎を示唆)、和らがない・強くなれば「陰性」(精巣捻転を示唆)と判定します。
ただし信頼性は高くありません。急性の片側陰嚢痛を対象にした系統的レビューでは、精巣捻転の患者でもプレーン徴候が陽性になった割合が研究により10.5%〜100%とばらつき、「陰性でないから捻転ではない」とは言えないと結論されています(Edwards 2025)。プレーン徴候が陽性でも捻転は否定できないため、超音波(カラードプラ)で精巣の血流を確認します。
精巣上体炎では精巣の長軸が縦方向を向きますが、捻転ではねじれて横向きになります。
超音波で精索がらせん状にねじれて見える「whirlpool sign」は精巣捻転に特異的な所見です。メタ解析では感度73%・特異度99%(新生児を除くと感度92%)と報告されており、精巣上体炎との区別に役立ちます。
参考)小児の急性陰嚢症338例から作られたTWISTスコア(精巣の腫大2点、硬い精巣2点、精巣挙筋反射の消失1点、嘔気・嘔吐1点、精巣の挙上1点)では、2点以下を低リスク、5点以上を高リスクとし、中間リスクの例に超音波を行う使い方が提案されています。超音波では精巣上体炎は腫大と血流増加、精巣捻転は精巣内の血流の欠如が鍵となります。
精巣上体炎の診断は?
- 症状
- 身体診察
- 採血結果:炎症反応及び白血球が高値であることが多い
- 尿検査:膿尿であることが多い
に加えて重要なのが、画像検査です。
- 超音波検査(エコー)
- CT・MRI
といった検査が診断には重要です。
これらの画像検査で見られる共通するポイントは、
- 精巣には異常がない
- 精巣上体が腫大して、血流が増加する
ということです。
正常な精巣・精巣上体のMRI
比べるために、正常の見え方を押さえておきます。正常な精巣はT2強調像で均一な高信号、周りを包む白膜は細い低信号の線として見えます。精巣上体は精巣の後ろ〜上にあり、T2強調像で精巣よりやや低い信号です。精巣上体炎では、この精巣上体が腫れて脂肪抑制T2強調像・STIRで高信号になり、強く造影されます(左右差を見るのがコツです)。
精巣上体炎のMRI画像
MRI では脂肪抑制T2強調像や STIRという撮像法で患側の精巣上体に高信号を示します。
精巣の造影効果及び内部の実質には異常を認めない点が、精巣捻転との鑑別点となります。(精巣上体炎はよく造影されるが、精巣捻転は染まりが悪い。)
症例 30歳代 男性 急性陰嚢症

STIRの冠状断像です。
右(向かって左)の精巣上体は腫大し、精巣上体〜精索に異常な高信号を認めています。
また右には陰嚢水腫を認めています。

造影剤を用いた造影MRI(脂肪抑制T1強調像 冠状断像)では、右の精巣上体〜精索に異常な造影効果を認めています。
右精巣上体炎と診断されました。
症例 20歳代男性 急性陰嚢症

脂肪抑制T2強調像の冠状断像です。
左(向かって右)の精巣上体は腫大し、精巣上体〜精索に異常な高信号を認めています。
また左には陰嚢水腫を認めています。

造影MRI(脂肪抑制T1強調像 冠状断像)では、左の精巣上体〜精索に異常な造影効果を認めています。
左精巣上体炎と診断されました。
症例 70歳代男性 左陰嚢の痛み、腫れで受診

脂肪抑制T2強調像の冠状断像です。
左(向かって右)の精巣上体は腫大し、精巣上体〜精索に異常な高信号を認めています。
また左には陰嚢水腫を認めています。

造影MRI(脂肪抑制T1強調像サブトラクション 冠状断像)では、左の精巣上体〜精索に異常な造影効果を認めています。
左精巣上体炎と診断されました。
動画で学ぶ精巣上体炎の3症例
(症例1:10代男性、症例2:50歳代男性、症例3:20歳代男性)
精巣上体炎の治療は?
精巣上体炎と診断すれば
- 安静を保つ
- 陰嚢を挙上し、局所を冷やすあるいは、温めるかして痛みの軽減を図る
- 抗生物質を投与する
ことで治療していきます。
精巣捻転より緊急度は落ちますが、炎症が悪化すると膿瘍を形成したり、精巣炎を合併したり、精巣萎縮により無精子症を引き起こすこともありますので、十分な抗生物質による治療が重要となります。
とくにクラミジアに対しては、ドキシサイクリンなどのテトラサイクリン系の抗菌薬が使われます。米国CDCの2021年ガイドラインでは、淋菌・クラミジアが疑われる場合はセフトリアキソンとドキシサイクリンの併用が推奨されています(Workowski 2021)。薬の種類や量は医師が判断します。
精巣上体炎でよくある疑問(Q&A)
Q1. 精巣上体炎と精巣炎・精巣膿瘍は違うの?
精巣上体炎は精巣の後ろにある精巣上体の炎症で、炎症が精巣にも広がったものを精巣上体精巣炎と呼びます。治療が遅れたり重症だったりすると、精巣上体や精巣の中に膿がたまる膿瘍ができることがあります。膿瘍は超音波で内部が不均一な低エコーの領域として、MRIでは造影されない液体のたまりとその周りの強い造影効果として見え、抗菌薬で改善しない場合は排膿などが検討されます。
Q2. CTでも精巣上体炎はわかりますか?
CTでも精巣上体の腫れや周りの脂肪の濃度上昇がわかることはありますが、陰のうの評価の中心は超音波(カラードプラ)で、詳しく見たいときにMRIが使われます。腹痛など別の目的で撮ったCTで偶然見つかることもあります。
Q3. 片側だけ腫れて熱がない場合も精巣上体炎ですか?
熱がない精巣上体炎もありますが、発熱がなく急に強く痛む場合は精巣捻転のことがあります(上の比較表)。また、痛みの少ない腫れは腫瘍や陰嚢水腫のこともあるため、いずれも医療機関で超音波検査を受けてください。
最後に
精巣上体炎について、ポイントをまとめます。
- 精巣上体炎は、感染症
- 前立腺炎、尿道炎や他の尿路感染症から精管・精索を介しての上行性感染によって引き起こされる
- 淋菌・クラミジア・マイコプラズマ・大腸菌・プロテウス菌・腸球菌などが原因菌となる
- 寒気を伴う高熱・陰囊局所の腫脹・自発痛・圧痛・発赤・熱感などがある
- 精巣捻転との鑑別が重要
- 臨床症状・身体診察・採血・尿検査・画像検査を行い診断する
- 治療法は、安静の上、十分な抗生物質による治療が重要
治療後も、精管通過障害が治らないまま残ることもあります。
その場合、それが両側に起こると不妊の原因にもなるため注意が必要です。
関連記事:陰嚢腫瘤の鑑別|精巣上体嚢胞・精液瘤・陰嚢水腫と精巣腫瘍の見分け方(エコー・MRI)
あわせて読みたい:精巣捻転とは?サイン・原因と受診の目安
あわせて読みたい:精巣垂捻転とは
参考文献
- Trojian TH, Lishnak TS, Heiman D. Epididymitis and orchitis: an overview. Am Fam Physician. 2009;79(7):583-7. PubMed
- Dogra VS, Gottlieb RH, Oka M, et al. Sonography of the scrotum. Radiology. 2003;227(1):18-36. PubMed
- Workowski KA, Bachmann LH, Chan PA, et al. Sexually Transmitted Infections Treatment Guidelines, 2021. MMWR Recomm Rep. 2021;70(4):1-187. PubMed
- Sweet DE, Feldman MK, Remer EM. Imaging of the acute scrotum: keys to a rapid diagnosis of acute scrotal disorders. Abdom Radiol (NY). 2020;45(7):2063-2081. PubMed
- McDowall J, Adam A, Gerber L, et al. The ultrasonographic “whirlpool sign” in testicular torsion: valuable tool or waste of valuable time? A systematic review and meta-analysis. Emerg Radiol. 2018;25(3):281-292. PubMed
- Avery LL, Scheinfeld MH. Imaging of penile and scrotal emergencies. Radiographics. 2013;33(3):721-40. PubMed
- Barbosa JA, Tiseo BC, Barayan GA, et al. Development and initial validation of a scoring system to diagnose testicular torsion in children. J Urol. 2013;189(5):1859-64. PubMed
- Edwards LG, Feldman JW, Ferguson C. In emergency settings, can a negative Prehn’s sign be used to aid diagnosis of testicular torsion? Emerg Med J. 2025;42(6):411-412. PubMed
- Wu H, Wang F, Tang D, et al. Mumps orchitis: clinical aspects and mechanisms. Front Immunol. 2021;12:582946. PubMed
画像診断を無料で学べるコンテンツ

腹部画像診断を症例で学ぶ
4日に1回、朝6時に症例が届き、実際に画像をスクロールして読影する講座です。90症例以上・1年以上続く講座で、医師・医学生・放射線技師・看護師など10,000名以上が参加中です。
講座に参加する(無料) →






