脳梗塞というと、脳動脈の狭窄や閉塞により脳組織が壊死に至る疾患です。
脳梗塞には大きく3つの種類があり、
- 心原性脳梗塞
- アテローム血栓性脳梗塞
- ラクナ梗塞
がそれに該当します。
今回は脳梗塞の中でも、主に高血圧が原因となり、小血管に脳梗塞を多発することもあるラクナ梗塞について
- 症状
- 原因
- 診断(検査)
- 治療法
を図(イラスト)や実際のCT画像及びMRI画像、動画解説を用いてわかりやすく解説しました。
ラクナ梗塞とは?
ラクナという言葉はラテン語で「小さな空洞」を意味し、ラクナ梗塞は15mm以下の小梗塞のことを言います。
細い脳動脈(深部穿通枝)に起こる直径15mm以下の小さな梗塞で、高血圧のある高齢者に多く起こり、大脳基底核、内包、視床、橋など穿通枝領域に発生します。
下のように脳を栄養する血管には皮質動脈と穿通動脈があります。
このうちラクナ梗塞はより末梢の細い血管である穿通動脈領域の血管が詰まって起こる脳梗塞です。
以前は、脳梗塞といえばこのラクナ梗塞が最多でしたが、近年は血圧管理により減少傾向にあります。
大脳基底核とは?
大脳基底核とは、解剖学的な狭義の大脳基底核として
- 尾状核
- 被殻
- 淡蒼球
からなり、MRI画像の横断像では同じスライス(断面画像)で以下のように見ることができます。
またラクナ梗塞の好発部位の一つである視床も同じスライスで確認できます。
なお、広義の大脳基底核として、機能的に結びつきが強い中脳の黒質や間脳の視床下核を含めることがありますが、黒質や視床下核はラクナ梗塞の好発部位ではありません。
橋とは?
一方でラクナ梗塞の好発部位の一つである橋は「きょう」と読み、脳幹部を形成する構造の一つです。
ラクナ梗塞も脳幹出血も起こりやすい部位として重要です。MRIの横断像で解剖を見てみるとこのようになります。
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ラクナ梗塞の症状は?
ラクナ梗塞は、発生部位に対応して、5つの特徴的な症状が現れます。
- 純粋運動性不全片麻痺
- 純粋感覚性脳卒中
- 運動失調性不全片麻痺
- 構音障害・手不器用症候群
- 感覚運動性脳卒中
これらはラクナ症候群としてまとめられています。
更に詳しく現れる症状を障害部位と共にご説明します。
純粋運動性不全片麻痺
障害部位:内包・橋・放線冠
- 顔面を含む対側半身の不全片麻痺
- 舌の対側への偏倚
- 構音障害
純粋感覚性脳卒中
障害部位:視床後腹側核
- 顔面を含む対側半身の感覚障害
- 手口感覚症候群
運動失調性不全片麻痺
障害部位:橋腹側・内包・放線冠
- 顔面を含む対側半身の軽い不全片麻痺
- 運動失調(片側の脱力・小脳失調症状)
構音障害・手不器用症候群
障害部位:橋腹側・内包膝部
- 構音障害
- 対側上肢の巧緻運動障害
感覚運動性脳卒中
障害部位:内包後脚・放線冠
- 顔面を含む対側半身の不全片麻痺
- 対側半身の感覚障害
しかし、症状は運動麻痺のみ、感覚障害のみなど比較的軽いことが多く、無症候性のこともあります。大脳皮質には病変がないため、意識障害や失語や失行などの皮質症状や痙攣などは見られません。
1回の発作の予後は一般的に良好ですが、繰り返す特徴があります。また、多発すると脳血管性認知症やパーキンソン症候群を呈することもあります。
ラクナ梗塞の原因は?
高血圧による細動脈硬化を基盤に発症します。
少し難しい話になりますが、上のように高血圧により小動脈にヒアリノーシスや血漿性動脈壊死といった変化が起こります。この血漿性動脈壊死により血管が閉塞することによって起こるのがラクナ梗塞です。
ただし上の表を見ていただくとわかるように、同じ血漿性動脈壊死といった変化でに血管が破綻することによって脳出血が起こります。
ラクナ梗塞と高血圧性脳出血は表裏一体であることがわかります。そのため、微小出血とラクナ梗塞は混在するがあります。
また、高血圧はラクナ梗塞だけでなく、主幹動脈〜直径400μmの穿通枝に粥状動脈硬化(アテローム硬化)をきたすことにより、アテローム血栓性脳梗塞の原因にもなります。
また、ラクナ梗塞の原因としては、高血圧以外にも以下のようなものもあります。
- 加齢
- 糖尿病
- 脂質異常症
- 喫煙
ラクナ梗塞の診断は?
- CT検査
- MRI/MRA検査
- 脳血管造影
- 頸動脈超音波検査
などで検査します。
CT検査
梗塞巣の描出を行い、低吸収域を認めます。しかし、CTでは病変が検出できないことも中にはあります。
症例 80歳代男性
たとえば上の画像ですと、両側の基底核や左の視床に多数の低吸収域(黒い抜け)を認めます。いずれも古い梗塞(陳旧性脳梗塞)を疑う所見です。
このように陳旧性のラクナ梗塞の場合は、境界明瞭な抜けとして描出されるためわかることが多いですが、新しい急性期のラクナ梗塞はわからないこともしばしばあります。CTと脳梗塞の見え方についてはこのようになります。
MRI/MRA検査
梗塞巣の描出を行い、高吸収域を認めます。特に、拡散強調像が有用です。
画像診断では、1.5cm以下の小病変を認めます。
しかし、アテローム血栓性、心原性の原因がある場合でも、初期にはラクナ梗塞で発症し進行することがあるため、脳主幹動脈の狭窄や心原性脳梗栓の可能性を否定することが重要です。
症例 60歳代男性 陳旧性脳梗塞フォロー(新規の症状はなし)
MRIの横断像の画像です。
拡散強調像で右の被殻に異常な高信号を認めています。
ADCの信号低下を認めており、新しい脳梗塞であることがわかります。
T2強調像で高信号を示しており、急性期以降の新規ラクナ脳梗塞と診断されました。
症例 50歳代男性
MRIの拡散強調像(DWI)で左の頭頂葉深部白質に異常な高信号を認めており、新しいラクナ梗塞を疑う所見です。
こちらの画像を動画で見てみる。
症例 50歳代 男性
一方でこちらの症例ではMRIの拡散強調像(DWI)では異常な高信号は認めていませんが、FLAIR像では、左の放線冠に異常な高信号あり。
古い(陳旧性の)ラクナ梗塞を疑う所見です。
症例 70歳代 女性
この症例も、右の被殻にFLAIR像で縁取りが高信号の抜けを認めています。
陳旧性ラクナ梗塞としてフォローされています。
脳血管造影・頸動脈超音波検査
狭窄・閉塞がないことを検査で確認します。
ラクナ梗塞の治療法は?
薬物療法が基本で、症状の改善、再発予防が大切です。
急性期の治療と、慢性期の治療に分けてご説明します。
急性期の治療
- 血栓溶解療法
- 抗血小板療法
- 抗凝固療法
- 危険因子の管理
を行います。
血栓溶解療法
発症後4.5時間以内であれば、アルテプラーゼによる経静脈的血栓溶解療法の適応を満たします。
抗血小板療法
急性期の再発予防として行われる治療法で、オザグレルナトリウムが第一選択薬となります。また、アスピリン投与のエビデンスもあります。
抗凝固療法
抗血小板療法だけでは改善しないケースでは、低用量ヘパリンによる抗凝固療法が行われることもあります。
危険因子の管理
高血圧・糖尿病・脂質異常症・心疾患など、危険因子となる疾患の治療を徹底し、管理することも大切です。
慢性期の治療
- 抗血小板療法
- 危険因子の管理
を行います。
抗血小板療法
シロスタゾールが再発予防に用いられます。また、アスピリンやクロピドグレルの使用も適用となっています。
危険因子の管理
危険因子となる疾患の治療徹底と共に、リハビリテーションも重要です。