人工呼吸器の適応、種類、設定、モード

当直中や病棟で、
「マスクで酸素投与してもSpO2が上がってこない!」
「人工呼吸器の装着を考えなくてはならない?でも、適応は?」
「挿管ではなくて、NPPVで凌げないか?」
「人工呼吸器の設定がわからない」

そんなシーンはよくあります。
そこで、人工呼吸器の適応、種類、設定、モードについてまとめてみました。
自分で作って、個人的にもこのページはよく使っています。参考にしていただければ幸いです。
参考記事)人工呼吸管理・看護をする前に確認すべき4つの目的とは?

その前に、呼吸不全とは?

Ⅰ型呼吸不全

高炭酸ガス血症を伴わない低酸素血症 →PaCO2<45 torr

  1. 肺胞性疾患・・・肺炎、心原性肺水腫ARDS
  2. 換気血流不均衡・・・COPD気管支喘息
  3. 肺血管床減少・・・肺塞栓、血管炎 の3つの病態があり、呼吸困難、意識障害、チアノーゼなどの症状を呈することが多い。 呼吸管理としては、十分な酸素化の維持が最も重要。

Ⅱ型呼吸不全

高炭酸ガス血症を伴う低酸素血症。→PaCO2 > 45torr 換気不全が病態。

  1. 中枢からの換気ドライブの低下・・・麻酔、脳幹部梗塞
  2. 神経筋疾患・・・筋委縮性側索硬化症重症筋無力症、ギランバレー症候群
  3. 胸郭コンプライアンス低下・・・後側弯症、flail chest
  4. 肺コンプライアンス減少と死腔の増加・・・肺線維症の末期像

代償反応

呼吸性アシドーシスが進むと、腎が代償をする。
ΔHCO3=HCO3-24 ΔPaCO2=PaCO2-40 とし、
ΔHCO3 =ΔPaCO2×0.1 ならば急性。
ΔHCO3 =ΔPaCO2×0.4 ならば慢性。の代償。
急性ならば、早急に対応。人工呼吸を考慮

急性呼吸不全では

  • 非侵襲的陽圧管理(NPPV)
  • 気管挿管による人工呼吸器(侵襲的陽圧管理IPPV)

といった人工呼吸器を適切に用いて呼吸管理を行うことが重要である。

NPPV

  • 気管挿管を必要としない陽圧換気
  • 主として鼻マスクを用いて陽圧をかけ肺胞換気を補助する人工換気。
  • 挿管下人工呼吸管理方法(IPPV)と効果はそれほど変わらない。

▶NPPVのメリット

  • 気管挿管手技の合併症の回避
  • 人工呼吸関連肺炎(VAP)の減少
  • 一時的にマスクに変えたりできる。
  • 会話、経口摂取が可能。

▶NPPVのデメリット

  • 本人の協力が必要→鎮静薬の使用が難しい。
  • 喀痰吸引が困難。
  • 厳密な設定はできない。

NPPVの適応

  • COPD急性増悪(推奨度A、エビデンスⅠ)、
  • 急性心原性肺水腫(A、Ⅰ)
  • 免疫不全に合併する急性呼吸不全(A、Ⅱ)、
  • 肺結核後遺症の急性増悪(A、Ⅱ)
  • 気管支喘息(B)
  • 間質性肺炎
  • 胸郭損傷(B)
  • 人工呼吸離脱に際しての支援方法(C)
  • ARDS/ALI(C)
  • 重症肺炎(C)

NPPVが施行困難(禁忌)な状況

  • 心停止
  • 呼吸停止
  • 肺以外の重篤な病態の合併
  • 患者の理解協力が得られない場合
  • 上気道の閉塞
  • 咳嗽反射の低下・誤嚥のリスクが高い場合 6.気道分泌物が多く排出が困難な場合

NPPV設定

使用するモードは2

  • BiPAP S/T(spontaneous/timed)モード→高炭酸ガス血症のリスクのある患者で使用。
    (例)COPDや肺結核後遺症などの急性増悪、低酸素血症・高炭酸ガス血症が混在している場合
  • CPAPモード→高炭酸ガス血症を伴わない低酸素血症患者で使用。
    (例)急性心原性肺水腫
BiPAP S/Tモードでの設定
  1. IPAP(吸気圧)、EPAP=PEEP(呼気圧)を設定。IPAP-EPAP=PS(pressure support)圧!!
  2. SpO2が95%以上となる程度のFiO2で当初設定

PaCO2が高いとき:IPAPを高めにしてPSを高値にすることにより分時換気量を増加→PaCO2を下げることができる。

SpO2が低いとき:FiO2を高値としたり、EPAPを上げてPEEPをかける。

CPAPモードでの設定
  1. CPAP圧4~5からスタート。その後、患者状態を見て必要なCPAP圧まで上げていく。
  2. 急性心原生心不全では5~8程度。間質性肺炎急性増悪では必要な圧まで上げるが、気胸のリスクを考え必要最低限の圧とする。

NPPV導入の実際

①NPPVの初期設定を行う。

  • 換気モード:S/Tモード
  • FiO2:SpO2が90%を維持できるように。
  • IPAP8cmH2Oより開始。 換気量、PaCO2を見ながら上昇。
  • EPAP4cmH2O
  • Back up rate:12回/分

②種々のサイズ、タイプのマスクがあるため、患者に一番よくフィットするものを選ぶ。適合するマスクの中では最も小さいものがよい。

③患者に楽な姿勢をとらせる。半座位くらいがよい。

④患者に病状・NPPVの必要性を十分に説明。

⑤はじめはマスクを手で保持し、NPPVがうまくできることを確認。その後ヘッドギアを固定。

⑥失敗した場合、気管挿管への準備・説明をあらかじめしておく。

NPPV効果判定

開始後1時間以内に効果判定をする。

呼吸回数の減少
※20~30回以下が理想。NPPV開始時点よりも減少傾向であれば成功する可能性高い。

血液動脈ガスの評価:PaO2上昇、PaCO2減少、pHの改善

※慢性呼吸不全急性増悪ではある程度の高炭酸ガス血症は許容範囲。
※pHの改善が得られていればよい。
※もしPaCO2改善がなければIPAP圧を2ずつUP。
※PaO2の改善が悪ければ、FiO2をUP or EPAPを1ずつUP。

気管挿管

・NPPVの失敗あるいはNPPV適応外患者で気道確保・呼吸管理が必要な場合に適応となる。

挿管チューブの固定

・チューブ遠位端を気管中間に位置させるための口唇からの距離→14歳以降なら20~22cm。

・口唇から気管分岐部までの距離→男28cm、女24cm

※胸部X線上はチューブの先端が成人では気管分岐部上2~4cmにあることを確認する。

挿管による人工呼吸器管理

呼吸器のモード

①VCV(volume control ventilation:従量式換気)
②PCV(pressure control ventilation:従圧式換気)
③PSV(pressure support ventilation)

①VCV(従量式)

  • 最も一般的に用いられている基本モード。
  • IPPV(intermittent positive pressure ventilation)の一つ
  • 自発呼吸が弱いか消失している成人に。
  • 1回換気量と換気回数を設定。単純明快。
  • 1回換気量は6ml/kg以下と低くする。
同調しにくくなった場合

①鎮静・鎮痛薬・筋弛緩薬を投与 or
②換気モードをSIMVやPS、SIMV+PSなど患者が同調しやすい設定にする。

  • 1回換気量:10ml/kg
  • 呼吸回数:12~15回/分
  • 酸素濃度(FiO2):100%
  • I/E(吸気/呼気時間)比=1:1.5~2
    ※吸気時間1~1.5秒
  • 吸気休止時間:1呼吸時間の10%
  • PEEP:0~5cmH2O
  • 気道内圧上限:40cmH2O

※自発呼吸があればSIMV(synchronized intermittent mandatory ventilation)にする。

※SIMV:自発呼吸で生じる陰圧をトリガーとして設定された呼吸回数分換気を行うモード。自発呼吸が20回/分あっても、呼吸器の設定が12回/分であれば自発呼吸に合わせて12回/分強制換気する。

②PCV(従圧式)

  • 自発呼吸が弱いか、消失している成人に。
  • PCVでは吸気流速は立ち上がりが速く、速やかに設定された最高気道内圧に到達。
  • 気道内圧(PC圧)と呼吸回数(吸気時間)を設定することで、1回換気量が規定される。
  • 換気量を増加させるには、
    ×呼吸回数のみUP(吸気時間↓→換気量↓)
    PC圧のみUP

※VCVでは換気量を上げたければ呼吸回数を増やすだけでよい。

  • 吸気圧:10~20cmH2O
  • 呼吸回数:12~15回/分
  • I/E(吸気/呼気相)比=1:1.5~2
  • 酸素濃度(FiO2):100%
  • PEEP:0~5cmH2O
  • 気道内圧上限:40cmH2O

※自発呼吸があれば、自発呼吸に同調するPSV(pressure support ventilation)にする。

※PEEP:呼気相に陽圧をかけて、肺胞虚脱を防止して肺内シャントを減少させ、酸素化を改善。胸腔内圧が上昇して心拍出量が低下する。

 ③PSV

  • 患者中心の換気モード。回数も量も患者次第。
  • 自発呼吸はあるが、1回換気量が少ない場合や、努力呼吸が強い場合に使用する。
  • 患者の自発呼吸の開始に同調し、設定した一定の気道内圧を加えて吸気終了までサポート。

新しい呼吸モード

PRVC(pressure regulated volume controlled ventilation:圧補正従量式換気)
  • 換気様式はPCV
  • 1回換気量を設定する(←PCVの欠点をカバー)
  • 吸気圧は設定した1回換気量が得られる最低圧になるように短時間にフィードバックを受けて調節される。
  • PCVはtime cycleで行われる。
PEEP(positive endexpiratory pressure:呼気終末陽圧)

PEEPをかけると、

  • 呼気終末を常に陽圧に保ち、機能的残気量↑
  • 肺コンプライアンスが改善
  • 酸素化が改善
  • 心拍出量が低下する場合もある。

※かけすぎ注意。輸液負荷により対応。

一般的な人工呼吸器の初期設定

  • FiO2:1.0
  • PEEP:2~5cmH2O程度
  • 換気モード:SIMV(+PS)
    1回換気量:10(8~12)ml/kg
    I/E比:1:2~1:3
    吸気流速:30(~70)L/分
    流速波形:矩形波、減衰波
    呼吸回数:12(10~20)回/分(機械回数)
  • 圧支持(PS):10cmH2O
  • トリガー:-1~-2cmH2

※FiO2を1.0のまま長時間管理を行うと、高酸素による障害も出現してくるため、徐々に下げFiO2は0.6以下が望ましい。

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