日本肺癌学会肺癌診療ガイドライン(2003年、2005年それ以降はまだ改訂なし)

  • 候補病変の検出
  • 質的診断
  • 病期分類

についてまとまっています。

まずは病変をいかにピックアップするかです。まずはレントゲンとCTです。

候補病変の検出

胸部レントゲン

  • 胸部写真・喀痰細胞診による検診受診群の肺癌死亡率の有意な減少を証明できなかった。(Humphery LL, et al.Ann Intern Med 2004;140:740-753)
  • しかし、日本からの報告では、肺癌検診による肺癌死亡リスク減少効果はありと報告された。(金子班、岡山、新潟、宮城において)
  • これを踏まえて2006年厚生労働省祖父江班から、
    ・ハイリスク群でない群に胸部レントゲン
    ・ハイリスク群に胸部レントゲン+喀痰細胞診

は推奨グレードB(死亡率減少を示す相応な証拠あり)と発表された。ただし、撮影精度管理、読影精度管理(二重読影、比較読影)が前提。

CTはどうか?

  • CTを肺癌検診に用いると、単純写真の検診の約5倍程度の検出率で肺癌が発見されると報告されている。しかもそのほとんどがⅠ期の肺癌という初期のものである。
  • しかし被ばくの問題と、十分な証拠がないとして、厚労省(2006年)は推奨していない。集団検診では行なわない。任意なら大丈夫。
  • 効果が不明瞭であること、被ばく、過剰診断などの問題について説明が必要。通常線量のCTは行わない。
  • そして、National Lung Screening Trial(2010)で低線量CTが肺癌死亡率を2割減らせたと報告あり。ただし、費用、被ばく、読影の問題あり。

肺癌ガイドライン

  • 肺癌の検出方法には、胸部レントゲン、CT、腫瘍マーカー、喀痰細胞診などがあり、単独あるいは組み合わせて用いることが強く勧められる(グレードA)
  • 胸部レントゲンは肺癌検出のために用いることが強く勧められる(グレードA)
  • 肺癌検出を目的として、あるいは胸部レントゲンで異常がある場合にCTを行なうことが強く勧められる。(グレードA)
  • 胸部レントゲンでの偽陰性(あるのに見落とす)を知る必要がある。
  • 胸部レントゲンで末梢型肺癌が見つかった場合、4-12ヶ月前のレントゲンで54%、12-24ヶ月前のレントゲンで28%、24ヶ月以上前のレントゲンで8%以上描出されていた(=見落とされていた)。しかも、この報告では2−3人の胸部放射線科医、呼吸器内科医が行い、過去との比較読影も行なっていた。(Muhm et al .Radiolody 1983;148:609-615)

これって衝撃の報告ですよね。やっぱりレントゲンは難しいですね。これからわかることは、精度管理を行なっても肺癌の偽陰性は起こるということ。

▶以上より、偽陰性になりやすい(=あるのに見落とす)肺癌の性格は以下。

  • Tumor-Lung interface(腫瘍・肺境界)が不明瞭なもの
  • 内部濃度が低いもの
  • 小さい肺癌
  • 上肺野に存在するもの
  • 骨構造、心臓、肺門構造に隠れているもの

 

次に、質的診断、つまりそれが良性なのか悪性なのかをどうやって判断するかということです。これは実際は、かなり難しい=鑑別できないことも多いです。

 

質的診断

肺癌ガイドライン

  • 肺癌の質的診断として、CT(高分解能CT、造影CT)、MRI、PETおよびこれらの画像の経時的比較などの方法を単独ないし組み合わせて用いるよう勧められる(グレードB)
  • 高分解能CT(薄層CT)は行なうよう勧められる(グレードB)
  • 造影CTによる結節の質的診断を行なうよう勧められるだけの根拠が明確でない(グレードC)
  • FDG-PETは行なうよう勧められる(グレードB)
  • 画像による経時的比較は行なうよう勧められる(グレードB)

 

  • 造影CTでは15HU以上染まった場合は、良悪性の鑑別は困難。染まらない場合は良性といえる。
  • PETは悪性病変の診断に高い感度(97%)と中等度の特異度(78%)を持つが、1cm以下の結節ではデータはなく、カルチノイド腫瘍、肺胞上皮癌では偽陰性になることが多い。また肉芽腫の一部は逆に偽陽性となることあり。なので、補助診断としては有用

経時的変化

  • CTの進歩によって、生検が困難な小結節が数多く検出されるようになり、その扱いをどのようにすべきかが大きな問題になっている。
  • 日本CT検診学会から肺結節の判定と経過観察のチャートが出されている。10mm以上のsolid、小さくならないmixed GGO、15mm以上のpure GGOは生検もしくは、手術に持って行く。
このチャートは分かりやすいですね。いつフォローするかまで記載してくれているのでこれを見ながらフォローすればいいですね。
  • ただし、一筋縄ではいかない。腺癌は経過で収縮することがある。一見サイズが小さくなっても癌は否定できない。

病期分類

肺癌ガイドライン

  • 治療方針の決定のために病期診断は必須(グレードA)
  • T因子診断にはCT、MRI、超音波検査、気管支鏡検査などを単独ないし組み合わせて行なうように強く勧められる(グレードA)
  • N因子診断にはCT、MRI、気管支鏡下針生検、FDG-PET、縦隔鏡検査、胸腔鏡などを単独ないし組み合わせて行なうように強く勧められる(グレードA)。

ここからは、英国ガイドライン(PETの比重が非常に高くなっている。)

  • 下頸部〜上腹部造影CTは常に必要(グレードC)
  • 根治的治療を考える肺癌患者のすべてにPET-CTは行なわれるべき(グレードB)
  • PETで陰性の腫大のないリンパ節は陰性と判断して根治的治療に進んでもよい(グレードC)
  • PETで陽性のリンパ節は、縦隔鏡などによる組織採取に進むべきである。(グレードC)

ここからは米国ガイドライン

  • 胸部〜上腹部造影CTは必要(rating 9)。ただし、T3、4の区別は困難。またN因子診断は不正確。
  • MRIはpancoast腫瘍(肺尖浸潤癌)の深達度診断、脊柱管、神経孔の診断に有用。(rating 3)
  • PETはリンパ節診断の正診率が高く、行なわれるべき。(rating 9)
このように日本のガイドラインでは、欧米のようにまだPETに重きが置かれていません。次回改訂されるときは、PETの比重が大きくなるでしょう。
  • 縦隔浸潤は難しい。CTで血管と90度以上接する、血管の壁変形、気管支壁の肥厚などをもって縦隔浸潤とするが、感度は6割、特異度は8割程度と高くない。接していても浸潤しているわけではない。MPR画像をつくってもそれほど診断能は上がらない(sagittalでやや上がった程度)。T因子診断を有意に向上させたというエビデンスはまだない。
やっぱりT因子とくに縦隔浸潤の判断って難しいんですね。少し安心しました。

 

  • N因子のCT診断は、この20年で診断能に進歩なし!!サイズcriteriaを行なっているから。一方でPETは高い感度特異度が報告されている。CTでは、感度/特異度=59%/78%に対して、PETは83%/92%。N因子はPET!!
N因子はPETがとにかく強いということですね。

肺癌ガイドライン 遠隔転移診断(M因子)

  • 肝、副腎転移の検索はCTまたは超音波で行なうよう勧められる(グレードB)
  • 脳転移の検索にはCTかMRを用いるが、術前に全例で行なうよう勧めるだけの根拠が明確ではない(グレードC)
  • 骨転移の検索には骨シンチを用いるが、術前に全例で行なうよう勧めるだけの根拠が明確ではない(グレードC)

ここからは英国ガイドライン

  • 頭部CT、MRIは根治的治療の候補者、とくにⅢ期の患者には行なわれるべき(グレードC)
  • 副腎転移診断はPETが最も優れており、陽性の場合には経皮生検を考慮する(グレードD)
  • PETは骨転移の検出に最も感度が高い。

ここからは米国ガイドライン

  • 脳造影MRIは、症状がある場合、あるいは無症状でも3cm以上の腺癌、縦隔リンパ節が腫大している場合に行なわれるべき(rating 7)
  • 腹部CT、MRは感度は高いが特異度は低い。(rating 5)
  • 骨転移の検索はPETが勝る(rating 9)

 

現状日本では、

  • 脳転移は造影MRI
  • 肝転移副腎転移は造影CT
  • 骨転移は骨シンチ

の傾向にありますが、今後PETの比重が遠隔転移でも増えて来そうですね。

 

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